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小麦粉の高騰を受け「米粉」に熱視線!新しいお米の楽しみ方が広まりそう

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.32】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

小麦粉の高騰で「米粉」に注目が集まる

米粉が、第2次ブームに沸いている。グルテンアレルギーの人にも向くとして広がっていたパンだけでなく、従来は小麦粉を使ってきた他の食べ物にも使われ始めている。5月12日配信のNHK『Webリポート』によると、新潟県では、今年から米粉麺を打ち出す専門店が増え、モチモチの食感が喜ばれているという。米粉レシピも人気で、クッキーなどのお菓子やパンはもちろん、お好み焼きやパンケーキ、ギョウザなどの粉モノにも用途が広がっている。そもそも米粉は長年、上新粉や白玉粉として団子などの和菓子に使われてきたのだから、ベイキングにはぴったりかもしれない。

第1次ブームも第2次ブームも、農林水産省が仕掛けた側面がある。日本農業新聞の2022年5月28日配信WEB記事によれば、第1次ブームは、主食用の米が豊作だった2005年、「市場隔離した米の一部を米粉に加工、販売したことが普及策の始まり」だった。食料自給率の向上も狙い、2009年に製粉施設の建設など「米穀の新用途への利用の促進に関する法律」ができたことで、ブームが始まったのである。

料理家の多森サクミさんは、お子さんの食物アレルギー対策のため、2006年から米粉パンを作り始め、いち早く2009年にレシピ本『炊飯器で超かんたん ふんわり米粉パン』(家の光協会)を出している。私も、この頃自由が丘で米粉パンの店ができたのを見ている。しかし一般的に、まだ米粉のクオリティが低かったらしく、ブームはまもなく終わってしまった。

先の日本農業新聞記事によると、当時の米粉は米を砕いたときにでんぷんが壊れる主食用米を使っていたため、パンを作っても膨らまなかったのだという。しかし、農研機構九州沖縄農業研究センターが、米粉用の米、「ミズホチカラ」や「こなだもん」を開発し、農水省は2017年に米粉の用途別基準を制定した。モチモチしていてしっとりした食感が評価され、食品会社や料理人が再び米粉を使うようになって2018年から第2次ブームが始まった

そこへ小麦不足が始まる。2021年、夏の高温や乾燥が原因で一大産地のアメリカ、カナダの小麦が不作になり、国際価格が上がった。北米産の小麦粉に頼っている日本が求める、高品質の小麦価格も上昇。さらに今年2月、穀倉地帯のウクライナを戦場とするロシア‐ウクライナ戦争が勃発したことで、小麦の国際相場が高騰してしまった。そこで注目されたのが米粉というわけだ。

何しろ米粉なら、100パーセント自給ができる。そして使いやすいモノが増えている。実は、以前から私はコメの消費量低下が止まらないのは、白いご飯に固執し過ぎているからではないかと考えていた。何しろ、現代人は多彩な食を楽しんでいる。白いご飯を日常的に食べない人も少なくないのだ。

日本人が抱いてきた、白いご飯への憧れ

コメの消費量のピークは1962年で、その後はずっと消費量が低下し続けている。そのため、1970年から減反政策が始まった。

日本は気候が多様で、もともとコメの生産に適していた地域は限られていた。それを克服するため、冷害に悩んできた東北や北海道でも生産しやすい品種を開発した。新潟県産コシヒカリ、秋田県産あきたこまち、北海道産ゆめぴりかなど、今は寒い地域が代表産地でおいしいコメがたくさんある。

長い間、庶民にとってコメが憧れの主食だったことは、コメの白いご飯に固執する傾向を産んだ。何しろ、戦時中に配給になるまで、コメを主食にできなかった庶民は大勢いたのである。二二六事件の背景には、東北の過酷な冷害があった。

江戸時代に農民はコメを年貢に納め、近代でも大事な商品だったので、自分たちで食べる量は少なかった。コメを作れない地域もたくさんあった。農民たちは、麦ご飯や雑穀ご飯、うどんやほうとうなどの小麦粉の麺を食べたり、サツマイモを主食にしたりしていたのである。カサ増しするため、大根や豆などの炊き込みご飯、混ぜご飯も発達する。当時の雑穀ご飯は今みたいに、味のバランスを工夫してほんの少し混ぜたものとは違う。ヒエがたっぷり入ったご飯は、栄養は豊かだが、冷めるとまずくなるし食感はボソボソだ。コメ以外の主食は、貧しさの象徴になっていた。

だから戦後、生産技術が上がって機械化が進み、干拓や開拓を行って農地が広がり、コメを100パーセント自給できるようになったのは、悲願を叶えたことでもあった。

ところが完全自給が達成されたのは高度経済成長期が始まった頃で、労働者の多数派が農民から会社員へと変わった。肉体労働をしない人たちには、主食はそれほどたくさん必要ない。しかも、他の食料も増産に力を入れたので、おかずをたっぷり食べることができ、ますますコメの出番は減る

減反政策は、農家の意欲をそいだ。もちろん、転作がうまくいったケースはたくさんある。栃木はニラの一大生産地だが、それはコメから転作した結果だ。しかし、コメを途中で青刈りした農家も多い。余剰なら輸出すればよかったのに、当時の人たちは輸出しようと思わなかったようだ。

米粉は、コメの可能性を広げる存在に

1980年代から1990年代、そして2010年代半ば以降、と2回アジアの料理がブームになって、ベトナムのライスペーパーで作った生春巻きやフォー、タイの米粉麺で作ったパッタイなどの米粉料理を愛する人がずいぶんと増えた。ベトナムはコメを二期作などで栽培できる。タイはコメの一大輸出国である。自由に加工できる米粉を日本ももっと作って売れば、みんながもっとコメを食べるようになるのではないか、と私は思ってきた。

グルメになってたくさんの料理のおいしさに目覚めた私たちは、白いご飯を昔ほど必要としないが、コメが嫌いになったわけではない。モチモチの食感も大好きな人、粉モノも好きな人も多い。だから今、米粉が進化し、さまざまな用途に使われ喜ばれるようになったことは、とてもうれしい。コメの可能性はますます広がっていくのではないだろうか。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』など。

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執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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