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コラム

コロナ禍が追い風に?「チーズケーキ」ブームの理由【あの食トレンドを深掘り!Vol.11】

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

チーズケーキ、なぜ人気?

バスクチーズケーキの登場とそのブーム。インスタ発で人気が出た「ミスター・チーズケーキ」。コロナ禍でスイーツ店の通販チーズケーキも人気になっている。話題が続くせいか、ここ2年ほどチーズケーキが流行中だ。

クックパッドの食の検索サービス「たべみる」によると、チーズケーキを検索する人は2009年以降徐々に下がっていたのだが、2019年から2020年にかけて上昇に転じた。種類別に見ても、「ベイクドチーズケーキ」「スフレチーズケーキ」「ニューヨークチーズケーキ」「レアチーズケーキ」「バスクチーズケーキ」のいずれも、2020年には上昇している。

最も上昇率が高いのはもちろんバスクチーズケーキで、2018年から検索されるようになり、2019年に前年の約20倍と急上昇し、2020年にはその2.2倍に増加した。

「バスクチーズケーキ」と「チーズテリーヌ」の2大ブーム

人気を受け、コンビニ各社もバスクチーズケーキを次々と商品化している。最初に出したのはローソンで2019年3月。商品名もかわいい同社の「バスチー」は、『カフェースイーツ』8・9月号によると、今年6月末時点でシリーズ累計約5000万個を販売し、10年に1度の大ヒット商品となった。2019年10月に発売したセブンーイレブンのものは、なめらかな食感が特徴だ。200円台のコンビニ・スイーツとしては高級路線を行く先行2社に対し、2020年3月に200円台で発売したファミリーマートは8月から198円、と少し安めに設定した商品に切り替え、「いつでも気軽に食べられる」路線をめざしている。

バスクチーズケーキが急に人気になったのは、2018年7月に東京・白金で日本初のバスクチーズケーキ専門店「ガスタ」がオープンし、テレビが盛んに報道したことがきっかけのようだ。以降、バスクチーズケーキを扱う店が増え、追随する専門店も出ている。

このチーズケーキの魅力は、真黒な表面のインパクトと濃厚な味わいにある。クックパッドのチーズケーキの検索が上昇したのは、コロナ禍のベイキングの流行に加え、バスクチーズケーキ人気に引っ張られた面もあるのではないだろうか。

バスクチーズケーキとは異なる路線で人気を集めているのが、2018年4月から、シェフの田村浩二さんが通販で売り始めたミスター・チーズケーキが代表する、クリーミーで柔らかいチーズテリーヌだろう。専門店もある。

つまり、2018年にはこれまでにあまり知られていなかった二つのタイプのチーズケーキが注目され、ブームをけん引したのだ。最初にチーズケーキが大阪でブームになった1970年からちょうど50年。再び人気を集める背景を考えてみたい。

一口にチーズケーキと言っても、最初に挙げたように種類がいろいろある。定番の材料のクリームチーズだけでもいろいろな商品があるうえ、カッテージチーズやチェダーチーズ、ゴルゴンゾーラなどを加える、ヨーグルトや生クリームを加えるなど、乳製品の組み合わせ方で異なる味わいを出すことができる。ジャムやフルーツなどをアクセントに加えることもできる。タルトなどの台を入れるか入れないかも選べる。
自在な応用の結果、店によって多彩な味が生まれる。もちろん、自作のケーキも工夫のしどころがあるというわけだ。

もう一つは、味の強さ。バスクチーズケーキの人気は、その濃厚な味わいが最大の特徴である。ここ数年、激辛の四川料理や強炭酸のアルコールなど、強めの味のものがトレンドになっている。濃厚な味はインパクトがあって、テレビなどで紹介しやすいこともポイントだろう。
濃厚な味に慣れた人たちは、ますます濃厚なリッチな味を求めるのかもしれない。それは恐らく、過酷な社会で生き残ろうとアグレッシブな雰囲気が高まっていることに関係している。

2015年に清澄白河で国産チーズを集めた「チーズのこえ」が開業し、2019年に国産バターを集めたカタログ本『バターの本』が出るなど、国産品のバラエティが増えた情報が広まったことも、乳製品への関心を高めているのかもしれない。

生活様式の変化とチーズケーキブーム

思えば、平成の始まりにはティラミスブームがあった。去年はタピオカミルクティーが大ブームとなっていて目立たなかったが、その陰で始まったチーズケーキのブームは、ここへきて大きく成長している。

タピオカミルクティーは、街を持ち歩くファッションとしての人気もあったが、コロナ禍の影響を受けてブームは鳴りを潜めた。一方、冷蔵・冷凍に向き型崩れしにくいチーズケーキは、需要が大幅に増えた通販に向いている。そして、世代や性別を選ばない。

タピオカミルクティーに手を出すのをためらった人、魅力が今一つ理解できなかった人も、チーズケーキなら手を出しやすいのではないか。そして、家族で切り分けて食べる楽しみもある。乳製品には、懐かしさを誘う味わいがある。

昔、友人の夫が「甘いのは苦手だけど」と言いながら喜んでくれた手土産に、モロゾフのチーズケーキがあった。甘さが控えめなので、甘いものが苦手な人でも食べられるという場合もあるだろう。チーズケーキは、間口が広いスイーツの一つと言える。食べ比べると、その楽しみは一層広がりそうだ。

阿古真理(あこ・まり)

©坂田栄一郎
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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