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コラム

次なるピスタチオスイーツはこれ。トルコ発の「バクラヴァ」、専門店が続々登場

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.38】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

専門店が行列に!とっても甘い中東スイーツ

コロナ禍以降、中東料理のアイテムが次々に流行している。外出もままならない時期が長かった2020~2021年は、味変を楽しめる唐辛子やクミンが入った合わせ調味料のハリッサが流行し、スモーキーなグリーンのピスタチオクリーム、ピスタチオを使ったスイーツがブームになった

そのピスタチオ人気の延長線上で、最近流行しているのが中東の伝統菓子のバクラヴァだ。これは、次のようにして作る。

紙のように薄い「フィロ」と呼ばれるパイ生地に細かく砕いたナッツ類をのせる、というくり返しで何層も重ねたパイをつくる。ナイフで1口サイズの切れ込みを入れ、バターをのせてオーブンで焼く。焼き上がったら取り出し、甘いシロップをかけたら完成する。ここで定番として使われるナッツが、ピスタチオだ。この他、クルミ、アーモンドなどを入れたバクラヴァもある。材料はシンプルだが、非常に甘くバターをたっぷり使っているので、カロリーの摂り過ぎには要注意。クッキーみたいに何個も食べるのではなく、少量をお茶の友として楽しむスイーツだ。

日本では長らく、中東文化にくわしい人以外にはあまり知られていなかったが、近年販売する店が続々と登場して流行が始まった。松屋銀座で2021年11月に期間限定出店したトルコの老舗専門店「ナーディル・ギュル」は、行列できるほど人気になったことから、1年後に正式出店している。今年2月に私が買いに行った折も、定番のバクラヴァは夕方すでに売り切れており、人気は継続しているようだ。

ほかにも、2021年5月、東京・荏原町に開業した「ターキッシュ カフェ アンド バードアル」、横浜高島屋に2021年3月に開業した「カールヴァーン・ベイ・ヨコハマ」など、バクラヴァを買える店が続々と登場している。インターネット通販で買える店も増え、レシピも紹介されるようになり、流行が広がっているのだ。

クックパッドの食の検索サービス「たべみる」では2020年頃からバクラヴァの検索がふえ始め、今年に入って急増した。2023年1月はなんと、1年前の2・5倍も検索されている。その後も伸び続け、4月は2月の2倍以上も検索された。パイ生地を自作するとなると、層を作るために何度も折り返す工程が必要になるうえ、薄いフィロ生地にするには相当の技術が必要なことから、パイシートと合わせて検索されることが多いようだ。市販の生地なら一気に作るハードルが低くなり、遊び感覚で気楽に自家製バクラヴァを楽しむことができる。

令和の時代。中東スイーツが注目される?

こうしたスイーツが流行すると、昭和育ちの私は思わず遠い目になってしまう。何しろ日本では長らく、外国のスイーツと言えば洋菓子が中心で、昭和後期には駅前の商店街にはたいていケーキやクッキーをテイクアウトできる洋菓子店があり、子どもの誕生日のバースデーケーキなども請け負っていたからだ。

そうした文化は今もあるが、1980~1990年代に第一次アジア料理ブームが起きた頃にスイーツも注目され、杏仁豆腐、ゴマ団子などの中華料理店の定番デザートのほか、タピオカ、ナタデココなども人気になって選択肢が広がり、ライフスタイルの多様化も重なってスイーツ事情はずいぶん変わった。

それでも平成期は、中東のスイーツはあまり知られてはいない。有名と言えば、せいぜい浅草の雷門そばの伸びるトルコアイス店ぐらいか。何しろ、日本に中東料理の店が少なく、現地は戦争などの危険なイメージなどもあり、あまり旅行先としても選ばれてこなかった。日本でも比較的多いトルコ料理店に行けば、バクラヴァがデザートにラインナップされていたりはしたのだが……。

一方で、ヨーロッパは中東が近いこともあって、フィロ生地と呼ばれるパイ生地を使った、アプフェル・シュトルゥーデルが、どちらかといえば東寄りにあるオーストリアやドイツの伝統菓子になっていたりする。人気料理家のレイチェル・クーもときどき、フィロ生地を買ってきて作るスイーツレシピを公開しているので、フィロ生地自体になじみがありそうだ。レバノンの首都・ベイルートがグルメの町で、シリアがスイーツの宝庫で優秀なスイーツ職人が多いことは、ヨーロッパではよく知られているそうだが、日本では最近になって知られつつある、という程度だ。最近はそうした情報が、ヨーロッパ経由で日本にも伝わってくることが増えた。

バクラヴァのブームも実は、西からやってきた。ヨーロッパやアメリカで流行したほうが先で、韓国でも流行し、K-POP人気で日本にも広がったと言われている

中東ではイスラム教で禁止されて飲酒が発達しなかった替わりに、甘党の男性が多くスイーツ文化が発達している。『世界の食文化⑨トルコ』(鈴木薫、農文協)によると、トルコでは一五世紀後半には、メフメット二世の宮廷の仕入帳に記述があり、ラマダンの季節にバクラヴァを常備軍団の兵士たちに配る年中行事があったという。そして、17世紀にはバクラヴァ専門店が登場していた

トルコ料理は世界三大料理の一つと言われる。何しろ西半球を広く支配したオスマン帝国の時代がある。フィロ生地は、トルコでは「ユフカ」と呼ばれて、バクラヴァの登場と同時期の15世紀には定着していた。おそらく生地が登場してバクラヴァができた、あるいは広まったと思われる。バクラヴァの発祥については不明だが、よくこんな薄い生地を作ろうと思いついたものだ。トルコ料理の高度な技法には、ときどき恐れ入ることがある。

最近、バクラヴァとともに、カダイフという極細の麺にチーズを重ねたクナーファという中東スイーツも人気になっている。中東地域は文明発祥地の一つであり、イスラム教が現世利益を重んじることもあり、実は豊かな食文化を発達させてきた地域である。グルメになった日本人が好きな料理やスイーツも、たくさんありそうだ。もしかすると、これからもっと中東スイーツ、中東料理が身近になっていくのかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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