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【#自宅より愛をこめて】巣ごもりライフに最適! 料理トレンド研究オタクが勧める旬の「炊飯器調理レシピ」とは?

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

自宅で過ごす時間が増え、毎日の自炊に疲れてきたという人も少なくないだろう。そんな時、料理の負担を軽くしてくれる時短料理の存在はありがたい。時代時代の料理のトレンドをウォッチしている生活史研究家の阿古真理氏は、今ブームの「炊飯器調理」に注目している。同氏が、巣ごもり生活の中で密かに楽しんでいる、旬の炊飯器調理でつくる料理の負担を軽くする時短料理とは?

最近、炊飯器にコメと一緒にほかの食材も入れて炊き、おかずを作るプロセスを省く時短レシピが流行っている。

特に、台湾企業の大同電鍋は優れものだ。2018年に生活情報誌『Mart』(光文社)で取り上げられた後、2019年秋に開業した日本橋誠品書店でも販売され、人気を集めている。中に蒸し皿を入れられる二重構造のこの炊飯器を使えば、食材をご飯にまみれさせることなく、蒸し料理を作れる。

今年発売された『自炊のトリセツ』(小田真規子、池田書店)にも、炊飯器調理の章で、鮭の切り身、プチトマト、ズッキーニを一緒に蒸した後、味つけ調理し、「切り身魚のトマトソース」「ズッキーニマリネ」「カレーピラフ」を仕上げるといった料理法を紹介している。1つの鍋で2つ、3つの料理を同時並行でつくり上げるレシピは、家庭料理研究家の奥園壽子さんが昔紹介していたが、炊飯器でもそれができるなんて。

「炊飯器調理」も今ブームの時短料理の一つ

そういうわけで、蒸し器としての炊飯器は今、注目の調理家電である。たいていの家にあり、日本の食文化の中心にあるご飯の道具で、刷新が起こる。和食の進化を促す可能性があるという面からも、この流行は興味深い。

料理のトレンドに注目する私は、食文化を社会背景と合わせて研究する生活史研究家。特に現代史が専門なので、同時代をチェックすることも必要だ。

例えば、2006年公開の映画『かもめ食堂』あたりから、物語に登場する料理を軸に展開する映画やドラマが増えてきた。その勢いは今も止まらず、何シリーズも続く『孤独のグルメ』などの名作も生み出している。

食を軸にした物語が増えた背景は2つ考えられる。1つ目は、ライフスタイルが多様化した人たちに共感できるポイントが、食にしかないかもしれないこと。2つ目は、昭和のように濃密な人間関係を描くドラマが減っていることと関係していて、関わりが希薄になった時代に人と確実に接点を持てるのは、食べる場面だということだろう。

ジェンダー研究も行っているので、女性と料理の関係を念頭に置いた本も出している。その意味で近年気になっているのが、ここ数年続く時短ブームのその後がどうなるかである。

このブームは、共働きで子育てする多忙な人が増えたことから広がった。彼女たちは、料理などの家事をマメに行うべき、という「ていねいな暮らし」幻想にも悩まされている。正しい妻、正しい母親は、毎日こまめに日替わり献立を並べ、かつ家族に優しく、かつ仕事もするという、1人で2役3役も求められることに、うんざりしている人もいるだろう。跳ね飛ばす方法の一つが、時短レシピなのである。炊飯器調理も時短料理の一つと言える。

時短レシピは、料理一筋ではない新しいタイプの編集者、料理家たちの登場が、その発信を支えている。既成概念に囚われず効率化を行うレシピが生まれている今は、「レシピ革命」が進行していると言えるかもしれない。さまざまな書き手がいるクックパッドへのレシピ投稿者や、レシピブロガーなども、新しい世界を担う人たちである。

こんな状況なので、家庭料理の世界は今、目を離せないのである。

「リモートワーク歴24年」が勧める最強の時短レシピ

ところで私自身は、1人暮らしの時代も含めて24年、4半世紀近くもフリーの仕事をしていて、言ってみれば「リモートワーク歴24年」のキャリアがある。夫も半分フリーランスなので、2人で3食家で食べることもざらにある。毎食生真面目につくっていたら仕事が進まない。いかにラクに料理を回すかが、快適に暮らす秘訣なのだ。

というわけで、新型コロナウイルスの脅威を避けるため、巣ごもり生活を強いられている人たちに私がおすすめしたい料理は、今が旬の炊飯器調理。新しい料理を家であまり試さない私が何をつくっているかというと、それは昔ながらの炊き込みご飯である。

昭和初期の食卓について聞き書きした47都道府県別『日本食生活全集』(農文協)を開くと、全国各地にさまざまな炊き込みご飯や混ぜご飯の料理があったことがわかる。農家の女性が炊き込みご飯を作った切実な動機は、ご飯のかさ増しだった。コメは収入源であり、今より不作に悩まされることも多かったので、少しでも節約しておきたい。そのため、ほかの食材で量を増やして家族のお腹を満たすことが必要だったのだ。

今、その定番料理を私は、時短レシピとして活用する。たとえば、旬のタケノコご飯。タケノコの水煮の姫皮部分を中心に2~3ミリ幅に切って、コメ、水を入れた炊飯器内の8割ぐらいを埋める量入れる。薄揚げも1枚分、縦に2等分して細切りする。あればシイタケも薄切りする。味つけは薄口醤油、なければ濃口醤油、みりん。

私は目分量なので、分量を知りたい方は、すみませんがレシピサイトでタケノコご飯のレシピを検索してください。みりんの替わりに日本酒でもいいですよ。あとはスイッチを入れるだけ。炊き込みご飯モードがある人はそちらをお使いください。

これで、感覚的にはふだんの1.3〜1.4倍ぐらいのご飯が炊ける。

ご飯を炊く前にひと手間いるものの、それだけあれば、あとは焼き魚、味噌汁があれば十分。魚は肉よりカロリーが少ないが、その分おかずの品数を増やさないと私には足りない。でも、炊き込みご飯にすれば副菜を作らなくて済む。

日々の料理は「正しい献立」を出す場ではない

もう一つ今の季節のお気に入りは、関西人が春にヘビロテする豆ご飯。関西にいた頃はどこでも気軽に買えた和歌山のウスイエンドウが、東京ではなかなか手に入らないので、今年から私は生産者の直販を買うことにした。

なぜこの豆にこだわるかというと、ほかのグリンピースと違ってホクホクでご飯によくなじむから。夫婦揃って毎日食べても飽きないぐらい好きなので、今回買った1kg分の大半は炊き込みご飯にして、2週間にわたって食べ続けた。

この料理は、豆をやっぱりご飯の表面積の8割程度入れて、塩、酒を入れて炊くだけ。豆をさやから外す手間はあるが、包丁はいらない。無農薬で栽培している生産者さんから直々に、さやを10分ぐらい煮立てた煮汁を入れると香りが立つ、と教えていただいたので、そのひと手間をあえてかけてみた。その替わり酒を入れるのを止めたら、もう会心の出来だった。

このレシピは昔、『ベターホームのきょうの献立』(ベターホーム出版局)のそら豆ご飯から取ったので、そら豆でもできるはず。その場合はさやを煮立てないで酒を使ったほうがいいだろう。こちらも調味料は目分量なので、皆さんは好みの味のレシピを探してみてください。

豆ご飯は、タケノコご飯ほどかさ増しできないが、豆類にたんぱく質、炭水化物にミネラルやビタミンが豊富に含まれている。何といっても豆は種なのだから、栄養はたっぷり入っているのだ。だから何となく、1品で栄養バランスが整った気分になれる。

ご飯が炊き込みご飯になると、それだけで献立に変化がつく。平凡な魚と味噌汁の献立も、季節感あふれる和食らしい感じになって、満足感も高まる。ローテーションの関係で肉野菜炒めが一緒に並ぶこともあるが、洋風料理や中華との組み合わせでも気にしないのが大事。なぜなら日々の料理は、残っている食材や安く買える食材をどう組み合わせて回すかが知恵の働かせどころであって、正しい献立を出す場ではないのだから。

「#自宅より愛をこめて」

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が増えています。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、さまざまなジャンルの「食オタク」たちから、今こそ使える“自炊の知恵”を学ぶ連載を不定期で配信。おうち時間を楽しく、有意義に過ごすためのヒントを探ります。

阿古真理(あこ・まり)

©坂田栄一郎
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。クックパッドニュースのオフィシャルコラムニストとして、『あの食トレンドを深掘り!』を連載中。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。

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