世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
前回は、インド家庭からチャパティの焼き方をお届けしました。
ラッシーは、インドや周辺の国々で飲まれているヨーグルトベースの飲み物で、日本のインドカレー屋でも定番になってきました。簡単に作れておいしいとあって、お店だけでなく家庭でも定着し、クックパッドにも800品以上のレシピが集まっています。
ラッシーのレシピ>>
クックパッドのレシピを見てみると、材料をスプーンで混ぜるだけの簡単な作り方を中心に、ミキサーや泡立て器を使ったものもあるようです。
ここはインドの首都デリーのラッシー屋さん。このお兄さんがラッシーをつくってくれます。
注文してまず聞かれたのは「甘いのと塩味のとどっち?」という質問。そう、ラッシーには大きく分けて二種類があります。日本では砂糖入りの甘いものが一般的ですが、塩入りのラッシーもインドではよく飲みます。40度近い暑さで汗をかいていると、不思議としょっぱいラッシーが飲みたくなります。そしてまた、しょっぱいラッシーは、食事にもよく合います。ラッシーという一つの飲み物でも、場面や気分によって異なる味や楽しみ方があるのがおもしろいですね。
作り方はとっても豪快。まず、かたまりの氷を木の棒とノミを使って細かく砕きます。
そしてその氷を金属製のポットに入れ、ダヒーという濃いヨーグルトを加えます。天井から吊るされた大きなハンドミキサーをオンにすると、一気に工事現場のような騒々しさに。
そこに塩と水を加えてさらに撹拌し、植木鉢のような素焼きの器に注ぎます。最後に濃厚なダヒーをひとすくいのせて、手渡してくれました。
このラッシーは、見慣れたものよりもはるかに濃厚でどろっとしていて、軽食になるくらいお腹にたまりました。氷を砕くところから撹拌するところまで、お兄さんのエネルギーが詰まったラッシー。私のために汗を流してくれたんだなという感謝と、目の前で作り上げられる楽しさも相まって、身体が元気になる一杯でした。
所変わって、ガンジス川のほとりの街ヴァラナシ。通りすがりに仲良くなったお兄さんが連れて行ってくれた街一番のラッシー屋さんでは、また違った作り方をしていました。
ラッシーをつくっているこのお兄さん。にこりともせず、両手をこすりあわせるようにしてひたすらに木の棒を回し続けています。なんとこのラッシーは、電動ミキサーなどを使わず人力で撹拌するのです!
このお店ではしょっぱいラッシーはなく甘いタイプだけですが、そのかわり多種多様なトッピングが選べます。マンゴー、パイナップル、りんご、ざくろ、バナナ…一つだけでも掛け合わせでも頼めて、迷ってしまいます。
お兄さんが手で一生懸命撹拌したラッシーは、広口の素焼きの器に注がれ、選んだトッピングをのせて、木製スプーンと共に渡されます。トッピングが色々選べるわくわく感、飲むのではなく食べる形。飲み物というよりも、パフェやかき氷のようなデザートを手にしたような感覚です。
ちなみにこの木製手動ブレンダーは、Madani(マダニ)と呼ばれる伝統的な調理器具です。今では機械を使うのが主流になってきましたが、マダニを使うと乳脂肪分と水分がうまく分離できるからと、マダニを好む人もいるようです。
ラッシーというたった一つの飲み物でも、飲み手の場面や気分、作り手の費やせる手間と時間、色々な条件が重なって十人十色の作り方があります。スプーンで手軽に作れる日本式ラッシーもいいけれど、お兄さんが汗を流して作ってくれたインドのラッシーにはエネルギーが詰まっています。 暑いインドの空の下、一杯の冷たいラッシーで元気になったのは、暑さが癒やされただけでなくエネルギーを受け取ったからなのかもしれません。
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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