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コラム

驚くほどシンプルで最高に美味!シェフ・松嶋啓介さんが教える究極の「食材使い切りレシピ」

日本人シェフとして初めてフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章した松嶋啓介さん。現在は、南フランスのニースと東京・原宿で、フランス料理店『KEISUKE MATSUSHIMA』を経営している。日仏の2拠点で活躍する松嶋さんに、食の「もったいない」を減らすために日本の家庭で一人一人ができることは何かを教えていただきました。

日本の家庭で「食品ロス」が生まれる理由

僕は、店のスタッフがまだ食べられる食材を捨てているのを見たら、「まかないで食べられるよ」とゴミ箱から拾い出して洗って食べるし、店で残った食材を家に持ち帰って食べることもあります。それはなぜかって、食べ物を粗末にするのは「もったいない」から。その一言に尽きます。

フランス料理店『KEISUKE MATSUSHIMA』オーナーシェフ・松嶋啓介さん
飲食店経営をしていると、「食品ロス」には敏感になります。食品ロスは、そのまま店の利益の損失になりますから。雇われている立場だと店の利益なんてそこまで考えないでいられるけど、僕は独立したのも早かったので、そこは昔からかなり意識していました。

日本の家庭においての食品ロス問題、つまり本来食べられるのに廃棄される食品がたくさん出てしまっている背景には、多くの人たちが「生産現場」と縁遠い生活をしていることが根本にあると思っています。

実際に畑や牧場に足を運んで間近で食材が生産される現場を見たり、野菜を作った経験を持つ人はどれくらいいるでしょうか。そこを知らないから、食品を捨てることにあまり意識が向かない。もしも自分が作ったものだったら、そう簡単には捨てられないはずです。日本と比べると、海外のほうが学校教育の中で野菜を作って育てる機会があったり、子どもの頃から生産現場を知る機会に恵まれているように思います。

例えば食事の時、親が子どもに対して「残したらもったいないでしょ!」ってよく言うじゃないですか。これは、「せっかく料理したのに」とか「お金を払って買ったのに」という意味で「もったいない」と言ってることも多いでしょう。

僕の家はおじいちゃんが農家だったから、残すと「作った人に失礼でしょ!」と叱られました。だから、「おじいちゃんたちが苦労して作った野菜だから大事に食べよう」という感覚が、小さな頃から自然と身についた。でも、今の日本の環境ではなかなか自然にとはいかないでしょうから、ここは多くの人に意識変革が必要だと思いますね。

「料理」はレシピを再現することじゃない

それと、もう一つ。家庭で食品ロスが生まれる最大の理由として、僕は「料理」を「レシピを再現すること」だととらえている人が多いからだと思っています。

まず作るメニューを決めて、そのレシピに必要な材料を買いに行くという人も少なくないでしょう。これがまさに、レシピの再現です。僕は普段から、「この食材をどう調理したらおいしく食べられるだろう?」と考えてメニューを決めます。

洋服を買う時って、たいてい衝動買いですよね。これいいなと思って買って、後からその服をどういう着方で楽しむか、いつも来てる服とどう組み合わせるかをあれこれ考えると思うんです。食材と料理も、僕は同じ考え方をしています。

昔は、買い物に行った時に、店員さんがたくさんヒントをくれました。例えば、馴染みの魚屋さんで、「今日の鯖は脂が乗っているから、焼いて食べるとおいしいよ」と教えてもらったり。でもスーパーではなかなかそういう接点って持ちにくい。お店の人とのコミュニケーションが減ってしまったことで、買い手がインスパイアされる機会も少なくなっているから、どうしてもレシピに頼らざるを得ないですよね。

でも、レシピを再現するために材料を買いそろえていると、やっぱり食材を使い切れず、食品ロスも生まれやすくなってしまう。

「今晩の夕飯は何にしようかなぁ」とふらっとスーパーに行って、その日安くなっている食材を手に取り、作るメニューを発想できる人は大丈夫(笑)。冷蔵庫に何が残っているか把握していて、足りない食材を買い足しながら献立を考えられる人は、当然ですが食品ロスも少ないと思います。

最後までおいしく食べきる方法を知る

また、レシピの再現に慣れすぎてしまうと、さまざまな調理方法に対する探究心が失われて、自分のものになりにくい。調理方法を知ることは、料理の楽しみ方を知ることになるし、結果的に食品ロスをなくすことにつながります。

例えば、アスパラを買ってきたとします。初日は、細く切って生のままカルパッチョにして新鮮さを味わう。2日目はシャキシャキ感がなくなってきたから茹でて食べる。3〜4日経って、しなってきたら今度は炒めて食べる。こんなふうに、1つの食材をその鮮度に応じて、おいしく楽しむために適した調理法を知っていれば、必ず買った食材は使い切れるし、自ずと数日分のメニューも決まりますよね。

ですから、まずは調理方法を10種類マスターしてみてほしいのです。

  • 生で食べる
  • マリネする
  • 蒸す
  • フライパンで焼く
  • 蒸し煮する
  • ローストする
  • グリルする
  • コンフィにする(オイルに食材を浸してじっくり煮る)
  • 茹でる
  • 煮込む

基本的には、野菜でも肉でも食材の鮮度が落ちていくのに合わせて、より長く加熱したり、強く火を入れる調理方法へシフトしていけばいいのです。

食材のおいしさを最大限に引き出すためには、調理方法に加えて、弱火〜強火のどの種類で加熱していくか温度の設定も大事。この2つの軸で、さまざまな食材の素材の味を引き出す方法をぜひいろいろ試してみてください。

10種類の調理方法をマスターできたら、きっと人生ハッピーですよ(笑)。なんであんなに献立に悩んでたんだろう?と思うくらい、きっと毎日の料理が楽しくなります。

「究極の食材使い切りレシピ」に調味料はいらない

よく「食品ロスをなくすためのレシピを教えてください」と言われるんですが、そんな時、僕は「野菜をまるごと鍋に入れて火にかけ、ただ待ってください」と答えています。みんな一様に「え? 味付けは? レシピは?」と驚くんですが、これが僕が思う究極の使い切りレシピなんです。

普段、アスパラやブロッコリー、ほうれん草などを茹でる時、グラグラと沸騰したお湯に入れてすぐざるに上げる人が大半ですよね。それを、例えばいつも3分ほど茹でている野菜を、20分茹でてみてください。塩も入れません。

ただ、沸騰させてはダメです。弱火でコトコト20分、静かにやさしく火を入れていきます。そうして茹で上がったら、静かに取り出し、そのまま何も付けず食べてみてください。びっくりするほどおいしいですよ。

先程も言いましたが、火を入れる温度がポイントです。沸騰させなければアクなんて出ないし、ゆっくりじっくり加熱するので素材から味が抜けることもありません。むしろ、食材そのものの味が味わえるので、ドレッシングが家から消えますよ。

ブロッコリーの芯も捨てずに、ゆっくり鍋で茹でればおいしくいただける

同じく、冷蔵庫の中に余っている残り野菜をいろいろ鍋に入れて弱火で2時間コトコト煮込めば、おいしいミネストローネが完成します。これも、調味料なんていりません。素材からおいしいだしが出て、いい味のスープになります。

20分、2時間、ほったらかしにできる時間の余裕がない時、塩を入れて3分茹でたり、スープの味付けをしたりする必要があるわけです。つまり、本来は必要ないけれど、調味料を使えば時短ができる、ということ。

調味料は、調理で素材の味を引き出しきれない時や、素材が古くなって味が落ちた時に、足りない味を補填するために使うものです。うまく使いこなすには、まずはそもそもの素材の味を正しく知ることが大事になります。

ゆっくり時間をかけて弱火で茹でれば、どんな野菜も素材の味が味わえます。それは、自然そのものに出会い、触れるのと同義です。だまされたと思って、ぜひ一度試してみてください(笑)。

(TEXT:上原かほり、福井千尋)

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松嶋啓介

1977年、福岡県生まれ。フランス料理店『KEISUKE MATSUSHIMA』オーナーシェフ。高校卒業後に『エコール 辻 東京』で学び、20歳で渡仏。フランス各地で修業を重ね、2002年に25歳でニースにフレンチレストラン『Kei’s Passion』をオープン。06年に28歳で、外国人として市場最年少でミシュランの一つ星を獲得。同年、店名を『KEISUKE MATSUSHIMA』に改める。09年6月に東京に出店。11年、日本人シェフとして初めてフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018」受賞イノヴェイター。

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