コンデンスミルクが入った濃厚な味のプリンとして、注目が高まっているブラジルのスイーツ「プヂン」。最近メディアで紹介されることも増えてきています。そこで今回は、駐日ブラジル連邦共和国大使館の広報部長セーザ・イップさんに、ブラジルではプヂンがどのように親しまれているのかお伺いしました。
――今、メディアで話題になっているプヂンですが、ブラジル大使館でもその影響を感じることはありますか?
はい、大使館にプヂンについて問い合わせが来るようになりました。プヂンはコンデンスミルクが使われるのですが、コンデンスミルクメーカーの方とお話した際、最近テレビで取材などを受けることが増えたそうです。そして、 放送日の翌日はコンデンスミルクの売り上げが伸びるのだとか。プヂンが注目されはじめていることは肌で感じています。
――プヂンは日本のプリンと似ているスイーツですが、この2つの大きな違いはなんですか?
プヂンは固めでしっかりとしていますが、それに比べて日本のプリンはプルプルと柔らかいです。日本のプリンは小さなカップに入っていて、一人ひとつ食べることが多いと思います。プヂンはホールケーキのような大きさがポピュラーで、それをみんなで分けて食べるんです。ホールのプヂンは、12人から15人分くらいの量があります。
12人分に切り分けられたプヂン
ですので、プヂンはパーティーやクリスマスなど親戚が集まるときに食べられることが多いです。食後に、苦いコーヒーと一緒にいただく…というのがブラジルではよくある喫食シーンですね。
――セーザさんはプヂンに慣れ親しんでいるかと思いますが、初めて日本のプリンを召し上がったときどういう感想を持ちましたか?
日本のプリンはとても好きです。プヂンと比べると甘すぎなくて柔らかい。私は、プヂンが恋しくなったら日本のプリンを食べるのですが、やはりちょっと物足りなさは感じます(笑)。
――ブラジルではプヂンはどのような場所で購入できるのでしょうか?また、どのくらいの値段で買えるものなのでしょうか。
ブラジルでは、パダリア(パン屋)で買うことができます。その他にケーキ屋さんなどスイーツを販売している店でも購入できます。ホールで売られていることが多いですが、カフェなどでは一人分にカットされたものを頼むこともできます。値段はだいたいホールで70レアル(日本円で約1300円)だと思います。
――プヂンは、家庭で作るスイーツとしてもポピュラーでしょうか?
自分で作ることができなくても、プヂンに何が入っていてどんな風に作られているかは誰もが知っているくらいポピュラーなスイーツです。各家庭に受け継がれるレシピがあり、母親や祖母の味として食べられているんです。家庭や地域によって入れるものが違い、オレンジやマンジョッカ(キャッサバ芋のこと)が入っていたり、北のほうではクプアス(カカオの仲間のフルーツ)を入れたりします。下にスポンジを敷いて2層にしているアレンジもありますね。
――家庭ごとに受け継がれるレシピが違うんですね。家庭の数だけプヂンがあるということでしょうか?
このインタビューを受けるにあたり、大使館のメンバーとプヂンの話をしました。それぞれに好みの味があり、受け継がれているレシピがあるということがわかりました。ブラジル人は好きなサッカーチームについて言い合いになることがあるのですが、プヂンの好みでもそういった言い合いが起こります。私は、「す」が入っているプヂンの食感が残るところが好きですが、そうじゃない人もいるので、プヂンをネタに数時間話すことができるくらいです。
「す」の入ったプヂン
――プヂンでそんなに会話が盛り上がるんですね!セーザさんのプヂンにまつわる思い出を教えてください。
母はプヂンを作るのがとても好きでした。私は3人兄弟で育ったのですが、母がプヂンを作ると、ホールサイズのものが一瞬でなくなってしまうんですよ。母は、パンを入れてパンプディングのようにアレンジしていました。ブラジルのコンデンスミルクはチューブでなく缶が主流なので、開封したらすぐ使い切らないといけない。でも身体のことを考えると少し躊躇してしまう…というのも、「お母さんあるある」な話です。
缶に入ったコンデンスミルク
また、プヂンがブラジルでどれだけ愛されているかわかる話があります。ブラジルにはプヂンの写真が1枚だけ掲載されているサイトがあるんです。写真が載っているだけで他に何もないサイトなのですが、ブラジル人にとってプヂンがどれだけ代表的なスイーツなのかをよく表していると思います。
――ブラジルの方たちにとってプヂンは本当に特別なスイーツなんですね。ところで、ブラジルではプヂン以外にもコンデンスミルクで作られているスイーツがたくさんあるそうですが、なぜブラジルではコンデンスミルクが多く使われるのでしょうか。
文化的な背景があると思います。ブラジルは牛乳の生産がとても盛んだった時期があります。ブラジルの政治用語で「カフェ・コン・レイテ(コーヒーと牛乳)体制」という言葉があるほどで、コーヒーと牛乳が経済を支えていた時代がありました。ブラジルは国土が広いため、たくさん生産された牛乳を保存が利くコンデンスミルク缶に加工し、それが普及するようになったのでしょう。
コンデンスミルクを使ったブラジルのお菓子、ブリカデイロ。
ブラジルの味を日本のみなさんに知っていただくこともうれしいですが、もっと認知され広がっていけば、私個人としても、プヂンを食べられる機会が増えると思うので楽しみです。
(TEXT:山田かほり、メイン画像:Adobe Stock)
取材協力:駐日ブラジル大使館