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コラム

体にいいだけじゃない!発酵デザイナー・小倉ヒラクさんに聞く「発酵食品」の魅力とは?

新型コロナウイルスによる健康志向の高まりから、発酵食品への注目が集まっています。腸内環境を整え、免疫力を高めるという発酵食品について、「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」というコンセプトを掲げ活動している、“発酵デザイナー”の小倉ヒラクさんにお話を聞きました。

発酵食品を知ってから、どんどん体が元気に

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。おそらく、この肩書きを名乗っているのは世界中を見ても僕だけだと思います。もともとは、アートディレクターとして活動していたのですが、今はすっかり“微生物の人”です(笑)。

僕が“発酵デザイナー”という肩書きを名乗るようになったのは、20代の頃に発酵食品と出会ったことがきっかけです。子どもの頃から体が弱く、ぜんそく、アレルギー、アトピーに悩まされてきました。ある日、実家がみそ屋の後輩が、ボロボロの僕を見かねて連れて行ってくれたのが、発酵界の神様のような存在である小泉武夫さんのところでした。小泉さんから、お味噌汁やお漬物を食べるようにアドバイスをもらい、その通りの食生活をしてみたら、どんどん体が元気になっていったんです

どうして発酵食品でこんなに体調に変化が出たんだろうと不思議に感じて、そこから発酵に関する本を読みあさりました。発酵食品は奥が深い世界で、すっかりその魅力にハマってしまった僕は、デザイナーの仕事をする傍ら個人的に味噌を作ったりして発酵食品を楽しんでいました。

2011年に歌って踊って3分で味噌作りがわかる「てまえみそのうた」という歌を作ったところ、2014年に絵本化され、グッドデザイン賞をいただきました。その頃から、“発酵デザイナー”としての活動を本格化させました。

突撃訪問で出会った日本中の発酵食品

2018年から2019年にかけて行った、47都道府県の発酵文化を訪ねる一大ツアーは印象深かったですね。日本には、詳しいはずの僕でさえ知らない発酵食品がまだまだあったんです。製法は口伝だけで伝わるというものも多く、そんな一品に出会うと痺れました!

多くの町はぶっつけ本番での訪問。とりあえず現地に赴き、出会った町の方々に聞き込みをして、その土地ならではの発酵食品を探し出すスタイルです。たどり着くのさえも大変な場所もあり、何度も倒れながら旅しました。宿がないところもあるので、野宿をしたり、公民館に泊めてもらったり、辛かったですね(笑)。

その結果、探しても僕の資料しか出てこないような発酵食品との出会いがたくさんありました。僕が日本全国で見つけたものの中から、特に印象的なものをご紹介します。

東京都青ヶ島 「青酎・あおちゅう」

東京の離島である青ヶ島。その島には、今の日本では非常に珍しい、野生の菌だけで発酵させる技術が残っています。日本で作られている発酵食品はほぼ、安定培養された菌で発酵されているので、一から全て野生の菌で起こす製法は、僕もこの島で初めて見ました。

青ヶ島には、絶滅危惧植物と言われている大谷渡(オオタニワタリ)という溶岩に寄生する熱帯植物があります。大谷渡に菌が住んでいて、麦の上にその葉っぱをつけ発酵させて作る「青酎・あおちゅう」という焼酎があるんです。実際に作り方を体験させてもらったのですが、独特な味で、金属っぽい酸みがあります。この「青酎・あおちゅう」は、機会があったらぜひ飲んでみていただきたいです。

宮崎県 「むかでのり」

宮崎県南部の南郷と呼ばれる地域にある「むかでのり」という海藻の漬物。海藻を使った発酵食品というのは世界的にも珍しいです。見た目はなかなかのインパクトですが、味噌味で、プルップルのこんにゃくゼリーのようなイメージです。

キリンサイ

日南地方では、お盆に神様にお供えするのが習わしなんだとか。近年は、むかでのりの材料となるキリンサイがとれなくなっていて手造りするのが困難になっているそうなので、もし出会うことがあったらラッキーです。

福井県 「サバのへしこ」

福井県小浜市から東に位置する小さな漁村集落・田烏(たがらす)で作られる「サバのへしこ」。 サバをへしこ(ぬか漬け)にしたあとさらに、なれずし(乳酸発酵により酸味を生じさせたもの)にするという、とんでもなく手のかかった食べ物です(笑)。

周辺は携帯の電波も入らず、タクシーすらも断られるような場所。気温5度の真冬に、最寄り駅から10キロ歩いてたどり着いた町で出会った発酵食品です。

発酵からその土地の文化を知る

発酵食品を紐解くと、本を紐解くみたいに色々なことがわかってきます。発酵を通じ、その土地土地の文化を知っていくような感じです。

地元の人は知っているけれど、他の地域では知られていないという発酵食品はたくさんあります。その土地では日常だけど、その土地を出ると非日常になるというのは不思議な世界ですよね。地域の食文化とはそういうものだと思うのですが、僕は発酵デザイナーとしてそれを広げていくということを担っています。

そんな想いもあり、 2020年4月、東京・下北沢に「発酵デパートメント」というお店を開きました。発酵デパートメントには、本来だったらその土地でしか出会えないような日本中の発酵食品が並んでいます。東京には地方出身者が多いので、懐かしがってお店に足を運んでくださる方も多いです。

身近な発酵食品を取り入れるだけも、日々の食卓が少し豊かになりますよね。そこから一歩進んで、発酵食品の持つ不思議な魅力に触れてみると、さらに世界が広がると思います。

(TEXT:上原かほり)

小倉ヒラクさん著書:「日本発酵紀行」

日本の発酵文化をリサーチする、8か月間の旅をまとめたもの。47都道府県の山・海・島・街を巡って、酒・味噌・醤油はもちろん、知られざる発酵の現場を取材した記録です。今回の記事で紹介しきれなかった、各地の貴重な発酵文化にふれられる一冊です。

小倉ヒラクさん

発酵デザイナー。下北沢『発酵デパートメント』オーナー。写真集『発酵する日本』、著書『手前みそのうた』『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など。定期的に展示会やワークショップなどを開催しつつ、山梨県の山中で微生物研究に没頭する日々を過ごしている。
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