日本は地方によって料理の味が異なります。その地でとれた食材をはじめ、調味料からだしに至るまで多種多様。ご当地グルメは国内旅行の醍醐味のひとつと言っても、過言ではないですよね。
そんな「地方ならではの味」、好みもあるとは思いますが、一体どこが1番美味しいのでしょうか。
今回は北海道地方・東北地方・関東地方・関西地方・九州地方でよく使われる「だし」をつくり、味覚センサーでその味覚を分析。どの地方の「旨味」が一番高いのかを比べてみました。
えびの水揚げ量が多く、「エビ祭り」も開催される北海道ならではの組み合わせですね。えびの甘味と昆布の塩味が混ざり合い、深い味わいになりそうです。
えびは旨味成分「グルタミン酸」を多く含み、「イノシン酸」も含有している食材。合わせる昆布の旨味成分は「グルタミン酸」。旨味は違う種類の旨味を組み合わせることで、相乗効果が発生し高くなります。2種類の旨味成分をふんだんに含む干しえびはかなり有利な食材と言えるでしょう。
青森県を中心によく見られる組み合わせのだし。焼き干しの香りが香ばしいラーメンを食べたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
旨味成分としては、鶏ガラは「グルタミン酸」、煮干しは「イノシン酸」を多く含んでいます。異なる種類の旨味を合わせることで生じる旨味の相乗効果も期待できそうです。
関東で鰹出汁が発達したのは、江戸時代の運搬経路に理由があると言われています。江戸時代、北海道から天下の台所である大阪を通り東京に向かうという海上の「昆布ロード」の都合上[*]、後に回ってくる関東では昆布以外のだしが模索されたのでしょう。
旨味成分「イノシン酸」を多く含む鰹は先日行った「もっとも旨味の強いだし」の検証で2位に輝いたほどの食材。旨味の相乗効果は狙えませんが、単体でどれだけ上にいけるのかは気になるところです。
先ほどご紹介したとおり、北海道からの海上ルートで昆布が手に入りやすかった関西。関東の水に比べると関西の方が水の硬度が低く、昆布の旨味成分「グルタミン酸」が溶け出しやすいからというのも、昆布だしが普及した理由の一説としてあるようです。
ただ、先日の「もっとも旨味の強いだし」の検証では、昆布は4位。調味や具材による調整がない「だし」単体での勝負では、少し不利かもしれません。
たくさんの種類の食材を使い、味の重なりを楽しむのは、九州地方の「だし」の特徴ですね。九州を中心に人気のある「白だし」に使われるだしにも、さまざまな食材が入っています。
しかし、旨味成分を見ると意外にもシンプル。鰹・煮干し・あごは「イノシン酸」、しいたけは「グアニル酸」が多く含まれています。イノシン酸×グアニル酸による旨味の相乗効果も期待できますね。
出揃ったこれらの「だし」を味覚センサーレオで検証していきます。レオはニューラルネットワークを用いヒトが味を感じる仕組みを模したAI味覚センサーです。
その結果がこちら。
昆布+干しエビの北海道地方のだしが、1番旨味が高いという結果になりました。やはり昆布に加えてえびが入っていることがポイントでしょう。次いでこちらもグルタミン酸×イノシン酸の相乗効果が効いた東北地方。どちらも北の方になります。
寒い地域といえば、北海道は除れますが、東北地方は「塩」「醤油」という塩味の強い調味料が多く使われています。だしの味を強めることで味も濃くなりますから、その結果、旨味も同時に高くなったのかもしれません。
3位はイノシン酸×グアニル酸の九州地方。数値上は東北地方に劣りますが、かなり僅差なのでなかなかこの旨味の違いを判別できる人は少ないでしょう。
4位・5位の関東地方と関西地方はどちらも食材単品で勝負した地域。旨味の相乗効果という観点から考えると、やはり少し弱かったようです。ただ、5位の関西地方はとくに「だしや調味料の味よりも具材の味を際立たせる」という調理法が使われますから、あまり問題がないのかもしれませんね。
参考: * 昆布の歴史|こんぶネット(日本昆布協会)
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。