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コラム

3度目の「ドーナツ」ブームが到来!とろける口当たりの“生ドーナツ”店に行列ができる理由

【あの食トレンドを深掘り!Vol.30】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

2022年、「生ドーナツ」に注目が集まっている

ドーナツが、21世紀になって3度目のブームを迎えている。今回は、フワッとしたとろけるような食感のものが人気だ。これまで、ドーナツの主流はケーキ生地だったが、今人気のフワフワドーナツは、発酵させたブリオッシュ生地で作られている。

ブームになっているのは、こうしたブリオッシュ生地のドーナツを売る新しい店が、増えたからだ。たとえば、フランス料理レストラン「ラシーヌ」などを運営するグリップセカンドが、ドーナツ販売を始めたのは2020年7月。その後グループ内の3店でもドーナツを販売するようになった。福岡から青山に上陸したパン屋の「アマムダコタン」が、今年3月18日に東京・中目黒に「I’m donut ?(アイムドーナツ?)」を開業したときは、あっという間に行列店になり人気が続いている。

最近注目されている、韓国発のクァベギもブリオッシュ生地が基本形。クァベギとは、韓国語でドーナツの意味である。そのうち、新大久保の「スマイルカフェ」は2021年12月にオープンした。ローソンでも今年5月24日から販売開始。といった調子で、コロナ禍になってから、ブリオッシュ生地のドーナツを売る店が続々と開業している。

東京における、最近の新しいドーナツ店は、SDGs的な特徴を持つところが目立つ
ラシーヌのドーナツは、フルーティなグレーズに特徴がある。それはもともと、コロナ禍で外食店などが休業を余儀なくされた初期、加工用の果物が大量に余った産地の窮状を知ったグリップセカンドが、ドーナツにかけるグレーズの原料としてそれらの果物を使い始めたことが、ドーナツ販売を始めるきっかけだった。また、2016年に東京・学芸大学で開業した「ヒグマドーナッツ」は、低迷する北海道経済を活性化させる目的で、北海道の食材を使う。2021年12月に下北沢に開業した「ユニバーサル・ベイクス・ニコメ」は、ヴィーガン・ドーナツを作る。

しかし全国的には、とろける口当たりの「生ドーナツ」が、今回のブームの特徴のようだ。阪急ベーカリーが関西を中心に運営する「阪急ベーカリー」「阪急ベーカリー&カフェ」「フレッズカフェベーカリー」では、今年5月に生ドーナツを販売開始。3週間で累計3万5千個以上を販売する人気となった。仙台の「ザ・モスト・ベーカリー&カフェ」が、7月9日に販売を始めたのも生ドーナツ。アイムドーナツも生ドーナツが売りで、本拠地の福岡では、アマムダコタンで2021年5月から生ドーナツを販売している。

最近、くちどけが良い食べ物の人気は高い。2013年からブームが続く、高級食パンの売りもくちどけのよさ。チョコやケーキも、くちどけの良さを売りにするものは多い。個人的には、ケーキなどの小麦粉生地のスイーツが、アッという間に溶けていく食感は苦手なのだが、一般的には「その感覚がたまらない」、という人がどうやら多い。それはかまなくても受け身で食べられるから、という感じがしなくもない。いや、それは常に歯ごたえを求めて流行に乗れない、私のヒガミかもしれない……。

いずれにしても、ドーナツのブームは21世紀になってから、すでに3回目なのだ。軽く過去の流行を振り返っておこう。

21世紀以降、ドーナツは多様化

最初のブームは、2006年に「クリスピークリームドーナツ」が日本上陸を果たしたことがきっかけ。アメリカ発のこのチェーン店は、カラフルなグレーズと、味のうえではミスタードーナツの上を行くことも人気の要因だったように思う。同年、奈良発の「フロレスタ」、2008年に神戸発のおからドーナツを売る「はらドーナッツ」が東京などで展開を始めている。考えてみれば、この年まで全国チェーンのドーナツ専門店は、ミスタードーナツぐらいしかなかったのだ。

1971年にミスタードーナツが上陸して初めて、ドーナツには、ケーキ生地を揚げて砂糖をかけたものだけでなく、ブリオッシュ生地もある、グレーズをかけたものもある、とバリエーションの豊かさを知った日本人は多かったのではないか。そして2006年に、ミスド以外の世界が広がり始める。

2015年には、セブン‐イレブンなどの大手コンビニがドーナツを扱い始めたことから、2度目のブームが起こった。

新しいドーナツ店が続々と誕生し、ブームになる。このくり返しが10数年のうちに3回。それはまず、まだまだ日本のドーナツ文化は底が浅く、未知の世界が多かったが、グローバリゼーションの中で、ドーナツの世界が一気に広がったからだろう。

日本の老若男女にドーナツが愛される理由

そして、日本人は基本的にドーナツが好きだ。ドーナツは、材料がとてもシンプル。小麦粉に砂糖、牛乳、卵などが基本形だ。パンケーキやクレープと同じで、どこか懐かしくホッとする味わいがある。オーブンを使わなくても作れる手軽さで、昭和後期ぐらいまでは、外で買うとよりは、中流家庭でよく作られるおやつの一つだった。砂糖をかけただけ、あるいは何もかけないシンプルなドーナツである。

今は家庭でドーナツを揚げる人は少ないかもしれない。揚げ物自体、一から作る人が減ってしまった。その一方で、さまざまなバリエーションを売りにする店が増えた。生地やグレーズのバリエーションを楽しめるのは、店で買うものだからと言えるかもしれない。

コロナ禍で人気が高まっているのは、ドーナツがテイクアウトできるおやつだからという点も大きいと思われる。何度も飲食店が休業を余儀なくされるなど、営業に制限がかかったからだ。

また、気軽にプレゼントできる、シェアしやすい点も魅力だ。ケーキとなると、皿とテーブルを用意しておかないと食べられないし、金額も張るが、ドーナツはそこまで高くないし、歩きながら、仕事しながら、片手でつまんで食べられる。

老若男女問わず好きな人が多いのも、いい。ラシーヌでは子どもが母親へのプレゼントに買うこともあるそうだ。敷居の低さは、人気のすそ野を広げるうえで重要だ。目新しいスイーツや料理も次々と流行るが、目新しいものは、食べ慣れないものでもある。その点ドーナツは、食感やグレーズなどのバリエーションは変われど、私たちがよく知っている味がベースにある。安心して食べられるものは、より多くの人が受け入れる。その意味で、新しい店ができれば流行るのは当然なのかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』など。

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