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コラム

「私の生きがいって……」20年に渡る母の介護、見送り後に待っていた大きすぎる喪失感

【クックパッドアンバサダーの味な人生vol1.】高齢化社会と言われる今、働き盛りである30代、40代で親の介護をするという人が増えています。時間的にも身体的にも最も動ける時期の多くを親の介護で過ごすことになり、介護した親を見送った後、「何をしたらいいのかわからない」と、生きる目標、目的を見失ってしまうこともあると聞きます。クックパッドアンバサダーのKeiboubouさんも、20年に渡る介護生活を送った一人。Keiboubouさんにとって介護生活の支えになった「お料理」にまつわるお話をうかがいました。

介護中心で過ごした20年

――Keiboubouさんは、20年にも渡る介護生活をされてきたと聞きました。

2020年4月に、20年介護をしていた母が90歳で亡くなりました。70歳になった頃に認知症と診断されてから、介護生活がスタートしたんです。結婚後、神奈川県に住んでいた私は、実家のある九州に通いながら遠距離介護生活を8年ほど続けました。

――九州に通いながら介護をするというのは大変ですね。通いでの介護が8年ということですが、その後は?

実家で介護をしてくれていた父と弟が亡くなり、母が一人になってしまったんです。九州に1人にしておくことはできないので、神奈川に連れてきて介護をしました。認知症と診断されたとき、主治医から、「認知症の人はそんなに先が長くないです」というお話をされたのですが、母は、認知症以外は健康で、とても朗らかに長生きをしてくれました。家で亡くなりたいと話していた母は、最期まで家にいられたし、亡くなる直前まで食事もできていたので、見送る側としても納得がいく最期だったと思います。

――亡くなる直前までお食事ができていたって、すごく幸せですよね。

重湯や葛湯みたいなものが多かったのですが、それでも自分の口から食べられる状態で過ごせたのは良かったと思います。最後のほうは本当に大変だったので、施設に申し込んでいたんです。順番が来る前に亡くなってしまったのですが、施設の方から、「この家の人たちは、最期まで家で看たほうが良い」と感じていたと言われたのが印象に残っています。

お母様が大好きだったグラタンは思い出の一品

生き甲斐と感じていた料理教室の仕事

――20年、介護生活をされてきたということですが、Keiboubouさんはその間にお仕事などはどうされていたんですか?

結婚前は家庭科の教師をしていました。家庭科って、実はすごくジャンルが幅広いんです。私は学生時代、高齢者の福祉という分野を専攻していました。でも、家庭科の教師として就職した学校は、調理実習で鯖を3枚におろすとか、もち米を蒸して桜餅を作るような高い技術を求められるところだったので、教師をしながら週に2〜3回、料理学校に通って料理の勉強をしました。

――お仕事のためにそれだけ勉強するって大変なことですよね。

もともと食いしん坊というのもあるのですが、作って食べることがすごく楽しかったんです。調理実習中は学生たちもすごく楽しそうなんですよね。他のどんな授業より、楽しそうだし盛り上がるので、調理ってすごく力があるものなんだなぁと感じました。

――介護がはじまってからも家庭科の先生を続けられていたのでしょうか。

その仕事は、結婚を機に辞めています。妊娠、出産を経て、子どもが小学生になった頃に料理教室で働き始めました。料理教室での仕事がすごく楽しくて、生き甲斐のように感じていたのですが、そのタイミングで母の介護がはじまり続けることが難しくなりました。同期で入った方の中には、今も活躍している方がたくさんいるので、もっとやりたかったなという気持ちは私の中に残っています。

備忘録としてはじめたレシピ掲載

――そうだったんですね。介護が続く中で料理とはどのように関わっていたのでしょうか。

ある時、「子どもから、から揚げがおいしくないと言われる」という相談を友人からされて、から揚げのコツや、肉じゃがのおいしい作り方とかを教えたんです。友人たちにすごく喜んでもらえたので、そのうち月に1度ほど、自宅で友人を招いて料理会を開くようになりました。

お料理会の様子

母も食べることが好きだったので、一緒に参加して、みんなと食事をすることを楽しんでいました。そこで出した料理のレシピを聞かれることが増えたので、備忘録としてクックパッドにレシピを投稿するようになったんです。

――Keiboubouさんは800件を越えるレシピを投稿されていますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょう?

まだ、100品ほどしかレシピを掲載していなかったときに、料理写真の撮影モニターにお声がけいただきました。介護が大変なときだったので、最初はお断りしようと思っていたんです。でも、お料理が好きだし、家にいる時間が多いので、できるだけやってみようと思い参加することにしました。

モニターの活動では、他のモニターさんたちとの交流がとても刺激になりました。ものすごい数のレシピをあげている方と話したときに、「仕事をしながらできているから、みなさんもできるはず」と言われて、「私ももっとがんばってみよう!」とレシピの数を増やしていきました。モニターの活動を受けていなかったら、今ほどレシピを掲載できていなかったと思います。あと、みなさんの料理写真にもすごく影響を受けたんです。

料理写真の撮影モニターで撮ったドリア

――みなさんの写真からどのような影響を受けたのでしょうか?

グループLINEでみなさんと料理写真の撮り方について相談したり褒め合ったりするんですが、それがすごく楽しかったんです。それまでは、料理を作って食べてもらうということを楽しんでいたけど、そこに、おいしそうに撮影をするという楽しみが増えました。

20年にわたる介護の後に見つけた、”私の生きがい”

――長く続いた介護生活の中で、Keiboubouさんの支えになったものはなんですか?

介護生活が終盤の頃は、料理をしている途中に母の容態が悪くなり救急車を呼ぶようなこともありました。母を看ながらだとひとつのことに集中するのが難しい状況だったので、料理会もしばらくお休みしていたんです。そんな中、気分転換として続けていたレシピ投稿は、きっと介護生活の中で私の支えになっていたと思います。介護生活中は、それくらいしか楽しみがなかったので。

実は、母を見送った後、しばらくは何をするにも気持ちが入らなくて気が抜けたような日々を過ごしていました。 先に亡くなった父や弟に、「母のことは任せて」と約束していたので、ずっと気を張っていたんだと思います。ようやく肩の荷がおりたという気持ちと同時に、何をするにも母が中心の生活だったので、ご近所でデイサービスの送迎を見ると、「羨ましいな」と感じてしまうくらい大きな喪失感がありました。

そんな時、クックパッドアンバサダーの募集メールがちょうど目に入りました。撮影モニターが楽しかったことを思い出し、申し込みをしたら選んでいただけたんです。まさか本当に選ばれるなんて!と驚きましたが、少しでもやりたいと思ったことはあまり悩まずに、まずは飛び込んでみるのも大事なんだなと思いました。

――アンバサダーに選ばれたことで生活に変化はありましたか?

写真を撮る楽しみを知ってから、いろいろ周辺機材を取りそろえてiPhoneで料理写真を撮っていましたが、アンバサダー向けのカメラ講座を受講したことをきっかけに、とうとう一眼レフカメラを購入したんです!

購入した一眼レフカメラ

カメラを買った帰り道、20年近い介護中心の生活がやっと終わって、これからは自分の時間を楽しんでいいのだと実感することができました。今は自分の自由を満喫できています。介護生活20年の間に、趣味と言えるものがなかった私にとって、クックパッドは日々を彩り豊かにしてくれる伴走者のような存在です。料理だけでなく、写真を楽しむという新たな楽しみを見つけたことで一歩前に進むことができたんです。

――Keiboubouさんの今後の活動について教えてください。

以前開催していた料理会を、料理教室っぽくして再開しています。うちから海岸が近いので、料理会で作った料理を持ってみなさんとピクニックに行ったり、作りたい料理のリクエストを受けたりしています。最近は、料理の基本がわからないから、出汁の取り方、鍋炊きがしてみたいというリクエストがありました。

最近では生徒さん持参の食器で「大人のお子様ランチプレート」の会を開いた

以前、料理教室を介護で辞めなくてはいけなくて心残りになっていたことに、今から挑戦していけたら良いなと思っています。そして、お料理のレシピ掲載をするときの写真をおいしそうに撮れるように、カメラの練習もしていきたいです。

(TEXT:山田かほり)

Keiboubou さんプロフィール

野菜ソムリエ /薬膳アドバイザー /介護食アドバイザー
料理教室アシスタントの後、様々なリクエストに応えるオーダーメイドの料理教室SEASIDE TABLE を主催。海辺のピクニック料理会が⼈気。カフェのメニューやレシピの開発を⼿掛けたり、⻑年の在宅介護の経験から⾼齢者への⾷事アドバイスも⾏なっている。

Instagram:@keibo007
Blog:海辺の生活。

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