「よくかんで食べなさい」と誰もが言われて育ってきたことでしょう。それは、よくかむことにはさまざまな効用があるからです。消化を助けるのはもちろん、しわやたるみ、アンチエイジングにも効果的。子どもから大人まで大切にしたい「咀嚼(そしゃく)」のお話です。
戦前、日本人は1回の食事に平均22分かけ、1420回かんでいたのだとか。現代は、食事時間は11分と短くなり、かむ回数は620回にまで減少。日本人はどんどんかまなくなっています。
「その原因の大きなひとつが、ハンバーガーなどのファストフード、カレーライスや丼物など、かまなくても食べられる食事の氾濫です。一人ぼっちで食べる、テレビを観ながら食べる、といった食生活もかむ回数を減らしてしまいます」と語るのは、鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授です。
「咀嚼をじゅうぶんにおこなえば、咀嚼そのものが持つ効用と、咀嚼によって分泌される唾液が持つ効用、この2つの利点が得られます」
かむことで得られるさまざまな効用。その一例を斎藤先生に挙げていただきました。
歯ごたえや舌触りの味覚センサーが働き、よりおいしく感じることができる。
かむことであごが発達し、丈夫な歯が生え、歯並びよく育つ。
食事時間が長くなるため、食事中に満腹中枢を刺激されて食べすぎを防ぐ。食事前にガムをかむと食事量が2~3割減るというデータも。
よくかむことで表情筋が鍛えられるほか、全身の筋力アップにも効果的。
かむことが脳への直接的な刺激となる。かむことで分泌される唾液に脳の老化を防ぐ物質が含まれる。
よくかむことで副交感神経が優位になり、精神面でリラックスできる。
そのほかにも、正しい姿勢の維持、視力や聴力の維持・改善、高齢者の転倒防止などにも効果的だそうです。よくかむ効用、おそるべし!ですね。
かむことで得られる効用はわかりました。さらに大切なことは、実際にかんでみること。今日から取り入れられる“かむ環境づくり”のヒントを斎藤先生にうかがいました。
虫歯や歯周病は歯科医を受診。義歯はきちんと手入れをして物をかめる環境をつくる。
テレビを消して、家族で食卓を囲む。箸置きを使うなどして一度手をとめて噛む習慣を。
根菜類や豆類、海藻、タコやイカなど、かみごたえのある食材を取り入れる。飲み込む時に水分で食べ物を流しこまない。
食べ物がおいしく感じられ、美しさをキープし、脳も心身も健やかになる。いいことずくめの咀嚼健康法、ぜひ家族みんなで心がけたいですね!(TEXT:大森りえ/ライツ)
鶴見大学歯学部教授。日本抗加齢医学会副理事長。 超高齢社会における新たな歯科医療の展開を実践。著書『口からはじめる不老の科学』(日本評論社)など著書多数。