cookpad news
コラム

飲んだ後のシメに食べる!?「パフェ」が大人の間でブームな理由【あの食トレンドを深掘り!Vol.10】

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

子どもから大人向けになったスイーツ、「パフェ」

小学生の頃、家族で行った百貨店食堂で、私が頼んだチョコレートパフェだけなかなか来なかったことがある。
両親はおしゃべりに夢中で気づかない。妹は自分が頼んだアイスを一心に食べている。隣のテーブルの真ん中に置かれたまま、誰も手をつけないチョコレートパフェが、きっと私が頼んだものに違いないのに、子供の悲しさで何も言えない。ようやく母に「私のパフェが来てない」と言う。驚いた母がウエイトレスに声をかけ、家族の皿が空になる頃ようやくチョコレートパフェは届いた。チョコのソースとアイスの甘さが切なかった。飾ってあったプルーンだけは苦手で、残したのを覚えている。

そんな思い出があるせいか、パフェは子どもの食べもの、と大人になってからはあまり注文しなくなった。底に入ったスポンジやコーンフレークなどが、せっかくさっぱりさせた口の中を、また水分が欲しくなる感じで終わらせてしまうのが嫌だったこともある。

ところが近年、パフェは驚くほど進化し、すっかり大人のスイーツとして市民権を得た。底にあるのもケーキやフレークではなく、ジュレというパフェもある。フルーツ店が開くカフェでは、自慢の旬のフルーツを載せたパフェを販売する。ビジュアルや味を計算しつくした、芸術品みたいなものも登場している。テイクアウトできる、シンプルバージョンのパフェまである。

大人がパフェに惹かれるワケ

パフェが大人の食べものに進化した原因は、三つ考えられる。

一つは、札幌から、「シメパフェ」の文化が東京に上陸したこと。シメパフェとは、飲んだ後の締めにパフェを選んで食べること。実行するには、夜遅くまでパフェを提供する店が開いていなければならない。 WEBマガジン『北海道ファンマガジン』2018年4月17日配信の「シメパフェ文化はなぜ札幌に根付いたのか?仕掛け人に聞くそのルーツ」によれば、2014年にカフェの展開を始めたクリプトン・フューチャー・メディアが「札幌パフェ推進委員会」を設立し、他店と協力して翌年からシメパフェブームを仕掛けたことで広がった。

その流行が東京で話題になったのは2年後。『マツコ会議』(日本テレビ系)の2017年3月25日放送回で、札幌のシメパフェが話題となり、この年に東京でもシメパフェを楽しめる店が登場している。飲んだ後のパフェは当然、大人が食べるものであり、大人を満足させる組み合わせが工夫されることになる。

また、10年ほど前から「スイーツ男子」という言葉が流行り、1人でスイーツ店に入り楽しむ男性が目立つようになった。言葉ができると周囲も受け入れやすくなるので、男性が甘いものを楽しむことを恥ずかしいとする風潮は薄れてきている。

背景にあるのは、少子化が進んだことにより、子供向け商品の市場が小さくなり続けていることだ。スイーツの世界では、大人向けの商品開発が続けられている。その結果、スイーツはときにマニアックに、ときに高級品にと進化を続けている。そんな中、パフェだけが例外でいられるはずはなかったのである。

パフェの魅力は、さまざまな味わい、食感、色のスイーツを組み合わせてつくるため、多彩な味や食感、ビジュアルを楽しむことができる点にある。冷たいアイスや常温のクリームなど、温度帯も一つではない。味の変化やバリエーションを楽しむだけでなく、透明な器から見える全体像の美しさをめで、撮影して保存し、あるいはSNSに投稿して仲間と語り合うこともできる。 

パフェの味の魅力は、スイーツの代表、生ケーキと比べるとよくわかる。生ケーキは、さまざまな食感や味、色の層が一つの塊になっている。できれば一口で、さまざまな層を同時に口の中へ届けることで、多彩な味とそのコンビネーションを楽しむ。

しかし、パフェはいろいろな大きさや形の具材が層を成す。その味を一つずつ順番に楽しむ。どれから食べるか選ぶ。あるいは、思い切ってスプーンを器に深く突っ込み、同時にいくつかの味を楽しむこともできる。作るほうも食べるほうも、ケーキより自由度が高いのである

並べるだけなら自宅でも手作りできそうだが、アイスクリームにジュレに下ごしらえしたフルーツに、と案外手間がかかる。手軽に作るならアイスなどの市販品を加えるといいし、腕に覚えがある手作り好きなら、オリジナルの組み合わせを開発して一から作るのもいい。いろいろな楽しみ方ができるスイーツと言える。

冷たいスイーツが夏限定だった時代は去り、今や好きな人は暖かい服装をして、暖房を効かせた部屋で冷たいスイーツを楽しむようになった。そうした通年スタイルが珍しくなくなったことも、もしかするとパフェの進化に貢献しているのかもしれない。

阿古真理(あこ・まり)

©坂田栄一郎
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。

 

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。

関連する記事
【保存法】ゆずは「まるごと冷凍」が正解!長持ちするためのポイントは? 2023年11月28日 15:27
一体なぜ?香港のドンキで日本の「たまご」が爆売れする理由 2023年11月01日 18:00
思い立ったらすぐ作れる!ハロウィンにぴったりの簡単おやつレシピ 2023年10月27日 12:00
「きのう何食べた?」にも登場。庶民の味方「のり弁」が高級化した理由 2023年10月31日 19:00
カップ麺に生クリームがメーカー推奨!?日本じゃ見かけないアメリカの「カップ麺」を現地レポート 2023年11月21日 20:00
加熱もゼラチンもなしで固まる!材料3つ「柿プリン」 2023年10月31日 09:00
プリンもケーキもおまかせ!秋の味を楽しむ柿スイーツ 2023年11月21日 15:00
今は「クセつよ」が人気。チーズケーキが日本人に愛されるようになったきっかけ 2023年11月28日 19:00
甘じょっぱ味やパンの耳でも!「進化系フレンチトースト」レシピ3選 2023年11月21日 21:00
X'masの定番◎生姜チューブでつくる「ジンジャークッキー」 2023年12月08日 10:00
生春巻きだけじゃない!「ライスペーパー」がSNSで大バズりした理由とは? 2023年11月29日 04:00
見た目も味も大胆に変化した「進化系クロワッサン」に心奪われる人が続出! 2023年11月29日 04:00
新感覚のスイーツに変身!2024年大注目の野菜は「とうもろこし」 2023年11月29日 04:00
大手コーヒーチェーンにも登場。大人かわいい「モノクロスイーツ」 2023年11月29日 04:00
世界が日本の「和紅茶」を絶賛!ビール・コーラに続くクラフトブームはコレ 2023年11月29日 04:00
本場イギリスでは食べ方で論争が勃発!奥深い「英国式スコーン」の世界 2023年11月29日 04:00
衝撃の甘さを体験してみた!手作りでも缶詰でも楽しめる「グラブジャムン」 2023年11月29日 04:00
渋谷からブームに!若者たちに「いちご飴」が人気の理由 2023年12月27日 19:00
オーブン不要で簡単かわいい!クリスマスに作りたい「スコップケーキ」3選 2023年12月13日 21:00
SNSで大注目!世界一甘いあのお菓子を「米粉」で作ってみた結果… 2023年12月11日 12:00
アメリカの意外な場所で見つけた「スターバックス」激レア商品や裏メニューを現地レポート! 2023年12月22日 20:00
アイスにかけてもおいしい⁉️ドン・キホーテの「かける紅生姜」実食レポ 2023年12月10日 20:00
新感覚…ヤマザキ「薄皮クリームパン」の最高においしい食べ方を発見 2024年01月07日 18:00
飲み物?食べ物?「インスタントコーヒー」の新しい味わい方 2024年01月21日 11:00
卵焼き以外でも大活躍!「卵焼き器」で簡単スイーツ 2024年01月19日 06:00
フルコース料理に進化!?日本のとんかつが外国人旅行者に人気の理由 2024年01月31日 20:00
人気のアイスで作るケーキレシピに注目!2023年12月に最も読まれた「スイーツ」の記事は?【月間ランキングTOP5】 2024年01月10日 22:00
コーヒーに◯◯をちょい足しがウマい!2023年12月に最も読まれた記事は?【月間総合ランキングTOP5】 2024年01月13日 22:00
話題のモノクロスイーツを手軽に楽しむ!黒ごま&バナナのジュースを作ろう 2024年01月18日 12:00
セブンイレブンカフェで紅茶がスタート!淹れたての110円紅茶は鬼リピート確実 2023年12月05日 10:00
いつもの味にちょい足し!ハマる「大人味の味噌汁」 2024年02月01日 11:00
発見!バナナに「意外なアレ」をかけてみたら旨すぎた 2024年02月18日 07:00
炒める以外も旨い!「豚こま揚げ焼き」はネギだれでどうぞ 2024年02月25日 10:00
混ぜてレンチンするだけ!冷凍もおいしい「ひとくちチョコムース」 2024年02月28日 13:00
りんごの変色防止ワザが注目ナンバーワン!2023年に多く読まれた「裏ワザ」の記事は?【年間ランキングTOP5】 2023年12月29日 10:00
専門店が続々登場!定番の「おにぎり」がブームになった理由 2024年02月21日 19:00
市販のお菓子が大変身!子どもと一緒に作れる 「リメイクチョコスイーツ」5選 2024年02月08日 21:00
ふわっと食感で新しいおいしさ!業務スーパーの「冷凍チョコトリュフ」実食レポ 2024年02月21日 12:00
ちょこっと食べたいときに便利!ご飯に入れてもおいしいドン・キホーテの「ひとくち焼き芋」実食レポ 2024年02月13日 20:00
スターバックスのバレンタインはまるでモノクロ!?チョコとホワイトチョコのオペラ フラペチーノが登場! 2024年01月19日 14:00
そのまま飲むだけじゃもったいない!「ヤクルト」の楽しみ方 2024年03月11日 07:00
春巻きの皮でパリパリ&サクサク!のせて焼くだけ「春巻きピザ」 2024年03月27日 17:00
幸せ気分になれる!2層のアイスミルクティー 2024年03月31日 09:00
スパイスカレー、生クリームがてんこ盛り…東京でうどんが独自の変化を遂げていた 2024年03月23日 16:00
グラブジャムンだけじゃない!注目の「インドアフタヌーンティー」を編集スタッフが体験してきました 2024年03月30日 14:00
甘み&コクのケチャップだれが決め手!フライパンで作れる「玉ねぎのチーズ焼き」 2024年04月01日 10:00
片栗粉がサクほろおやつに変身!?3月に最も読まれた「スイーツ」の記事は?【月間ランキングTOP5】 2024年04月10日 22:00
夏に向けてブームの予感!いちご飴が進化した新感覚スイーツ「アイスタンフル」って? 2024年04月05日 05:00
英国のスコーンが進化!SNSで人気のかわいすぎる「韓国風スコーン」 2024年04月05日 05:00
クリームチーズのような濃厚さ!美容系インフルエンサーが注目の「グリークヨーグルト」 2024年04月05日 05:00