緊急事態宣言の発令以降、自宅で過ごす時間が長くなるにつれ、お菓子やパンを手作りする人が増えてきている。とはいえ、これまで料理はしてもお菓子はハードルが高くて作ったことがないという人も多いのでは? そこで、30冊以上の著作を持ち、自他共に認める「手作りお菓子オタク」のお菓子研究家・福田淳子氏に、お菓子作り初心者でも今すぐ試してみたくなる、失敗なしのおいしいスイーツレシピを紹介してもらった。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちの生活にたくさんの影響が出ています。家で過ごす時間が長くなり、外に出る機会が減ると、生活もワンパターンになりがちです。脱マンネリに効くのは、やはり新しいことへのチャレンジ。私はこんな時こそ、多くの人に「お菓子作り」にトライしてみてほしいと思っています。
お菓子は日々の食事とは違い、多くの人にとって必ずしも必要なものではありません。確かに栄養という面では、お菓子の存在は低く評価されるでしょう。でも、お菓子には人の心を癒やし、明るく楽しい気持ちにし、ほっとさせてくれる力があると思いませんか? お菓子は人の心を豊かにしてくれる「心の栄養」なのだと私は常々思っています。
お菓子作りは難しくて、特別な材料と道具が必要と思われがちですが、そんなこともありません。手軽にできる、簡単なメニューもたくさんあります。やったことがない、またはあまり得意じゃない、そんな人でも思わずチャレンジしたくなる、とっても簡単で、でもとってもおいしいデザートを1つご紹介しましょう。
いちご…300g(約1パック)
砂糖…大さじ1〜2
いちごはヘタを取って、縦半分に切り(大きければ1/4に切る)、ボウルに入れる。砂糖を加えて軽く混ぜ、冷蔵庫で1時間以上冷やす。
……これだけで出来上がりです。簡単でしょう? 砂糖を加えると浸透圧の力が働き、水分が出てきてソースのようになります。マリネしたいちごはツヤツヤに輝き、見るからにおいしそう。ちょっと傷んでいるおつとめ品も、酸っぱいハズレのいちごも、この方法ならばおいしいデザートに大変身です。
家に洋酒やワインがある人は、お好みで大さじ1ほど加えると一気に大人の味に。酸っぱいのが好きならば、レモンなどの柑橘類の絞り汁を小さじ1程度加えます。そのまま食べてももちろん、ヨーグルトやアイスにのせてもおいしくいただけます。
何よりも、自分で作ったデザートは何だかとってもおいしいものです。私は、冷蔵庫で冷やしたり、オーブンで焼いたりする間の、この「待つ」という行為がおいしさを増してくれる気がします。ごはんのおかずにはない、デザートにだけある、何だかわくわくして楽しい気持ちになる時間。作る人はもちろん、食べる人も幸せにしてくれる、これこそがお菓子の力だと思っています。
さて、いちごのマリネでお菓子作りがちょっと楽しいなと思えてきたら、お次はこんなレシピはいかがでしょう? イギリスで「パンケーキデイ」に作られるクラシカルなパンケーキです。レモンを添えていただくのが本場風ですが、こちらのレシピではオレンジジュースを使ってソースを作ります。アイスクリームを添えれば、とっておきのデザートになりますよ。
☆薄力粉…50g
☆グラニュー糖…小さじ1
☆ベーキングパウダー…小さじ1/3
卵…1個
牛乳…140ml
バター…20g
グラニュー糖…小さじ2
<トッピング>
オレンジジュース(果汁100%のもの)…200ml
バニラアイス、粉砂糖…適量
1.ソースを作る。オレンジジュースを煮詰めて半量にして冷やしておく。
2.ボウルに☆を入れる。別のボウルに卵と牛乳を入れて混ぜて、☆の入ったボウルに少しずつ混ぜ加えていく。
3.フライパンを熱し、バターを溶かし入れ、2に混ぜ加える。
4.フライパンを熱し、生地をお玉1杯分入れて広げ、両面を焼く。残りの生地も同じように焼く。1枚につき、小さじ1/2のグラニュー糖をパンケーキの裏面全体に振りかける。端からくるくる巻いていく。これを4本作る。
5.パンケーキを皿にのせて、ソースをかけ、粉砂糖をふり、アイスを添える。
「お菓子作りは難しい」とよく言われます。料理が肉や魚、野菜などの“素材”を扱うのに対し、お菓子は粉やバターなどの“材料”を変化させなくてはなりません。また、料理の失敗が「ちょっと味が濃かったな」「固くなった」「少し焦げた」など、食べられる許容範囲内のものが多いのに比べて、お菓子は「膨らまない」「分離した」「固まらない」とリカバリー不能のものが多いのは確かです。
でも、お菓子は「化学変化」を利用するので、コツを押さえると必ずうまくいきます。理論がわかれば、100%成功するのです。
例えば、ケーキ作りの基本ともいえるスポンジケーキ。成功させるコツは、卵を泡立てる際の温度管理にあります。実は、少しの温度の違いで仕上がりが大きく変わってしまうのです。
スポンジケーキが膨らむ仕組みは、卵を泡立てることで生地内部に気泡を含ませ、それが過熱されることによって体積が大きくなるから。ですから、ふわふわのスポンジを作るには、しっかり泡立てる必要がありますが、冷たい卵はなかなか泡立ちません。よくお菓子の本には「人肌くらい」と書いてありますが、これを自分の体感で計るのは難しいものです。逆に、卵の温度を上げれば泡立ちはどんどんよくなりますが、とはいえ上げすぎてもやっぱりダメ。40度を超えると泡立ちすぎてキメが荒くなってしまいます。
私自身、何度も試作を重ねてたどり着いたのは、卵の温度は36度(寒い時期は38度)。そして、泡立てる時の湯せんの温度は50度前後。湯の温度が高すぎると、卵の温度が一気に上がり、泡立ちがまた変わってしまうのです。
こうして家庭で焼くのに適切な温度帯がわかってからは、温度計を使い、しっかりと温度を管理することで、いつでも同じクオリティーのスポンジケーキが焼けるようになりました。
お菓子作りは、レシピが複雑になればなるほど、手順を確認し、材料を的確にそろえ、集中して取り組む必要があります。でも、そうやっていくつものタスクを経てお菓子を完成させると、何とも言えない充足感を感じられるはずです。
作る時のワクワク、心地良い集中、クリエイティブな楽しみ、完成した時の達成感、食べた時のおいしさ、みんなでお菓子を囲む和みの時間……。お菓子作りには、いろんな幸福感が詰まっています。疲れが溜まりやすい今の時期だからこそ、お菓子を作って、食べて、自分自身を癒してあげてくださいね。
本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が増えています。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、さまざまなジャンルの「食オタク」たちから、今こそ使える“自炊の知恵”を学ぶ連載を不定期で配信。おうち時間を楽しく、有意義に過ごすためのヒントを探ります。
お菓子・料理研究家。カフェでメニュー開発や店舗の立ち上げを経験後、雑誌や書籍を中心に活躍中。身近な材料と、シンプルな手順で美味しく仕上がるレシピに定評がある。これまでに手がけたお菓子の本は30冊以上。クックパッドニュースのオフィシャルコラムニストとして、『材料4つで本当においしいお菓子』と『おうち時間を楽しむお菓子』を連載中。
【Instagram】@junjunfukuda