チャオです、イタリア家庭料理研究家の中小路葵です!
ボローニャ大学の歴史文化学部でイタリア料理の研究をしています。イタリア全20州の家庭を訪ね、土地ごとの郷土料理を習ったり(「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」)、文献として残っていない庶民料理の歴史を研究したり(「歴史上’声なき’人々の料理を紡ぐ旅」)しています。
今回、日本で「暗殺者のパスタ」が流行っているとお聞きして、本場イタリア、発祥の地プーリア州バーリより、生の情報をお届けします!
バーリのご家庭で、おばあちゃんに「暗殺者のパスタ」を作ってもらった時の様子。
2023年になり、クックパッドでも検索が一気に伸びた暗殺者のパスタ。2022年の12月に日本在住のイタリア人料理人・マルコさんが自身のYouTubeチャンネル『今日何食べよ / Marco Macri』で「おこげパスタ」として紹介し、一気にSNSで広まりました。その後、人気YouTuberのヒカキンさんやリュウジさんも取り上げたことで、さらに話題に。今大注目の料理なのです。
イタリア語では「Spaghetti all'assassina(暗殺者風のスパゲティ)」。
プーリア州の州都バーリ生まれのパスタ。最近では、バーリの名物パスタの1つに仲間入りしています。
ちょっと物騒なこの名前の由来はいくつか説があります。
・唐辛子が効いて暗殺者級の辛さだった
・赤黒いソースに硬いスパゲティが絡む様子が、暗殺現場のようだった
・おいしさ殺人級!新感覚のパスタが衝撃的においしかった
材料は南イタリアらしくシンプル。スパゲティ、トマトソース、ニンニク、唐辛子、オリーブオイルで作ります。
最大の特徴はなんと言っても調理方法。
まずフライパンにスパゲティを焼き付けておこげを作り、その後、お湯で茹でずにソースを少しずつ足しながら、直接ソースの旨味を吸わせるように仕上げます。
そもそも生まれは、バーリのレストラン「アル・ソルソ・プレフェリート(Al Sorso Preferito)」にて、1967年にシェフのエンツォ・フランカヴィッラ( Enzo Francavilla)氏によって提供されたのが始まりと言われています。
1990年代にはプーリア州の家庭でも良く作られるようになりました。
その後、プーリア州グラヴィーナや隣のバジリカータ州マテーラを舞台に撮影され、2021年に公開の映画「007」の最新作「No time to die」をきっかけに、「暗殺者のパスタ」も徐々にイタリア全土で知られて来ているようです。
イタリアの家庭で暗殺者のパスタが愛されている最大の理由の1つは、家にある材料を使ってフライパンで簡単に作れること。
特にプーリア州の家庭では、トマトソースを使うレシピが非常に多く、自家製トマトソースが常備されています。別の料理に使ったあまりのトマトソースを、このパスタに使うこともできるのです。
子どもも大人も大好きなこのパスタは、マンマ(イタリア語で’お母さん’の意味)のレシピレパートリーの強い味方です。
初めて食べた、バーリのおばあちゃんの「暗殺者のパスタ」。衝撃のおいしさでした。
今回、日本で流行っているとお聞きして、私の第二の家族のようにお世話になるプーリア州のマンマに、改めてこのパスタの作り方のコツを聞きました。
最初のポイントは、フライパンの選び方。
スパゲティを折らずとも入る、大きめのサイズのフライパンを使います。鉄製のフライパンは、熱伝導性に優れているので、絶妙な焦げ目を付けるのに最適です。
マンマが愛用する「暗殺者のパスタ」用のフライパン。
第二のポイントは、忍耐力。
このパスタは、パスタをお湯で茹でず、直接ソースを加えていく、イタリア語で「リゾッターレ」という調理法で作ります。
このポイントは、焦らずじっくりソースを吸わせていくこと。一気にソースを入れず、適度な火加減で過度な蒸発を防ぎつつ、少しずつトマトソースを足しながら作ります。
ここはプーリア州。名産のオリーブオイルが料理の鍵を握ります。
オリーブオイルは素材の旨味をまとめると共に、調味料として香りを足してくれる働きがあります。オイルが少ないと旨味が引き出されません。オリーブオイルはたっぷりと、上手に使いこなすのが最大のポイントです。
私が現地で教えてもらった典型的な家庭のレシピを紹介します。
スパゲティ…160g
トマト缶(またはトマトソース)…300g
ニンニク(みじん切り)…3かけ
唐辛子…1かけ
エクストラヴァージンオリーブオイル…50ml
塩…1つまみ
1.小鍋にオリーブオイルを10ml引き、ニンニク1かけを炒め、トマト缶と塩を入れてトマトソースを作る。(トマトソースを用意している場合は、この工程は不要)
2.大きなフライパンに残りのオリーブオイルを引いて、ニンニク2かけを炒める。
3.スパゲティを入れ、焦げ目が付くまで炒める。
4.手でちぎった唐辛子を散らし、1のトマトソースを少しずつ足しながらパスタに火を通していく。
5.トマトソースを全部入れてまだパスタが固いようなら、お湯(分量外)を足し、ちょうど良い固さになるまで様子を見る。
6.パスタに火が通ったら塩(分量外)で味を調え、仕上げにオリーブオイルをひと回しして全体を良く混ぜたら完成!
香ばしいスパゲティが、トマトソースの旨味をぎゅっと吸って、最高においしい一品です!
バーリの家庭では、クラシックな上記のレシピで作られることがほとんどですが、アレンジとして名産の魚介を入れたり、ブラータチーズをトッピングして食べられることもあります。
南イタリア、プーリア州の名物パスタ「暗殺者のパスタ」。
材料はシンプルで身近なものですが、独特の作り方で旨味が倍増!
ぜひ本場イタリアで愛される一品を楽しんでみてください。
イタリア家庭料理研究家。
ボローニャ大学の歴史文化学部にて、イタリア料理の研究を行う。
イタリア全20州の家庭を訪ね、郷土の家庭料理を習う「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」や、文献に残らない庶民料理の歴史を研究する「歴史上’声なき’人々の料理を紡ぐ旅」など、イタリア家庭料理を軸に活動。
イタリア現地で習ったシンプルで本場の料理は、人気オンライン料理教室「イタリアのマンマ直伝パスタクラス」や、オンラインコミュニティ「マンマの台所」で日本の家庭にお伝えしたり、現地のマンマとコラボして「オンライン料理留学SerieA」にてシェフ向け上級講座を行う。
まもなく発表!「食トレンド大賞2023」
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