夏に向けて旬を迎える、びわや梅、あんず、桃などの果物。ここにあげた果物は「すべてバラ科の植物の果実」という共通点があります。さくらんぼや、すもももバラ科に属します。
これらのバラ科の果物の種子や未熟な果実には、アミグダリンという成分が含まれます。実はこの成分、体内で青酸を作り出す天然の有毒物質(=シアン化合物)として知られるもので、多く摂取すると、頭痛や嘔吐、めまいなどの症状が現れます。過去には死亡事故も報告されています。
シアン化合物などの有毒物質は、熟した果実(果肉)にはごく少量しか含まれませんし、通常種ごと食べることはないので、普通に果肉を楽しむ分には問題ありません。
未熟な果実である青梅にはアミグダリンが含まれますが、梅干しや梅酒、梅漬けなどに加工をすればシアン化合物が分解され、大幅に減少されますし、黄梅のように熟していればそのまま食べても大丈夫です。桃の未熟果を漬けものにして、小さな種のついたまま丸ごと食べるものを見かけることもありますが、これも加工してあるのでOKです。
アミグダリンが体によい成分であるという情報を見かけることがありますが、科学的に根拠はなく正しい情報ではありません。アミグダリンをビタミンの一種としていた時期もありましたが、現在では明確に否定されています。
2017年には、農林水産省のサイトで、「びわの種子の粉末は食べないようにしましょう」という注意喚起の文章が発表されています。種子を原料とした食品は、特にアミグダリンの濃度が高いものもあり、これらの食品が少量であっても、アミグダリンを大量に摂取してしまう可能性もあります。びわの種子だけでなく、梅、あんず、桃の種子も同様です。種など、基本的に食べないものとされているものは、なるべく食べないようにするのが安心です。
注意しなければいけないことは、野菜にもあります。
特にこの季節、事故が起きやすいのは「誤食」。たとえば、食用のニラやのびると間違えて、毒を持つすいせんを食べてしまったりすることです。通常スーパーで売られているもの、つまり畑で食用として栽培され、販売されているものはまず問題ないのですが、家庭菜園の場合には注意が必要です。
たとえば観賞用のすいせんと、食用のニラを庭で育てている場合。このふたつは形がよく似ているので誤食し、毎年事故が後を絶ちません。同じ場所で育てていないという場合も、昔栽培していたものが再び生えてきたなどということもあります。
ニラとすいせんに限らず、有害なイヌサフラン(別名:コルチカム、オータムクロッカス)を、行者にんにくと間違えるという事故も少なくありません。
これらがやっかいなのは、水でさらしたり、加熱しても、毒が消えないということです。うっかり食べてしまうと、吐き気、嘔吐、下痢などを起こします。重症の場合は、死に至ることもありますので、要注意です。
ニラとすいせん、イヌサフランと行者にんにく、いずれも違う植物なので、きちんと見れば差異がわかるのではないかと思う人もいるかもしれません。もちろん、成長して花が咲いたりすれば一目瞭然ですが、特に新芽や若い葉の段階では、差はほとんどありません。葉の形状などから見分けることも難しいでしょう。
においで見分けられるとしている情報もありますが、混在していると、全部がニラのにおいと感じてしまったりするものです。完全に見分けることは不可能でしょう。
ここにあげた植物以外にも、よもぎととりかぶと、里いもとくわずいも、ごぼうと朝鮮朝顔、ふきのとうとはしりどころなど、間違えやすい植物はほかにもいろいろあります。
こういった植物による食中毒を避けるには、家庭菜園では何を植えたかをしっかり管理することが重要です。食用として植えた覚えのないもの、はっきりわからないものは絶対食べない、人にあげないということを徹底しましょう。
また、山菜狩りでは、食べることができる野草とはっきりわかるもの以外は採取しないでください。
おいしい果物や野菜がたくさん旬を迎える季節。正しい知識を身に着けて、旬の味を楽しみましょう。
<参考文献>
◎びわなどバラ科植物
国立健康・栄養研究所:「アミグダリンについて」
農林水産省:「ビワの種子の粉末は食べないようにしましょう」
東京都福祉保健局 「食品安全FAQ > ビワの種子には、有害な物質が含まれていることがあるって本当ですか?」
◎有毒植物との誤食
厚生労働省:「有毒植物による食中毒に注意しましょう」
農林水産省:「野菜・山菜とそれに似た有毒植物」
東京都福祉保健局 :「家庭園芸、ちょっとした注意で楽しく安全に」
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