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コラム

これはクリームパンの進化系!?ニューヨークから上陸「シュプリームクロワッサン」

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.40】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

ニューヨークから上陸、人気クロワッサンスイーツ

「シュプリームクロワッサン」が話題だ。初めてその名前を聞いたとき、「渦巻き状のクロワッサン」と説明され思い浮かべたのは、PAULに並んでいるようなパン・オ・レザン(エスカルゴ・レザン)だった。しかし調べてみると、全然違う。 シュプリームクロワッサンは生地に厚みがあり、チョコレートやアイシングなどをかけ、中にカスタードクリームなどを入れた菓子パンなのである。クリームのフレーバーは、イチゴやピスタチオなどさまざまな種類がある。これは、新感覚のクリームパンではないか!サクサクのクロワッサン生地に甘いクリームとトッピングがつけば、おいしくて当たり前だ。確かに流行するのはわかる。でも味以外にも理由はありそうだ。

発祥は、日本ではなくニューヨーク。考えてみれば、フランス人が大好きなパン・オ・ショコラも、クロワッサン生地のパンにチョコバーが入っている。欧米人も、この手の菓子パンはもともと好きなのだ。しかも、流行発信地のイメージが強いニューヨークで人気なら、世界各地に拡散してもおかしくない。思い起こせば、バブル期を象徴するティラミスも、元はニューヨークの流行だった。

『クックパッドニュース』では、今年2月17日にアメリカから配信された「【現地リポートも】ニューヨーカーが行列するほど大人気!「シュプリームクロワッサン」ってどんなスイーツ?」という記事で、現地の流行を伝えている。

テレビ朝日は、早くも2022年8月25日配信のニュース記事で、ニューヨークのパン屋の「シュプリーム」が、インスタグラムやTikTokで火がつき、「映える」と大行列ができている様子を伝えていた。確かに、渦巻き状の大きなパンが、かわいくトッピングされていれば映える。マリトッツォも映えが大流行の要因だった。シュプリームクロワッサンも、すでに日本でもSNSで大流行しているし、全国各地のパン屋に並びローカルニュースやブログなどで発信されている。

『エル・グルメ』(ハースト婦人画報社)の今年5月号はパン特集で、表紙でシュプリームクロワッサンをフィーチャーしている。2月23日の東海テレビ「ニュースワン」の配信記事では、ニューヨークで流行中の「まん丸なクロワッサン」が名古屋の店にも登場した、とあるので、この時点ではまだ呼び名が定まっていなかったのかもしれない。あるいは「サークルクロワッサン(サークロ)」「ニューヨークロール」とも、日本では呼ばれている。

最近の流行は何でもそうだが、SNSでバズる→メディアがそれに飛びつく→さらにその流行にのった個人がSNSで発信する、というループでどんどん流行が拡大していく。シュプリームクロワッサンも、この調子だとさらに広がり、もしかすると流行語大賞にノミネートされるのではないだろうか。

ビジュアルだけじゃない!ブームの理由

日本でも流行する要因はしかし、映えだけではなさそうだ。深掘りしてみよう。

まず、先ほども書いた通り、ニューヨークで大流行している、という情報が、人々の関心を引く。流行を知ったパン屋が新商品として販売する。パン屋は、常に新しい流行を生む新商品を探している。当然のことながら、ポスト・マリトッツォを探していたパン屋は多いはずだ。飛びついたパン屋が全国にあったことから、全国的に次々と発売されているのだろう。

二つ目は、シュプリームクロワッサンが、日本人の大好きなクリームパンの進化系とも言えることだ。日本人は、クリームパンに100年以上親しんできた歴史がある。新宿中村屋の創業者、相馬愛蔵が、当時は高級スイーツだったシュークリームの廉価版を作ろう、と考案したのは1904年。今も、店によってはよりバニラ感が強いカスタードクリームにするなどの進化させており、定番パンの一つとして愛されている。

カスタードクリーム自体、好きな人が多い。プリンは何度も流行しているし、エッグタルトなどのカスタード生地を使ったスイーツも何度も流行する。牛乳と卵を使ったスイーツは、どこかホッとする懐かしさも秘めている。『ブルータス』(マガジンハウス)は、昨年12月に「あんこか、カスタードか。」という人気特集の合本も出している。

菓子パンも好きな人が多い。日本は、中に具材を包み込んだ菓子パン・総菜パン大国だ。店独自、あるいは地元パンとしての菓子パン・総菜パンもある。その技術と発想を学ぼうと、日本に修業に来る外国人パン職人もいるほどだ。菓子パン大国の日本人が、目新しい菓子パンを見逃すはずがない。マリトッツォのブームを思い出してみるといい。

三つ目の要素は、フレーバーのバリエーションを増やせる点。ドーナツしかり、たい焼きしかり。日本では何でもクリームやトッピングでさまざまなフレーバーを使い、人気を得ている。あんこにカスタード、チョコレート、抹茶、イチゴ……選択肢があることが楽しいと思われるし、店側にとっては、選択肢があれば全部欲しい、とたくさん買う客がいると売り上げが伸びる。シュプリームクロワッサンも、数種類どころか、10も20もバリエーションを出す店だの専門店だのが、出てきてもおかしくない。

私が注目するのは、何と言ってもこれがクリームパンの「進化系」と言える点だ。最近は、具材を練り込んだバゲットや、チョコレートなど甘いトッピングをたっぷりかけたクロワッサンもよく見かける。

日本人の好みも多様化し、例えばスパイスを大量に入れたスパイスカレーが流行するなど、昔とは様変わりした味覚が人気になる。パンはフワフワ、モチモチの生地が日本人好みで人気だが、固いバゲット好きの人たちも増えている。味覚の幅が広がり好みが多様化してきた中で、サクサクのシュプリームクロワッサンは、新しいタイプと言える。ただし、カロリーは相当高いと思うので、食べ過ぎにはご用心!

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『母と娘はなぜ対立するのか』『平成・令和食ブーム総ざらい』『日本外食全史』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』『ラクしておいしい令和のごはん革命』『家事は大変って気づきましたか?』など。

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執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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