おいしいお茶を淹れられるようになりたい。大切な人に心をこめておいしいお茶でもてなしたい。そう思ったとき、おいしいお茶とは、どんなお茶なのだろうと考えました。
こんなお話があります。かつて、長浜城主だった豊臣秀吉が、鷹狩りの途中に喉が渇き、お寺に立ち寄ったときのこと。寺の小坊主にお茶をもらいたいと頼んだところ、その小姓は、大ぶりの茶碗いっぱいにぬるめのお茶を淹れて差し出しました。秀吉はこれを一気に飲み干して、もう一杯頼みました。小姓は、今度はやや小さめの碗に、やや熱めにしたお茶を淹れて差し出しました。秀吉は、これをゆっくりと飲み干し、さらにもう一杯頼みました。すると、小姓は、小ぶりの碗に熱く点てたお茶を差し出しました。三杯目を飲み終えた秀吉は、その小姓を呼び寄せ、どのような気遣いをしたのか尋ねました。
「一杯目はとにかく喉が渇いておられるだろうから、一息で飲み干せるようにぬるくして、量もたっぷりにいたしました。二杯目もまだ、喉の渇きはおさまっていないようでしたが、一杯目ほどでなかろうと、やや熱くしました。三杯目は喉の渇きもなくなり、おいしいお茶を望んでおらえるはずだと、熱く濃いお茶を入れてまいりました」。
喉の渇きを推測して、温度を変えてお茶を差し出す。相手の様子を見て、その欲するものを出す。この心遣いに感動した秀吉は、小姓を城に連れて帰り、家来としたと言います。
飲んだ人が、思わずにっこり微笑んでしまうお茶。それこそがおいしいお茶の味なのです。それはもてなす相手への自分の精一杯であり、心底思いやる気持ちが大切なのです。
煎茶を淹れてみましょう。はじめに湯を沸かします。沸騰したら、沸かした湯を急須いっぱいに入れます。急須は、片手で扱えるくらいの大きさで、底が平らで広いものがよいでしょう。あらかじめ急須を温めておくことで、淹れている間にお茶が冷めるのを防ぐことができます。
急須の注ぎ口から湯をこぼし、湯を捨てます。一度湯通しすると、茶渋が付着しずらくなります。
沸いたお湯を人数分の湯のみにとりましょう。七分目くらいでしょうか。湯のみは、出来れば白磁がよいでしょう。青磁は、その器の色から、うすく入れても濃く見えてしまいます。また、一杯飲んだだけでお腹がいっぱいになってしまうような、たっぷりとした湯のみでなく小さめのものを選ぶとよいでしょう。
急須に茶葉を入れます。一回に使う茶葉の目安量は6グラム。カレー用スプーンおよそ一杯分です。葉を崩さないよう、静かに入れましょう。
急須をかるく左右にふって、小山になった茶葉を平らにならしたら、茶葉がヒタヒタにひたるくらいに、少しだけ湯を入れます。
フタをあけた状態でしばらく待ちましょう。すると、湯気があがって、変化が出てきます。ここが勘所。茶葉が湯を吸ってふくらんで、先端がところどころ顔を出してきたら、うま味を出す準備ができた合図です。
湯のみにとった湯をすべて急須に入れて、フタをします。やさしく急須を傾けて、ゆりかごを揺らすように湯のみへ注いでいきます。このとき、お茶の量、濃さが均一になるように、湯のみを往復させながら、少しずつ注いでいきます。さいごの一滴は、急須をふらず、ポタポタと自然に落とします。それから湯のみごとに分けながら注ぎましょう。
煎茶は三煎(さんせん)で味わうとよいとされています。湯のみになみなみ注ぐということはせずに、自分がそのとき飲める量の三分の一を注いでいただいたら、次の二煎目、三煎目、というふうにいただきます。
たっぷりした湯のみに一気に注いでしまうと、その分つぎ足す手間が省けるかもしれませんが、どうしても大味になってしまいます。途中で飲まなくなってしまうのはもったいないことですし、一服で飲むより、三回に分けて飲んだほうが満足度が高くなるのです。
一煎目はコクのあるうま味、二煎目はすっきりとした渋み、三煎目は香りというふうに、三煎三様の味わいの変化を楽しむことが出来ます。お茶の淹れ方の基本が分かっていれば、相手の好みに味を淹れ分けて、その違いをたのしむことも出来るでしょう。
おいしいお茶を淹れる。それはすなわち人を思うこと、人との関わりを育てることだとわかりました。
協力:大山拓朗(しもきた茶苑大山) 文:田中真唯子 動画: 元家健吾
※こちらの記事は、ウェブサイト「くらしのきほん」内でも読むことが出来ます。この他にも、家事や料理、学びなど、暮らしに役立つ情報を、毎日ご紹介しています。
『くらしのきほん』は、食を中心に、暮らしの基本を学び、楽しみ、基本の大切を分かち合うウェブサイトです。時代が過ぎても、決して古びない、価値のある、暮らしの知恵と学びを発信していきます。
>>>『くらしのきほん』のサイトはこちら