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コラム

コロナ禍をきっかけに爆売れ!「セカンド冷凍庫」を購入する人が増えているワケ

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.33】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

コロナ禍をきっかけに、セカンド冷凍庫が人気に

外食を制限されたコロナ禍、人気が爆発した一つが冷凍食品だ。何しろ今の冷凍食品は技術の進化で味が向上し、バラエティも豊かになっている。スーパーが改装した、あるいは新店が開業したと思ったら、ズラッと1列扉を開ける形式の冷凍食品コーナーができていたりするほどだ。

定番のコロッケ、ギョウザなどの洋食・中華メニューに加え、パスタやラーメン、焼きおにぎり、お好み焼きなど、家で外食店の味を再現できそうな料理が一通り冷凍食品でそろう。居酒屋に行けなくても、冷凍食品で家飲みができる。レストランへ行った気分になれる。冷凍庫にストックしておけば、「今日は料理するのがしんどい」「献立が思い浮かばない」というときに頼れる。料理できない家族も、冷凍食品があれば簡単に自炊できるので、台所の担い手が安心して家を空けられる。問題は、冷凍食品はかさばるので、いろいろストックしたくても、すぐに冷凍庫がいっぱいになってしまうことだ……。

そんなわけで、コロナ禍で人気が急上昇した家電の一つがセカンド冷凍庫である。『ITメディア』2022年7月27日の「『セカンド冷凍庫』爆売れ、コロナ禍と“もう1つ”の背景」によれば、2021年は冷凍食品が過去最大量に売れた中、各社の冷凍庫もよく売れている。ハイアールジャパンセールスは、2019年から2021年にかけて130パーセント以上伸び、三菱電機は2022年4~6月の累計販売台数が前年比2桁の伸び、2021年7月の発売から想定の2倍以上売れて一時品切れになったのがアクアの商品。2019年から冷蔵庫・冷凍庫を手掛けるアイリスオーヤマは、2021年には2019年の約10倍売れている。

私は10年ほど前、冷蔵庫に関するヒアリングを行ったことがある。その際も、「冷凍庫が小さくて困る」という声をよく聞いた。1999年に日本上陸を果たしたアメリカの会員制スーパーのコストコが各地の郊外に次々とできた時期で、大量売りが前提のコストコで買った冷凍食品を入れると、すぐに冷凍庫がいっぱいになってしまう、と困っている主婦がいたのである。

2016年には、冷凍食品専門店のピカールがフランスから上陸し、首都圏のおしゃれタウンを中心に展開している。ピザやクロワッサン、煮込みやパイ包みなどの総菜、スイーツまであり、ピカールの商品を揃えれば、家でフランス料理のコースを楽しむことができる。

近年人気が高いミールキットにも、冷凍保存するタイプがあり、これらをよく使う人も冷凍庫の容量が大きいほうが助かる。

そして料理が好きな人も、セカンド冷凍庫があれば、大量買いした食材をまとめて冷凍したり、冷凍つくりおきをするときに便利だ。キノコは子房に分けて冷凍しておけるばいつでも使えるし、ミートソースやマッシュポテトなどは調理時間がかかるが、作って冷凍しておけばいろいろアレンジできる。肉など、冷凍したほうが繊維が壊れるため、加熱調理時間が少なくて済むものもある。数年前から冷凍つくりおきレシピがブームになったこともあり、作れる料理や半加工品のバリエーションが増えた人も多いだろう。

冷凍食品をフル活用する人が増えた時代

家庭で作る冷凍食品の技術自体が進化している。働く女性が増えた1970年代後半から1980年代にかけて、「ホームフリージング」と呼ばれて食材・調理済み食品の冷凍が流行ったが、当時は揚げ物などを除いて半加工品で冷凍することはあまり流行らず、ジャガイモは冷凍できないとするなど、今と比べて制約が大きかった。何より、電子レンジがまだない家庭が多数派だったので、今ほどの利便性はなかった。3ドア冷蔵庫が登場した時期で、それまでと比べて冷凍庫の容量が大きくなった時期だったことも、ホームフリージングを人気にしたのだろう。

その頃より大きな冷凍冷蔵庫が一般的になり、さらにセカンド冷凍庫を必要とするのだから、今は冷凍食品をフル活用する人が増えた時代と言える。週末にまとめてつくりおきし、平日に時短料理で乗り切る人は、確かにセカンド冷凍庫を用意し片っ端から冷凍したほうが便利かもしれない。

今、セカンド冷凍庫が人気なのは、従来の上開きタイプに加え、出し入れがラクな前開きタイプが次々と登場しているからでもある。また、従来の冷凍冷蔵庫はキッチンに置かないと不便だが、冷凍食品だけが入った冷凍庫なら、調理中にしょっちゅう出し入れする、急いで出し入れするとは限らないので、必ずしもキッチンになくてよいところも魅力なのかもしれない。何しろキッチンのスペースには限りがあり、冷凍したいものが増えたからといって急にスペースを増やせない場合が少なくないからである。コンセントさえあれば、ダイニングやリビングでも廊下でも、寝室でも置いておくことができる。個室に冷凍庫と電子レンジをセットしておけば、1人で仕事や勉強をしながら冷凍食品で夜食を楽しむことだってできる。セカンド冷凍庫は、もしかすると食生活の自由度を高める側面があるのかもしれない

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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