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コラム

北欧フィンランドのサウナは「ソーセージ」でととのう⁉︎

【世界の台所探検 Vol.37】世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さん。今回は、フィンランドの屋外サウナで出会った、焼きソーセージのお話です。

「あれ、これってこんなにおいしかったっけ?」 普段たいして意識すらしない食べ物が、大変なごちそうに化けるという経験はないでしょうか。山の上で食べるカップ麺や、急に冷え込んだ日のお鍋などは、まさにその状況があってこそ生まれるおいしさかもしれません。今回は、そんな「さもないごちそう」の話を北欧フィンランドからお届けしたいと思います。

フィンランドはインドアもアウトドアも充実

フィンランドといえば、シンプルで使いやすいデザインの家具、コーヒータイム、それからサウナでしょうか。冬が長くて寒さが厳しく、家で過ごす時間が長くなることから、おうち時間を充実させるためのアイテムや知恵が充実しているのがこの土地です。しかしインドア派というわけではなくて、自然の中でのアクティビティも豊富。湖に囲まれ、家の近くには森があり、短い夏にはバケツを持ってせっせと森にベリー摘みに出かけるフィンランド人は、森と生活の近さから「森の民」とも言われるのです。 そんなフィンランドの暮らしに欠かせない食べ物の一つが、ソーセージです。

サウナはソーセージでととのう

フィンランドにいると、避けようにも避けられないくらい日常にあるのがサウナ文化。サウナ愛好家の方は、湖のそばに作られたサウナ小屋で温まり、サウナ小屋と冷たい湖を行き来する光景に憧れるのではないでしょうか。冷たくて澄んだ湖も良いのですが、サウナ体験を完璧なものに仕上げるのは、私の考えではソーセージです。 お世話になっていた家族が土曜日に連れていってくれたのは、湖のほとりの「サウナ村」。家にもサウナはありますが、時にはこうして出かけるのです。ここは20軒ほどのサウナ小屋が温められていて自由に出入りすることができる、スーパー銭湯のような屋外施設。大きい小屋や小さい小屋、暑いのやぬるいのや色々経験し、湖に飛び込んではまた戻り、ひとしきりサウナを満喫した頃。「そろそろ小腹が空いたんじゃない?」と言って一家のお父さんは、サウナが立ち並ぶ広場の真ん中に据えられた焼き場に向かいました。

持参したクーラーボックスから取り出したのは、ソーセージ。見慣れたソーセージよりもふたまわりほど大ぶりなものを、焼き場に置かれた刺又(さすまた)に刺してあぶります。二人の子どもたちも母に見守られながらソーセージを刺し、私もそれにならい、そろってあぶります。サウナ後の軽くなった身体にあたる涼やかな風、パチパチとはじける火の音、立ち上る香り... 焼けていくソーセージを見つめながら、全身に静かに染み渡る心地よさに気付かされます。

ソーセージが焼けて皮がはじけ、少し焦げたくらいになったら、焼き上がり。紙ナフキンでつかんで、焼き場に備え付けられた”無料マスタード”をたっぷりしぼり、大きくがぶり。このひと口の幸福感といったら!正直なところ、私はソーセージの肉汁感が苦手で普段好んで食べはしないのですが、サウナ後のソーセージは、もう問答無用においしいのです。まわりを見ると、他の人たちも焼いているのはソーセージのみ。それぞれ持参しているので大きさや形は様々あれど、全員ソーセージ。肉や野菜などBBQのように焼いている人も、おやつのマシュマロを炙る人もいません。そもそも焼き場にはソーセージ用の刺又とマスタードが備え付けられているので、ソーセージだけが焼くことを許された聖域のような気迫すらあります。そして、ここで焼くソーセージはもう素晴らしいごちそう。特に社交的におしゃべりするでもなく、ただただ音や空気を共有し、心地よい空気感を感じながら、心ゆくまでソーセージを焼いては食べ続け、私のサウナ体験は完璧なものに仕上がったのでした。

庭でもサマーコテージでも、とりあえずソーセージ

ソーセージを焼くのは、サウナ後だけではありません。庭のBBQランチでも、夏を過ごすサマーコテージでも、ピクニックに出かけた時も、アウトドアとなればソーセージが必ず登場するのです。 アウトドア調理用品も充実しているし、手の込んだ料理を作ろうと思えばいくらでも作れるけれど、ここぞというときにはもはや合言葉のように「ソーセージを焼かなきゃ!」と刺又が登場するのです。そして食べながら出てくるのが、「外で食べるとなんでもおいしいね」というこれまた合言葉。

フィンランドのひとりあたりソーセージ消費量は世界有数。 アウトドアで料理というと、つい凝ったことをしたくなりますが、準備が負担に感じてしまっては楽しみも半減です。森の民と言われ、幸福度ランキング一位につき続ける国の人たちに教わったのは、力を入れない外料理の楽しみ方でした。本当に、残り物のおかずでもチーズをはさんだだけのパンでも、外で食べるとなんでも5割増においしかったなあ。

岡根谷実里さん

台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。 著書に 「世界の台所探検 料理から暮らしと社会が見える(青幻舎 )」がある。

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