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コラム

【#平成レトロな料理たち】日本人のアイスの概念がひっくり返った!「トルコ風アイス」は“遊べる”のが魅力だった

みなさんは「トルコ風アイス」を覚えていますか? 2000年代初頭に一大ブームを巻き起こした、練るとビヨ〜ンと伸びるアイス。あの時、日本人はなぜあんなにも惹きつけられたのでしょうか。今回、年間1000種のアイスクリームを食べているアイス評論家・アイスマン福留さんと、本場トルコにホームステイのご経験のある料理研究家・荻野恭子さんにインタビュー。当時ブームになった理由と、本場トルコのアイスクリームとの違いをそれぞれお聞きました。

アイスマニア・アイスマン福留さんと「トルコ風アイス」の出会い

トルコ風アイスとの出会いは2002年。内容量は170mlで、価格は100円でした。当時聞きなれない名前に興味をそそられ、コンビニで手にしたのを今でも憶えています。

発売当時トルコ風アイスは話題になり、雑誌やテレビ番組などでも数多く取り上げられ、あまりの人気に一時生産が追いつかず販売休止になっていました。しかし品薄状態になると余計に食べたくなるのが人の心。消費者需要がさらに高まり、トルコ風アイスはちょっとした伝説になっていたんです

トルコ風アイスは、今までのカップアイスにはない伸びるもちもち食感がとても印象的でした。アイス自体が元々もちっとしています。最初は普通に食べて、少し溶けて混ぜやすくなったところで伸ばして楽しむのが定番の食べ方。僕も、僕の周りの友人も、みんなトルコ風アイスを伸ばして楽しみながら食べていました。

トルコ風アイスブームの前に「練るジェラート」があった!

トルコ風アイスを手掛けたのは、ロッテスノー(前身は雪印乳業)。雪印乳業では、1997年に「ねるじぇら」というイタリアンジェラートをコンセプトに練って食べるアイスが発売されていました。それが大きなヒントにもなったと思います。

また発売当時のアイスクリーム市場は停滞気味でした。2002年度のアイスクリーム市場の規模は約3300億円。ピークであった1994年度に比べて24%程も減っていたため、現状を打破するためにもインパクトのある商品が求められていた時期でした。

トルコ風アイスはおいしいだけでなく、練ると伸びる楽しいアイスというユニークな特徴が子どもや若者を中心に受け入れられ、ヒットにつながったのだと思います。遊び感覚で食べられる、という食品の本質からは少し外れた部分が功を奏しました。トルコ風アイスは、当時ロッテスノーの基幹商品にまで成長したのです。

さらに発売翌年の2003年は「日本におけるトルコ年」とされ、外務省、文化観光省、貿易庁の主催によって、さまざまな催しが開催されたことも追い風になったと思います。

ブームの後、復刻版として発売されたことも!

勢いのあったトルコ風アイスのブームも去り、それとともにしばらくの間売場からも消え、「昔食べた懐かしいアイス」という立ち位置になっていましたが、2014年にファミリーマートでトルコ風アイスの復刻版が突如登場。その時は、あまりの感動にまとめ買いをしました。

色んなフレーバーが発売されましたが、その中でも特にヨーグルト味が秀逸。ほんのり甘酸っぱいヨーグルトの風味にもちもちの食感がマッチしていて、一番のお気に入りだったフレーバーです。

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このように、日本で大ブームとなったトルコ風アイスですが、本場トルコでは、どのように親しまれているお菓子なのでしょうか。

ユーラシア料理研究家・荻野さんが語る「トルコアイス」が伸びる秘密

実はトルコではこのアイスのことを「ドンドゥルマ」と呼びます。おそらく、多くの日本人が勘違いしていることなのですが、トルコのアイスが全て伸びるわけではないんですよ。あくまでもドンドゥルマは、トルコで食べられているアイスの一種なんです。

ドンドゥルマがなぜあんなに伸びるのか気になりませんか? その秘密は、「サレップ」というラン科の塊茎から作られた粉にあります。このサレップの粉が持つ増粘効果によって、ビヨ~ンと伸びるアイスができるんです。トルコには、牛乳にサレップの粉を混ぜた温かい飲み物があり、寒い時期には多くの人がこのサレップ入りの飲み物で体を温めます。

夏はドンドゥルマ、冬はサレップを入れた温かい飲み物を好むトルコの人々にとって、サレップは体に良い食べ物という位置付けなのです。

サレップは、トルコではスーパーで手軽に購入することができます。しかし、日本で手に入れるのはなかなか難しく、また、とても値の張る原料。そのため、日本で商品化されたトルコ風アイスには、サレップは使用されておらず、代用品として大和芋やサツマイモの澱粉が使われているようです。

本場トルコのドンドゥルマと、日本のトルコ風アイスの違い

トルコの人は、1890年に和歌山沖で起きたエルトゥールル号遭難事件をきっかけに、日本人に対して感謝の気持ちを持っていて、親日家の方が多いのだそうです。

そのことが関係しているのか、トルコから日本への移住者も少なくありません。1990年代から2000年にかけてトルコ料理のお店やドネルゲバブの屋台が増えていきました。日本に初めてドネルゲバブのお店ができたのは90年代の終わりのこと。日本で、トルコ料理やドンドゥルマ…トルコアイスがだんだんと注目を集めるようになってきたのもこの頃です。

日本でトルコ料理レストランが増えるにつれ、ドンドゥルマを提供するお店も増えました。このドンドゥルマを元に、日本では2000年代のはじめにトルコ風アイスがコンビニなどで売られるようになり、流行り出したんですね。

私はトルコの懐かしい味を求めて、日本でトルコ風アイスを食べてみました。日本で売られているトルコ風アイスは、乳脂肪分が少ないのでどちらかと言えばあっさりとしている印象。本場トルコで食べたドンドゥルマは、粘りが強く、また乳脂肪分が高いため、こってりとした甘さがありました

露店でのパフォーマンスも人気に

ブームとなった当時、トルコ風アイスはテレビや雑誌で何度も紹介されていました。アイス自体が伸びるというだけでも十分に話題性があるのですが、現地トルコや日本の露店のトルコアイス販売員がアイスを器用に伸ばしてみせたり、お客さんが受け取ろうとするとカップをヒョイっと引っ込めてしまうというユニークなパフォーマンスもまた、流行った要因の一つかもしれません。

トルコ風アイスの登場は、日本人にとってそれまでのアイスクリームへの概念がひっくり返るような衝撃を与えました。実際、私もトルコで最初にドンドゥルマを見た時には、「どうしてアイスが伸びるの!?」と驚いて、ホームステイ先のホストマザーに質問したくらいですから。

当時はまだ、今のようにスマートフォンで気軽に写真を撮ったり、インスタ映えを気にしたりするような時代ではなかったけれど、それでもあれだけトルコ風アイスが流行ったことを考えると、今だったらもっと大きなブームになったかもしれませんね。

トルコに行かなくても、日本のトルコ料理店でドンドゥルマをいただけるところもあります。ぜひ召し上がってみて、ドンドゥルマとトルコ風アイスの違いを楽しんでみてはいかがでしょうか?

(TEXT:上原かほり)

「#平成レトロな料理たち」

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、平成前半に一大ブームを巻き起こした「平成レトロな料理たち」をピックアップ。各料理の専門家に流行した理由や当時の懐かしエピソードなどを語ってもらいました。令和になった今だからこそわかる、新たな発見があるかもしれませんよ。

アイスマン福留(あいすまんふくとめ)

アイス評論家 / 一般社団法人 日本アイスマニア協会代表理事。 東京都足立区出身。年間に食べるアイスの数は1000種類以上。2010年からコンビニアイス評論家として活動を開始。2014年、アイスクリームの全ジャンル(ソフトクリーム、かき氷、ご当地アイス、業務用アイス、アイスクリームショップなど)を盛り上げていくことを目的に一般社団法人 日本アイスマニア協会を設立。ご当地アイスのイベント アイスクリーム万博「あいぱく」を開催。アイスクリームの業界紙「アイスクリーム流通新聞」等でコラムを連載するほか、アイスクリームの専門家としてメディアにも出演。著書:『日本懐かしアイス大全』(辰巳出版)。

荻野 恭子(おぎの・きょうこ)

料理研究家・栄養士。飲食店を営む父の影響を受け、子供の頃から料理に興味を持つ。女子栄養短期大学卒業後、恵比寿中国料理学院、ワールドクッキングスクールなどで世界の料理を学ぶ。 1974年からは、海外の食文化研究のために各国の食べ歩きと取材を開始。有名レストランへの訪問や一般家庭でのホームステイを通じてあらゆる料理を取材し、これまで訪問した国はロシア、トルコをはじめ65カ国を超える。1984年には自宅で料理教室「サロン・ド・キュイジーヌ」を開講。 現在、料理研究家として教室を主宰。日本テレビ「3分クッキング」、NHK「きょうの料理」をはじめ、メディアにも数多く出演するなど、幅広く活躍中。

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