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コラム

【#平成レトロな料理たち】チョコレートを愛してやまない楠田枝里子が明かす「生チョコレート」大ブームの理由

なめらかな口どけが魅力の「生チョコレート」。95年に北海道の製菓メーカー「ロイズ」から通年販売されたのをきっかけに、99年に一大ブームとなりました。一般的な板チョコとは違った特別感があり、現在に至るまで、バレンタインや記念日などの贈り物としても重宝されています。そんな生チョコレートはいつから日本で食べられるようになったのでしょうか。今回は、チョコレートの科学的分析や歴史・文化、ショコラティエの世界を長年探求し続けている楠田枝里子さんに、生チョコレートが日本で人気になった理由と、当時の様子についてお話を聞きました。

 ◇  ◇  ◇

今回私は大胆に、生チョコレートの魅力の世界に迫ってみようと思います。

そもそも、チョコレートと生クリームなどを合わせペースト状にしたものを、ガナッシュと呼び、とろける柔らかな食感が魅力で、トリュフやボンボンのセンター(中身)として使われてきました。

その成分・製法の調整をし、ココアパウダーをかけるなどして、ガナッシュそのものを味わうタイプにしたのが、生チョコレートです。

日本独自の“生チョコレート”の規定

厳密に言うと、生チョコレートとは、日本の消費者庁で定める公正競争規約に適合するチョコレートに限定されるものです。

チョコレート生地が全重量の60%以上、クリーム類が10%以上、水分が10%以上でなければなりません。この条件を満たすチョコレートにココアパウダーなどの粉末をかけた場合は、チョコレート分が全重量の60%以上、チョコレート生地が40%以上であることが必要です。

同様の材料を使っていても、この規定を満たさなければ、生チョコレートの表示はできないのですね。この規定は日本国内のみのもので、国際的には効力を持ちません。

この規定で言うと、生チョコレートは、1988年に神奈川の「シルスマリア」で誕生したということになります

しかし、それよりも前、口どけのよい滑らかなチョコレートに魅せられ、作品を世に出した人々がいました。

すでに1930年代、スイス、ジュネーヴで生まれた「パヴェ・ド・ジュネーヴ」(ジュネーヴの石畳)は、今なお人々に愛されています。

先にご紹介したシルスマリアの生チョコは「公園通りの石畳」と名付けられていますが、この「パヴェ・ド・ジュネーヴ」の流れを汲む名称だろうと考えられます。

パリの「ミッシェル・ショーダン」のロングセラー「パヴェ」も忘れることはできません。ショーダンは、1986年にパヴェの元となる独自のガナッシュを考案しており、1991年日本に進出。パヴェも1993年から看板商品となりました。私も、銀座松坂屋のブティックに数えきれないほど通って、パヴェを買い求めました。ミッシェル・ショーダンさんに会って、直接お話を伺うことができたのも、このお店でした。

ミッシェル・ショーダン(現メゾン・ショーダン)のパヴェ 画像提供:株式会社ミッシェル・ショーダン・ジャポン

柔らかな生チョコが、これまでのチョコレートの概念を変えた

1995年、北海道の「ロイズ」が大量生産に乗り出し、生チョコレートは日本全国に広がっていきました。その勢いは、1999年の大ブームへと繋がっていくのです。

ここで興味深い話がひとつ。ロイズに先立ち、1993年に日本でミッシェル・ショーダンの「パヴェ」が人気を集めたと同時に、明治から「メルティキッス」が発売されました。この商品は生チョコレートではないのですが、「雪のような口どけ」をうたって評判となり、従来のチョコレートのイメージを変え、柔らかなチョコレートを全国に知らしめました

日本人は、柔らかな食べ物に嗜好があります。同じヨーロッパから入ってきたパンにしても、フランスのバゲット、ドイツのブロートヒェンは固くて噛めば噛むほど味がある、というのに対して、日本では最近の食パンブームに見られるように、ふわふわ柔らかな口当たりのものが好まれますよね。

口の中でとろけるチョコレートの出現で、日本人は新たなチョコレートの魅力に引き込まれていった。そしてロイズの生チョコレートが一気に人気を得ることに繋がったのではないかと思うのです。

チョコレート愛好家の舌をうならせた、ミッシェル・ショーダンのパヴェと、全国展開で広まったメルティキッスも、日本の生チョコレート文化の発展に貢献した、といってもよいのではないでしょうか

ちなみに、現在ロイズでは、16種類もの生チョコレートが販売されています。カカオ種にこだわり、洋酒との取り合わせにバラエティを持たせ、と正統派の進化を続けていて、感嘆します。私は好みのダークチョコレートの生チョコ4種をいつも取り寄せていますよ。

楠田さんの思い出の「絶品生チョコ」

スイス・チューリッヒに、「シュプリュングリ」(Sprüngli)という、私のお気に入りのチョコレート店があります。

ある年、お店に入って、以前にはなかった大きな手書きのプレートを見つけました。

24時間以内に、召し上がってください

驚いて、さっそく買い求め、味わってみたところ、カカオの深い旨味とクリームのコクのある限りない優しさ、とろける口あたりの、生チョコだったのです! 日本の規定の内には入らないと思いますので、広い意味での生チョコですね。それから毎日シュプリュングリに通って、このチョコレートを堪能したのはいうまでもありません。

日本にも持って帰りたいと思い、チューリッヒからフランクフルトで乗り継ぎをして成田へ。空港に友人たちを呼んで、ギリギリ24時間で皆と絶品チョコを楽しんだのでした。残念ながら、私がシュプリュングリでそのチョコを見かけたのは、その1回きり。かなり難しいクリエーションだったのだと思います。

私がすばらしいタイミングで、その生チョコに出会うことができたのは、幸運としか言いようのない、チョコレートの神様からのプレゼントでした。

生チョコブームは「チョコレート新時代」の幕開け

1999年前後の日本の生チョコレートブームは、単なるスイーツの流行ではないと私は考えています。1998年、表参道に初のチョコレート専門店「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」が上陸。「ガナッシュの魔術師」と呼ばれた伝説のショコラティエ、ロベール・ランクスが創設した、このメゾンの日本進出は、大きなセンセーションとなりました。私も、ガラスケースの向こうで光り輝く宝石のようなチョコレートにため息をついていたひとりでした。

天才ショコラティエ、「ジャン゠ポール・エヴァン」が日本に初出店したのは、2002年のことで、これもビッグニュースになりました。2000年前後は、日本においてチョコレート熱が一気に高まった時期だったのです

また同時期、カカオの健康効果についての科学的研究が、次々、驚くべき成果をあげていきました。チョコレートの原材料であるカカオは、その原産国であるマヤやアステカといったところでは、王族や勇敢な戦士の特効薬として用いられていました。

16世紀以降、ヨーロッパに渡ったときも、薬として扱われていたのです。その経験的に知られていたカカオの効能が、21世紀、科学の力によって、解き明かされていったのですね。私も夢中になって、研究の最前線を追い、やがて拙著「チョコレートの奇跡」(中央公論新社)などを、まとめることになります。

今世紀、チョコレートの世界は革命的な進化を遂げ、現在に至っています。1999年前後の生チョコレート・ブームは、チョコレートの新たな時代の幕開けを告げる、華々しいオープニングだったのだと思います。

「#平成レトロな料理たち」

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、平成前半に一大ブームを巻き起こした「平成レトロな料理たち」をピックアップ。各料理の専門家に流行した理由や当時の懐かしエピソードなどを語ってもらいました。令和になった今だからこそわかる、新たな発見があるかもしれませんよ。

楠田枝里子(くすた・えりこ)

司会者、エッセイスト、チョコレート研究家
三重県伊勢市に生まれる。東京理科大学理学部卒業後、日本テレビのアナウンサーを経て、独立。テレビ番組の司会や、ノンフィクション、エッセイ、絵本などの著作活動を続けている。主な司会番組は『なるほど!ザ・ワールド』(フジテレビ)『世界まる見え!テレビ特捜部』(日本テレビ)『FNS歌謡祭』(フジテレビ)など。著書は、『ナスカ砂の王国』(文藝春秋)『ピナ・バウシュ中毒』(河出書房新社)『チョコレートの奇跡』(中央公論新社)他多数。
今世紀に入り、チョコレートの健康効果についての科学的研究や、カカオの歴史・文化、ショコラティエの世界などを情熱的に探究し、日本の高カカオチョコレート・ブームをリードした。2016、17年、「サロン・デュ・ショコラ」ショコラ・アンバサダー。

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