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コラム

作家・阿古真理さんのキッチン探しストーリー 第十三編「金谷さんのキッチン」

生活史研究家・作家である阿古真理さんが、ご自身の理想のキッチンを手に入れるための情報を、住宅関係事業者やキッチンメーカーに取材。なんとなくご自宅のキッチンに納得がいっていない方や近い将来キッチンを購入する予定のある方が、本連載を通じてそれぞれの理想のキッチンに出会える手助けになるよう情報を発信します。

賃貸キッチンを見事に使いやすく配置した、料理家の金子文恵さんが「私の理想のキッチンです」と教えてくださったのが、以前料理教室で使わせてもらったという、金谷千秋さん宅のキッチン。どんなステキさなのか。ぜひ知りたい、と東京郊外の金谷さんのご自宅へうかがった。

中古マンションをリノベーション、キッチンが主役の大きなLDK

金谷さんの住まいは、1986年に建った8階建てマンションの1階にあり、9年前に購入してフルリノベーションをした。約60平方メートルのうち、約3分の1がLDK。入るとまず、カウンターつきのアイランドキッチンと、クリーム色の天井が目に飛び込んでくる。オープン棚と扉つき収納を組み合わせた背面棚があり、壁の色と合わせたル・クルーゼの鍋や電鍋が並ぶなど、インテリア雑誌から抜け出したような美しさだ。

アロマセラピストでヨガも教える金谷さんは、ヨガインストラクターのパートナーと結婚して15年。この部屋を手に入れるまで、2つの賃貸住宅で暮らしてきた。最初の部屋のキッチンは壁つけのDKタイプ、2番目は独立型キッチンだったが、どちらも狭く、調理台はまな板1枚置くのが精いっぱい。ダイニングテーブルで主に作業をしてきた。鍋や食器類もキッチン内には納まりきらず、使う頻度で1軍2軍と分散して収納していたが「『あれはどこへやったかしら?』、とひっくり返して探すこともありました」と金谷さん。キッチンが狭いので効率的に作業できず、行ったり来たりせざるを得なかったのだ。

鮮やかなイエローとDIYや造作が特徴の金谷さんのキッチン

賃貸暮らしが7年になった頃、「もう子どもはできないだろう」と覚悟を決め、2人暮らしを充実させるべくリノベーション前提で中古物件を買った。ところが今の部屋に移ってから妊娠し、現在は5歳の息子、3歳の娘、1歳の息子がいる5人家族と猫3匹の大家族になっている。

家事は夫婦でシェアしている。そのうえ金谷さんは料理が好きで、クッキーやケーキなどのベイキングの趣味もあるので、キッチンはどちらも使う。「夫は料理できるけど、私が調理できるなら自分もできる、と特に口は出しませんでした。私がキッチンについて決め、調理道具も全部私が決めて購入しています」と話す。

そして彼はDIYも得意。実はこの部屋、リノベーション会社に依頼しスケルトン状態に戻してリノベしたが、かなりの作業を金谷さん夫婦が行っている。「業者さんだと、納期に合わせて急いで作業する部分もありました」と金谷さん。

DIYで作成したという調味料棚

床は「コンクリートに直接塩ビシートを貼ったのでは?」と思うほど冷たかったので、ベランダへ通じるデッキ部分を残し、断熱材を入れて高くした。床材は金谷さんがチークの無垢材を選び、夫婦で貼った。「工務店さんからは、2週間以内に仕上げ、途中で泣きつかないよう念を押されましたが、仕上がりを見て『プロがやるより断然きれいです』と褒められました」と金谷さん。

天井板を外して高さを確保し、東向きで日当たりがあまりよくないことから、明るい色を選んで壁と天井にペンキを塗った。「日当たりの良さは、なくていいんです。実家の日当たりが良すぎて暑かったですし、そのために家具がすごく傷んだので」と金谷さん。

キッチン背面の棚やキャビネットの一部は、余った床材を使って金谷さんご夫婦が自作している

動線・設備・予算のバランスを叶えたキッチン

キッチンはもともと、壁付けの「賃貸のときのより小さい」と感じたセットキッチンが入っていたが、前に出しただけだったので、配管工事は大変ではなかったという。 自宅でアロマレッスンや味噌作り教室を開く予定があったのと、金谷さん夫婦がヨガの練習をできるようにリビング空間を残し、キッチンはワークトップと一続きのダイニングテーブルを兼ねるようにした。「このあたりはいいカフェがないこともあり、家の中をカフェ感のある空間にしたかったのもあります」と金谷さん。

背面棚上のカトラリー類、ステンレスや木の素材のものが多く、統一感が出ている

ワークトップの奥行きは1070ミリもある。横幅はアイランドの両側に通路を確保するため2400ミリ、と少し短いが作業スペースは810ミリもある。カウンターの奥まで使うのは身長が180センチある夫。金谷さんは153センチと背が低いので、手前と背面の棚を使って作業する。ワークトップの高さは「立ったときに肘まで7センチにしたらいい、とインターネットの記事を読んで私が測りました。また、購入したアルテックのハイスツールに合う高さだったことも、この高さにした理由です」。金谷さんの身長に合わせれば、730ミリぐらいが適切なはずだが、900ミリとなって、結果的にパートナーの身長にぴったり。「確かに私には高めですが、860ミリ高さの背面棚も使いますし、シンクでの作業中に腰を折る必要もなく、むしろ快適に使えています」という。

溝などの凸凹がない天板も、金谷さんが板金店を見つけて選んだ。どうしても入れたかったのが、ミーレの12~15人用食器洗浄乾燥機と、ごとくをスライドできるハーマンの3口ガスコンロ、大容量のガスオーブン。これらもコストが下がる施主支給にした。

ハーマン製のガスオーブン、お菓子づくりが趣味の金谷さんのこだわりの設備だ

ミーレ製の大容量食洗機と食器棚、洗い終わりからすぐ収納できる動線となっている

アイランドキッチンにしたのは、猫が行き止まりを嫌うからだ。キッチンの横はウォークスルーの収納になっていて、冷蔵庫や洗濯機などが納まり、その奥の玄関寄りに洗面所やトイレがある。狭い部屋は回遊動線にすると広く使える、と言われる。約60平方メートルの住まいは2人暮らしなら十分な広さだが、結果的に大家族になった金谷さん宅では、LDKが廊下と収納コーナーの2つの入り口が使えて「人が渋滞しない」うえ、子どもたちが走り回って遊ぶ楽しい空間になった。

キッチンからウォークスルーの収納を抜けてサニタリーへ続いており、廊下にも出れる回遊動線となっている

人が来ることを想定し、「電子レンジと冷蔵庫は、目につかないところに置くことを最初に決めました。一応寝室には置いてありますが、テレビもほとんど見ないんです。冷蔵庫が遠いな、と思うことはあり、子どもたちが15歳を超えたらリノベーションしてもいいとは思いますが、今はこの形がベストです」と金谷さん。

部屋も暮らし方も、家族と一緒に変わり、育てていく

これまでも一度寝室に手を入れ、「数年ごとに見直せばいいと思っています」と話す金谷さん。3人目を妊娠した昨年、背面棚を一部扉つきにするなど作り替えた。小さな子どもは、オープン棚のモノを次々に落としてしまうからだ。「中に入れたいものを全部出して測り、置き場所を想定した設計図を夫に描いてもらい、木材屋さんに切り出してもらって夫が作りました。私はお腹も大きく小さい子どもが2人もいたので、その作業は大変でした」と金谷さんは振り返る。

工夫の結果、鍋、お菓子の道具、食器、食材ストック、と見事に置き場所を整理でき、無駄な動きがなくなった。3人の子を抱える金谷夫妻にとって、家事の効率化は切実に必要だったからでもある。すばらしいのは、空間に合わせて、断捨離も行ったことだ。まず、引っ越した際に、鍋と食器類を2割ほど減らしている。お菓子作りやせっけん作りをするため油汚れが多く、大きな食洗機は必須だったが、立ち上がりが高く入れにくい和食器はすべて手放している。

高さのある趣味の製菓器具は、引き出し式のボックスに仕舞っている。

子どもが増えたことから、ここ1~2年で鍋類を整理しつつ大容量のものに買い替えている。お気に入りは、鉄製の倍ぐらいの重さがあるが、その分熱伝導率が非常に高いドイツ製の鋳物フライパン「ターク」だ。「熱が全然下がらないのでこびりつかず、タンパク質がガチっと固まる。肉は焼くだけでおいしいんです」とうれしそうに話す金谷さん。「ただパスタ料理は無理なので、軽いアルミフライパンも買いました」。

2~3年おきに買い替える必要があるフッ素加工のフライパンは、ゴミを増やすことになるから使わない、という金谷さんは、シンク下をオープンにしてコンポスト機を入れている。他のゴミは分別用に5つ用意し、窓際に固めて置いた。

鍋類が収まっている窓際の収納棚、手前に写っているには種類ごとに分けたゴミ箱

金谷さんは、合理性と効率性を考えた思い切りがすばらしい。また、回遊動線などの開放的なレイアウトもおそらく、快適な空間を作り出している。金谷さんのキッチンは最初、リノベが定着し始めた2010年代半ばからの流行を見事に反映したもの、と見えていたが、それは順番が逆で、現代の子育て世代が使いやすいキッチンを追求すれば、こうした形になる、ということがよく分かった。

金谷さん夫婦は2人でキッチンに立つこともあるし、3歳の娘さんが最近料理を手伝いたがるため、踏み台を置いてコメを研いだりお菓子の材料をこねるなどの作業をやらせることもあるという。「見稽古をしていたのかな、混ぜる力強さがとても上手です」と目を細める金谷さん。作業過程がよく見えるアイランドキッチンだからこそ、娘さんも料理に関心を持ったかもしれない。幸せは、自分が何を求めているかを明確にすることで手に入る、と証明するようなここは、いろいろな意味で理想のキッチンである。

集合写真:金谷さん、著者 阿古真理(左から)

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

取材のお相手:金谷 千秋 さん

2007年よりセラピストとして活動開始。2011年より西武池袋線保谷駅近くにてマッサージとヨガのお店リタルダンドを営む。2012年よりヨガインストラクターとしても活動開始。物事がスピーディーに進む社会の中で、急に立ち止まるのではなく、だんだんとゆっくりスピードを緩めて、自分を取り戻す場所になるようアロマトリートメントなどのマッサージやヨガを提供している。

https://www.aroma-ritardando.com/

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。
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