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コラム

スパイスカレーの次は「クラッシュカレー」が来る!カレー研究家・水野仁輔さんがハマったカレーとは?

クックパッドニュース編集部

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回はカレー研究家の水野仁輔さんがゲストの後編です。

“スパイスカレー”という言葉の生みの親!?

小竹:水野さんは2010年に『かんたん、本格!スパイスカレー』という本を出されていますが、“スパイスカレー”という言葉の生みの親と言われているそうですね?

水野さん(以下、敬称略):何年か前に雑誌の『dancyu』でスパイスカレーの特集をする際に、“スパイスカレー”という言葉がいつ生まれたのかを調べたらしいんです。

小竹:そんなことがあったのですね。

水野:調べた結果、僕の本『かんたん、本格!スパイスカレー』が世の中で初だと、記事で書かれたんです。そしたら、「水野がスパイスカレーの生みの親だ」みたいになって、その後スパイスカレーが盛り上がっていったときに取材の依頼が殺到するようになったんです。

小竹:『dancyu』すごい(笑)。

水野:「スパイスカレーの生みの親として、今の盛り上がりはどう見ていますか?」とか「スパイスカレーはこれからどうなっていきますか?」とかって取材依頼が殺到して…。

小竹:うんうん(笑)。

水野:僕は全てお断りして。「僕は知りません」って(笑)。料理業界でもジャンルごとに“元祖論争”みたいなのがありますよね。「元祖○○のお店」とかって。ああいうのは、きっと全てが正しいと僕は思うんです。

小竹:全てが正しい?

水野:いろいろなところでいろいろな人が考えて思いついて、同時多発的に新しい料理は生まれていると思うんです。そのときにたまたま紙に残る形でスパイスカレーという本を出したのが僕が最初だっただけという気がして。

小竹:たまたまね。

水野:ただその後、スパイスカレーという言葉がどんどん広まっていったし、スパイスカレーのレシピ本も何十冊も出ているし、僕も毎年出し続けていて、「水野さんの本を読んでスパイスカレーのお店を始めました」なんて人にもよく出会うんです。

小竹:すごいですね。

水野:だから、そういう意味では僕も人気の一端は担っているとは思いますが、僕が生み出したということではないですね。

小竹:それまでは何と言っていたのですか?インドカレーですか?

水野:なぜスパイスカレーと僕が言ったかというと、それまでのカレーの世界では、市販のルーを使って作るカレーのことを「ルーカレー」と言っていたんです。で、この本はルーではなくスパイスだけを使って作るカレーの本だから、ルーカレーに対抗してスパイスカレーにした。当時、僕の中ではルーカレーがライバルだったんですよ。

小竹:そういうことなのですね。

水野:やっぱり市販のルーで作るカレーがほとんどなので、スパイスで作るカレーをもっと盛り上げたいというのがあって、ルーカレーをライバル視して、やっつけてやるという気持ちでスパイスカレーと名付けました。

小竹:なるほど。

水野:インドカレーはインドの食文化におけるカレー的なもののことで、スパイスカレーはインドカレーとかタイカレーとか、その国に寄ったものではなく、スパイスだけを使って作る、そしてスパイスの香りがすごく効いているカレーのことを総称して言うんです。

小竹:そうなのですね。

水野:スパイスカレーという言葉が生まれたのは14年くらい前ですが、この言葉が生まれる前からやっているお店も、今はスパイスカレー専門店と呼ばれているところが結構ある。「デリー」もスパイスカレーのお店だと認識している人もいるんです。

小竹:うんうん。

水野:だから、今はスパイスカレーという言葉はまだ完全には定まっていなくて、まだ盛り上がっている最中なので、もっと何年も経ったときには、「スパイスカレーとはこうです」という大きな定義ができるのではないかなとは思います。

打倒スパイスカレーとして「ハーブカレー」を発見

小竹:水野さんは100冊以上も本を出していますよね?

水野:そうなんです。ただ、ちょっと問題があって、「世の中にないものを生みたい」というのが僕のモチベーションで、ルーカレー全盛の時代にやっつけたいと思ってスパイスカレーを考えました。

小竹:はいはい。

水野:ところが、スパイスカレーがだんだん盛り上がってくると、スパイスカレーに対して苛立ってくるんです。気に食わないみたいな気持ちになっちゃって(笑)。

小竹:なんですか、それ(笑)

水野:それで、そろそろスパイスカレーをやっつけなくてはいけないということで、『やさしい!さわやか!新感覚!ハーブカレー』という本を去年出しました。

小竹:打倒スパイスカレーの本なのですね。

水野:はい。コロナ禍直前くらいにタイ料理に突然はまって、これからタイに入り浸ろうと思ったんです。そしたらコロナで行けなくなって、タイという新しいヒントがやってきたのに動けないことに対して、何とかしなくてはと思っていたんです。

小竹:うんうん。

水野:タイは従来のスパイスカレーと比べて、ハーブやフレッシュなスパイスを使うので、そういうものを使ったカレーの試作を重ねる中で、「ハーブがいい!」という感じになりました。

小竹:なるほど。

水野:ハーブを主体とした、ハーブが主役になるカレーって、日本にはあまりないんです。

小竹:スパイスよりハーブが上に来るということですよね?

水野:そうそう。しかもすごくおいしい。タイカレーはあるけど、タイカレーの枠からははみ出して、もっとハーブをふんだんに使ったカレーを作っていたので、“ハーブカレー”というのを思いついたんです。スパイスカレーをやっつけられるかもしてないって。

小竹:これだけ流行っているものの対抗馬としてね。

水野:それでこのハーブカレーの本を作り始めたのですが、スパイスカレーのときは僕が本を出して10年近く経ってから、世の中でスパイスカレーが盛り上がり出した。だから、この本も売れるまでに10年かかるかもと言っていたのですが、なんと発売1週間で増刷したんです。

小竹:私もこの本を見た瞬間に予約しましたもん。

水野:売れたから編集者や一緒に作った人は喜んでくれて、それは良かったと思うけど、出版業界のあまり良くないところだと感じるのですが、売れるとすぐに第2弾って言うんです。それが僕は面白くないわけです。

小竹:なぜですか?(笑)

水野:1冊目が売れたから2冊目を出そうという動機では僕は作りたくないみたいな気持ちがある。だから断って、一旦静かにしておこうと思ったんです。でも、ハーブカレーは盛り上がってほしいので、盛り上がるためには僕以外の誰かがお店でバンバン出すとかレシピ本を出すとかに行ってほしいんですよ。

タイで出会った「クロックヒン」とは…

小竹:今はどんな感じですか?

水野:今はハーブカレーは一旦お蔵入りです。でも、タイ料理の熱はまだ残ったままなので、海外の旅ができるようになってから真っ先にタイに行きました。タイに行って出会ったのが「クロックヒン」。

小竹:何ですか、それ?

水野:石臼です。タイ料理って石臼で潰してペースト作るのですが、フレッシュなスパイス、ドライのスパイス、ハーブとか、いろんなものを入れて潰してペーストにして、そのペーストを加熱して汁物を作ったりしていくんです。

小竹:はいはい。

水野:その中の一部のものをいろいろな外国人が「これはカレーじゃないか」と言って、そのゲーンと言われる料理の一部をレッドカレー、グリーンカレー、マッサマンカレーなどと言って、カレーと呼んでいるんです。

小竹:うんうん。

水野:タイにおいてカレーと呼ばれている料理で、一番欠かせない調理道具が石臼なんです。僕はこの1~2年でタイに行くようになる前から、石臼は家に2台くらい持っていました。

小竹:持っていたのですね。

水野:だけど、そんなに着目していなかった。たまに使うこともあるけど、別に石臼じゃなくてもみたいな感じでした。でも、今回タイに行って、石臼でレモングラスとかカーという生姜とかを叩いてみたら、立ち上る香りが今までに体験したことないような爽やかな香りだったんです。

小竹:それは石のデコボコがあるからですか?

水野:叩き潰すという行為ですね。基本的にスパイスとか香りの出る素材は、全般的に丸のままの状態から潰すと香りが立つ。例えば、ハーブは手でパンって叩いたりちぎったり刻んだりすると香りが立ち上る。あれの究極系が叩き潰すことなんです。

小竹:うんうん。

水野:石の臼に石の杵でガンガンとペースト状態になるまで潰していく。その間ずっといい香りが立ち上っている。だから、この香りを生かしたカレーもあるのではないかと思ったんです。しかも、それはハーブカレーの兄弟感もありますよね。

小竹:たしかにあるかもしれない。

水野:潰すのはハーブですからね。ただ、石臼を使ったカレーは潰すのがハーブに限らず、ドライのスパイスも潰すし、フライドオニオンとか素揚げしたものも潰すし、生の野菜とかも潰す。だから、ハーブだけを使って作るカレーよりも幅が広がるんです。

新たに生み出した“クラッシュカレー”

小竹:とにかく中心にあるのは食材ではなく石臼なんですね。

水野:そう。石臼で叩き潰すことによってしか生まれない香りをカレーにするというのが、去年から今年にかけての僕の世紀の大発見なわけです。叩き潰してクラッシュするので“クラッシュカレー”って…(笑)。

小竹:クラッシュカレーだけ聞くとわけがわからないですね(笑)。

水野:クックパッドで検索してみて、もしクラッシュカレーというレシピが存在したら、僕はその人に弟子入りします(笑)。それで、クラッシュカレーを僕は今作り始めていて、イベントとかで出しているんです。

小竹:うんうん。

水野:ハーブカレーのときとちょっと空気が違うのは、クラッシュカレーという名前がまあまあ評判がいい。だから、若干僕は今、危ういと思っています。

小竹:また同じことが来る(笑)。

水野:そうそう。名前の時点で評判がいいので危ういと思っているけど、まだクラッシュカレーは全然浸透していないから、今僕は石臼に夢中です。本当に石臼の時代がこれから来ますよ。

小竹:来ます?10年後?(笑)

水野:石臼はカレーだけではなく、全ての料理に応用できる調理器具として、これから時代が来ると思います。

小竹:そこまでですか?

水野:石臼って、恐らく世界で最も原始的な調理器具だったはずなんです。石を削って尖らせてナイフが生まれるみたいなことの前なので、きっと世界中で昔は石臼が使われていたんですよ。

小竹:うんうん。

水野:例えば、インドは田舎に行くとまだ石臼があるし、タイ周辺の東南アジアも結構使うし。

小竹:ラオスに行ったときも結構ありました。

水野:ペルーも唐辛子を潰すし、メキシコのサルサも昔は石臼で潰していたんです。

小竹:そうなんですね。

水野:今はもう電動のミキサーが全盛の世界料理の中で、最も石臼が重宝されているのがタイなんです。タイ人のシェフとかは「石臼じゃないとこの香りにならない」って、いまだに言うんです。

小竹:うんうん。

水野:ミキサーは刃で切る、ミルは粉砕する、すり鉢ではすり潰すというように、食材の潰し方はいろいろなパターンがある。その中で、石と石で叩き潰すというものによってどんな香りが生まれるのかというのは、ちょっとこれから掘っていきたいです。

小竹:石臼に夢中ですもんね。

水野:実体験としては、今までに嗅いだことのない香りを嗅げているから、叩き潰すことに意味があると思っていて。これは恐らくみんなが忘れてしまっている香りなんですよ。

小竹:深いですね。

水野:昔の人はこのいい香りを知っていたけど、電動ミキサーになって失われた香りがあって、この失われた香りで調理をスタートしている時代なので、今はもう知らない香りなんですよ。料理をこれから始める人は、石臼で叩き潰したときに生まれる香りをそもそも知らない。

小竹:懐かしいとかもない。

水野:だから、これから石臼で叩き潰したときに生まれる香りを体験する人が増えていくと、石臼じゃなきゃダメな人が出てくると思うんですよね。それこそがクラッシュカレーですね。

小竹:石臼カレーではなくてクラッシュカレーなんですね。

水野:僕の今までの経験上、カタカナにしてちょっとカッコつけといた方がいいというのがなんとなくあって(笑)。石臼カレーも悪くはないんですけどね。

小竹:オシャレですしね(笑)。

水野:25年もカレーの活動をやって、世の中にないカレーを生み出したいと思って、カレーと向き合って、新しいカレーの可能性や新しいカレーのスタイルを次々と自分の中で発信していますが、毎回こういう興奮があるわけです。

小竹:うんうん。

水野:「カレーの魅力は何ですか?」とよく聞かれるのですが、とにかく香りなんです。料理において香りはとても大事で、特別強く特別豊かに香るのがカレーで、香りに僕はやられているわけです。

小竹:そうなんですね。

水野:だから、誰も知らない香りを生み出せる調理器具・石臼が重要なんです。僕はクラッシュカレーの本を2年以内には出したい。でも、その本は石臼を持っていないと調理できないレシピ本になります(笑)。

小竹:最後に、今後はどういう活動をしていきたいですか?

水野:世の中にないものを生むということをカレーの世界でやりたいので、今はクラッシュカレーでちょっと忙しいですが、このクラッシュカレーが終わった後に、旨味カレーというのをやろうとしています。カタカナでウマミです。

小竹:やっぱりカタカナが大事なのですね(笑)。

水野:“ウマミカレー”はもう構想は自分の中にできているので、クラッシュカレーが落ち着いて暇になったら始めようと思います。

小竹:次々と出てきますね。

水野:ライバルを次々と生み出して、ルーカレー、スパイスカレー、ハーブカレー、クラッシュカレー、ウマミカレーって、10種類くらい揃ったら戦わせたいですね。トーナメント戦みたいにして、ちょっと戦わせたいなと思いますね(笑)。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第7回・第8回(6月7日・21日配信) 水野 仁輔さん

カレー研究家/カレーの人/AIR SPICE代表/1999年、出張料理集団「東京カリ~番長」を結成し、カレー専門の出張料理人として全国各地で活動を開始。世界を旅するフィールドワークを通じて「カレーとはなにか?」を探求。「カレーの学校」の校長を務め、本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を運営中。カレーに関する著書は100冊以上。『水野仁輔 システムカレー学』『世界一ていねいなスパイスカレーの本』『スパイスハンターの世界カレー紀行』『ハーブカレー』など。

Instagram: @airspice_official

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子

クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

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執筆者情報

クックパッドニュース編集部

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