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世界から熱視線!日本の「和紅茶」が注目されている理由

【あの食トレンドを深掘り!Vol.41】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

長きにわたる「紅茶」冬の時代

紅茶が流行している……この1行を公的なメディアで書ける日が来るなんて!と独りで盛り上がってしまう。私は幼少期から紅茶が大好きで、家族の誰も飲まないお中元のトワイニングのティーバッグやフォートナム・メイスンの紅茶缶の紅茶を、独りでせっせと飲み続ける少女だった。

関西には紅茶がおいしい喫茶店はちょこちょこあり、成長するとその手の店にけっこう通った。別に紅茶専門店ではないが、ポットに被せるティーコゼーや、茶こしのティーストレーナー、砂時計をつけて紅茶を出してくれるのである。

ところが1999年に東京へ引っ越すと、紅茶がおいしい店がほぼないらしいことに気づかされる。ぬるいまま出す店は珍しくないし、専門店なのに赤い色がついたお湯を出す店もある。近所で専門店を見つけて喜んで通うこともあったが、マダムたちが長時間粘るせいか、しばらくすると閉店してしまう。

21世紀に入り、ときどき紅茶は流行するようになった。しかし今までのブームは静かに小さく訪れ静かに去った。紅茶の企画を編集者に出すと、「地味だからねー」と却下されるくり返し。最近では、2017年前後から『Hanako』(マガジンハウス)や『エル・グルメ』(ハースト婦人画報社)が、お茶特集を組んだが、緑茶や抹茶も入っていて、紅茶人気は今一つだったようだ。この頃、日本茶のカフェなども増えてきていた。

しかし、このときのお茶人気は、今の紅茶ブームの導火線になったようだ。紅茶ブームへの流れをチェックしてみよう。

タピオカ、ヌン活ブームが起爆剤に

2019年、タピオカミルクティーの爆発的なブームが訪れる。このとき大流行した要因は、タピオカの食感や映えだったが、2010年代後半に台湾の専門店が続々と全国に出店したことが大きい。台湾ブランドでは、テイクアウトの紅茶自体がおいしい。私はひそかに、このブームで紅茶のおいしさに気づく人が増えてくれないかと願っていた。取材した店では、リピーターは必ずしもタピオカを入れずお茶自体を楽しんでいる、と聞いていたからだ。

2021年頃から、アフタヌーンティーを楽しむヌン活が大ブレークし、2022年には新語・流行語大賞にもノミネートされた。実はこのブームは2010年代後半に始まっており、コロナ前からシティーホテルのアフタヌーンティーは、予約しないと席が取れない状態だった。

コロナ禍になると、夜の会食が憚られ、ソーシャル・ディスタンスを保つことを人々が心がけるようになったことから、ホテルのアフタヌーンティーならゆっくり話ができる、と考える人が増えたこともあったのか、ブームが爆発したのである。

ヌン活で各ホテルが差別化のため力を入れたのは、ハロウィーンなどの行事ごとやマンゴー、蜂蜜などと食材を指定したテーマ性のある料理・スイーツ。紅茶はなぜか10種類の半分をハーブティーやフレーバーティーにするなど、紅茶が主役とはとても思えないが、それでもその中で、紅茶のおいしさに目覚める人はいただろう。

ヌン活ブームに便乗しようとしたのか、2021年7月にはドトールがヨーロッパのお屋敷のような「ロイヤル・クリスタル・コーヒー」を自由が丘に開業し、アフタヌーンティー・サービスを開始。その後銀座店も開業した。スターバックスでは、2020年7月から「スターバックス ティー&カフェ」を六本木店を皮切りに、各地で展開している。

意外と歴史が古い!日本産の「和紅茶」

このようにさまざまな回路で紅茶の人気が高まる中、今、ホットなのは国産の茶葉を産地で紅茶に加工する和紅茶だ。茶は葉の種類ではなく、加工の仕方で緑茶やウーロン茶、紅茶などの違いができる。

まず、2022年4月にアサヒ飲料がペットボトルで無糖の和紅茶を発売。10月には、イギリスのUKティーアカデミーが主催する世界のお茶の品評会「THE LEAFIES2022」で、世界の名だたる産地を押さえ、なんと日本の茶園がいくつも賞を受賞し注目された。熊本県の茶園「お茶のカジハラ」が最高賞に輝いたほか、多数の日本の茶園が部門別の金賞を受賞している。

私が和紅茶に出合ったのは、10年前の第一次ブームの頃。『dancyu』(プレジデント社)が2010年10月号で和紅茶の特集を、『サライ』(小学館)が2013年12月号で国産茶の特集を組むなどし、おしゃれなカフェでは和紅茶のメニューが載るようになっていた。茶葉を置く店も増えていった。いろいろな和紅茶を試してきたが、基本的には緑茶に近いさっぱりした味わいで、飲みやすいモノが多い。

実は日本で紅茶を作るようになったのは近年ではない。きっかけは幕末の開国。日本から輸出できる商品が限られていた当時、茶と生糸などの絹関連の商品は輸出の中核を占めた。まず長崎から、日本のお茶は欧米へ輸出されていったが、欧米では緑茶より紅茶が好まれる。そこで日本も、国を挙げて紅茶生産に乗り出したのである。『茶の世界史 改版』(角山栄、中公新書)によると、明治政府の内務省勧業寮農政課に製茶掛を設けたのが1874年。職員たちをインドに派遣し紅茶製造法を学ばせ、各地で生産が始まった。

歴史の話を大幅に端折るが、日本産の紅茶が衰退したのは1971年に輸入が自由化されたことがきっかけである。私が小学生時代に飲んでいた、フォートナムメイスンもトワイニングもイギリスの会社だ。国産紅茶の存在は、人々の記憶から薄れていく。

平成になって、ペットボトルのお茶が普及し、緑茶を淹れる習慣が衰退していく。最近は、急須を持たない人も珍しくない。危機感を抱いて紅茶の生産を始める茶産地が登場したのは、1990年代に入った頃。業界で力を合わせて情報交換をし研鑽を積み始めたのは、2002年に全国地紅茶サミットを開催した頃からだろう。その成果が2010年頃からメディアの目に留まるようになったのだ。手元にある資料を探ってみると、和紅茶を扱った古い記事は、2009年の日本経済新聞までさかのぼる。

言ってみれば今のブームは、社会の変化に振り回されつつ常に起死回生の道を探り続けた茶業界の取り組みの成果なのである。

実は大正―昭和のモダニズムの時代や高度経済成長期頃は、紅茶を飲むのがおしゃれ、という流行はあった。しかし、インスタントコーヒーが登場し普及した後、お茶なら日本茶があるせいか、何となく存在感が薄れていた。それがさまざまな形で紅茶が人気になってきた今、ようやく日本もおいしく飲みたい、という文化になりつつあるのかもしれない。ブームの中心地は東京と思われるが、東京の水はお茶・紅茶を淹れるには硬度が高い。3分と書いてあったら5、6分にするなど、長めに蒸らすことを個人的にはおすすめする。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『母と娘はなぜ対立するのか』『平成・令和食ブーム総ざらい』『日本外食全史』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』『ラクしておいしい令和のごはん革命』『家事は大変って気づきましたか?』など。

 

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