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コラム

「料理は努力したものがそのまま形になる」長谷川あかりさんがタレントを辞め、料理家になった理由

クックパッドニュース編集部

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第9回目・10回目のゲストは、料理家の長谷川あかりさんです。

「てれび戦士」として芸能活動をしていた過去

小竹:長谷川さんは子供の頃にタレント活動をされていて、NHKの『天才てれびくん』のてれび戦士だったそうですが、どういった経緯でてれび戦士になったのですか?

長谷川さん(以下、敬称略):将来の夢がダンサーで地元でダンスを習っていたのですが、ダンスの先生に「芸能事務所のオーディションを受けてみないか?」ってお声がけいただいて。ダンサーになりたいのであれば、芸能活動とちょっとリンクしてくる部分もあるので、受けてみることにしたんです。

小竹:うんうん。

長谷川:当時、一世を風靡していた音楽事務所のオーディションを受けたのですが、「『天才てれびくん』のオーディションも受けてみないか?」と言われて。「『天才てれびくん』に受かったら事務所にも入れてあげる」と言われたので、これはチャンスが2倍になると思ったんです。

小竹:はいはい。

長谷川:そしたら『天才てれびくん』に受かって、事務所にもそれと同時に入ったので、ただの一般の小学生が事務所に入ってNHKのレギュラーになるみたいな形で本当に急に始まった感じでした。

小竹:もともとタレント活動をしたいという思いはあったのですか?

長谷川:一切ないです。ダンサーになりたいとは思っていたけど、テレビに出て何かをするみたいなことは全く考えていなかったです。

小竹:ダンスはどこが好きだったのですか?

長谷川:今でもそうなのですが、私は基本的に人に褒められることをやりたいタイプなんです。

小竹:自分がやりたいという思いより?

長谷川:そうそう。入り口は自分がやりたいから入るので、ダンスもやりたいと大騒ぎして習い始めているのですが、そこで褒められたり飛び級で上のクラスに入れてもらったりして、「私はダンスに向いているんだ」と思うとスイッチを入れて頑張れる。

小竹:うんうん。

長谷川:最初は自分がやりたいから入り、それが人から求められている、人から褒められているということにリンクしてくると燃えてくる。だから、途中は好きとか嫌いとかあまり関係ないですね。期待されているから頑張るという感じです。

小竹:てれび戦士になった当時を振り返ってみて、どういった感じでしたか?

長谷川:本当に急に始まって、自分がタレントや子役としてどういうポジションで、どう採用されたのかも全くわからない状態で受かっちゃったんです。

小竹:言われなかったのですか?

長谷川:言われなかったですね。ただ、周りの大人の顔を見ているうちに、「もしかしたら私はおもしろで採用されているのかも」と気づいたので、おもしろに切り替えましたね(笑)。

小竹:自分で切り替えたのですね(笑)。

長谷川:人からどう見えているのか、どう期待されているのかで頑張りたいタイプだというのはずっと一貫してあるので、私はおもしろのほうがハマるし目立つし評価されるというのは、入って1週間くらいで気づきました。

小竹:早い!

長谷川:それに気づくまでは、地元では自分はそこそこ可愛いと正直思っていたのですが、「全然違う。もう骨から違う子がいっぱいいる」って気づいて、可愛いは捨てました(笑)。

小竹:骨から違う(笑)。

長谷川:誰が一番家事ができるか選手権みたいな企画があって、雑巾がけレースとか糸通しレースとかをやるのですが、たまたま決勝戦まで勝ち上がって、最終決戦がおにぎり作り対決みたいな感じだったんです。

小竹:はいはい。

長谷川:どうしても面白くしたくて、ソフトボールくらいの特大おにぎりを作ってみんなからブーイングを受けたりしていたので、今私が料理家として仕事をしていることに当時のスタッフさんが一番驚いていると思います。

全てにおいて尊敬できる夫がくれるアドバイス

酒蒸しハンバーグ

小竹:そのまま芸能界にいるわけではなく引退をしたのには、どういった理由が?

長谷川:『天才てれびくん』という番組は総合バラエティーで、大人の人気タレントさんがお昼の帯番組でやるような企画が多くて、『天才てれびくん』を経たからといって、それを活かせるものがあまりないんです。

小竹:なるほど。

長谷川:結局、その先のステップに進みたいときに、『天才てれびくん』のキャリアは名前は売れているけど、例えばモデル活動やお芝居などをやってきた子たちに比べると、積み重なっていかない部分があって…。

小竹:難しいところですね。

長谷川:私もその壁にぶつかって…。お芝居をやりたいと思っていたけど、『天才てれびくん』で頑張っていたことはなかなかつながっていかない。逆に、天てれに出ていた子という色が変についちゃっているために嫌がられることもある。だから、オーディションがうまくいかない時期もありました。

小竹:そういうこともあるのですね。

長谷川:やめた時期は舞台とかでいろいろとできてはいたのですが、将来どうしようかと悩んでいた20歳のときに婚約をしたんです。だから、自分でやめる決心はつかなかったので、結婚するのを言い訳に、いい意味で人のせいにして決断できたというのはありますね。

小竹:まだ20歳だったんですよね?

長谷川:子どもの頃からいろいろな大人と接している中で、「私もこの人みたいになりたい」と一番感じたのが夫だったんです。

小竹:それはどういった部分ですか?

長谷川:生き方、考え方、全てにおいて尊敬できました。こう生きられたら楽しい人生になるだろうという考え方の人だったので、一緒に過ごしていけたらいいなとは思っていました。もし向こうが結婚しちゃったら会いにくくなるので、ずっと友達でいられなくなるなら結婚しちゃったほうが早いなみたいな感じでしたね。

小竹:生き方などに対するアドバイスをくれたりもするのですか?

長谷川:自分の考えとは別路線で補強をしてくれます。「あかりちゃんの考えはこういう面から見て正しいし、こういう要素が入るともっと伸びていくとも思う」みたいにいろいろな方面から考えてくれて、「だから大丈夫だと思う」とアドバイスというより勇気をくれる感じです。

小竹:それは料理に関しても?

長谷川:私の本『つくりたくなる日々レシピ』の表紙のハンバーグに関しても、私はレシピを作る際に最初にテーマや要素を決めるから、帯に書いてある「こねない、みじん切りなし、パン粉なし!混ぜる~焼くまでフライパンひとつ」だけを先に考えていて、最初に作ったハンバーグがちょっと汁気のないハンバーグだったんです。

小竹:うんうん。

長谷川:それを夫に食べてもらったら、「あかりちゃんはハンバーグのハンバーグである要因は何だと思う?」って聞かれて、「肉々しさかな」と答えたら「僕もそう思う」と。

小竹:すごい質問ですね。

長谷川:「僕はハンバーグとつくねの違いは汁気だと思う」って言うんです。「これは汁気がないからつくねに感じちゃう」と。「ハンバーグの要因を満たしていなくて期待を下回っちゃうから、もう少し汁気があったほうがいいと思う」と言われて酒蒸しになったんです。

小竹:この表紙のハンバーグはご主人との合作なのですね。ご主人もお料理をされるのですか?

長谷川:料理は全くしないから、逆に言いたい放題言えるというか。料理をする私からしたらわけのわからないことも言えちゃうから、それが逆に良くて。「ここにこれを入れてみたら?」とか突飛なことも言う。そんな料理は見たことないと一瞬思うけど、見たことないから面白いかもって。

小竹:なるほど。

長谷川:できるできないとか、変か変じゃないかとかの境目が全くない状態で、素直に味だけの状態で意見をくれるので、すごく助かっていますね。

努力が形になる“料理”に魅力を感じた

小竹:『天才てれびくん』のてれび戦士から料理家になるには何かきっかけがあったのですか?

長谷川:芸能活動をやめた理由として、天てれを卒業した後にオーディションに受からなくてしんどい時期があって、とにかく正解の無さが辛かったんです。

小竹:うんうん。

長谷川:当たり前ですけど、オーディションを受けても努力をしたことが努力した通りに結果になることはまずなくて。何を頑張ればいいのか、何が正解なのかが本当にわからない状態で受かる受からないをジャッジされてしまう。

小竹:そうですね。

長谷川:そういう世界でずっとやっていると、正解があるというか、真面目に努力したものがそのまま形になるということにすごく魅力を感じるようになって、私にとってはそれが料理でした。

小竹:どういった部分が?

長谷川:レシピ通りに1個1個手順をちゃんと踏んでいくだけで、すごくおいしい料理が目の前に完成するという快感がたまらないと思って。

小竹:そこですよね!

長谷川:何を努力すれば自分が評価されるのかがわからないという悩みが、料理によってスパッと解決されたんです。頑張る道筋が書いてある、答えが書いてある状態で、その通りに頑張ればおいしいものが出来上がるって、こんなにいいことはないと感じました。

小竹:私も大好きなのですが、non-noの『お料理基本大百科』が好きだそうですね?

長谷川:もともと母が結婚したときに買った本で、ずっと実家に置いてあったんです。子どもの頃からパラパラめくってはいたのですが、実際に読み込み始めたのは料理家になってからですね。

小竹:じゃあ最初に料理に目覚めたときは違う本で作っていたのですか?

長谷川:レシピ本を買ったり読んだりすることが好きだったので、とにかく本屋さんに行きまくって「これ作りたい」とグッときた料理本を買って、片っ端から作っていくみたいなことをやっていました。

小竹:それはご家族に振る舞っていたのですか?

長谷川:家族に食べてもらっていました。ただ、作りたいものが多すぎて胃袋がだんだん足りなくなってくる。そうすると胃袋大募集みたいな発想になってきて、高校の友達に料理を配りまくったりしていましたね。

小竹:学校に持って行って?

長谷川:学校にも持って行っていましたし、休みの日に作りにも行っていましたし、食べたいと言われたらどこにでも運んでいました。

小竹:みんなすごく喜んでいますね、それ。

長谷川:すごく喜んでいましたね。でも、私からしたら行き先のない料理を作ることほど苦しいことはないので、食べてくれてありがとうみたいな感じでした。

小竹:料理は誰も嫌がらないですもんね。

長谷川:そうなんですよ。だから、どうしたら評価されるのかがわからなくて悩んでいた人間にとっては、手順通りに作っていくだけでこんなに喜んでもらえる世界があるのがうれしくて。

小竹:高校時代に思い出に残っているエピソードはありますか?

長谷川:「あかりのおにぎりの日」みたいなのがあって、クラスメイトの仲いい子におにぎりを週に1回くらい配っていたんです。

小竹:すごい日ですね。

長谷川:それが今のレシピ作りの始まりと言ってもいいのですが、友達に好きな味や好きな具材を聞いて、自分で組み合わせを考えてカスタマイズした状態で1人ずつ違うものを作ってあげていました。

小竹:それぞれ違うのですね。

長谷川:味の組み合わせを想像したり、喜んでもらうためにどういうおにぎりを作ろうかと空想したりする時間ごと好きだったので、それが今の仕事の原体験になっているかもしれません。

小竹:それはすごくいい経験ですね。

長谷川:それがなかったらレシピを作ることの面白さに気づけなかったと思います。おにぎりなのでレシピというよりは組み合わせだけですけど、組み合わせの面白さや楽しさに目覚めましたね。

師匠である有賀薫さんから学んだこと

小竹:そういうものを作りながらも、より深く学びたいと思って栄養の勉強もされたのですよね?

長谷川:そうですね。違う道もあるかなと思って芸能活動を辞めたのはいいものの、どうしようかとなったときに、私は高校を卒業して大学に行かずに芸能活動を続けていたので「大学に行ったら?」と夫に言われて。

小竹:はいはい。

長谷川:ただ、ある程度は明確にこのために頑張るという目標がないと、ぼんやりと4年間は今の年齢からはちょっと難しいと思ったので、料理が好きだから短大で栄養士の資格取得を目標に頑張ろうと思って、まず短大に入ってそこから4年制の大学に編入しました。

小竹:管理栄養士の資格を持ったことは今の料理にも活かされていますか?

長谷川:めちゃくちゃ活かされています。それがなかったら料理家になろうとは考えなかった。最初に短大に入ったときは、なれるものが無限にあると思っていた状態なので、料理家になりたいとは全く思っていなかったんです。

小竹:うんうん。

長谷川:ただ、やっぱり自分のやりたいことと人から評価されることのうまい交差点で私は生きていきたいんです。栄養学を学んでいく中で、栄養学はそこまでキャッチーな学問ではないことに気づいて、自分自身がキャッチーな人間になって地に足のついた発信をしないと広まっていかないとすごく実感したんです。

小竹:なるほど。

長谷川:だから、今までやってきたことを活かしながら、しっかりと自分が影響力を持つことで、正しい栄養学やおいしい料理を通した暮らしやすくて心地よい生き方みたいなものをシェアしていけたらいいなと思うようになり、それができる職業は料理家かなと考えました。

小竹:最初はスープ作家の有賀薫さんのアシスタントをしていたそうですが、それはどういうきっかけで?

長谷川:大学4年生の頃から料理家になりたいと思い始めていたのですが、どうやってなるのかもわからず、私はレシピ本が好きというのが原体験としてあるので、レシピ本を出版したり料理雑誌に出たりする人になりたいと思ったんです。

小竹:うんうん。

長谷川:そう考えたときに、SNSだけを頑張るというのは自分の中でちょっと違うかなと感じて。それは料理インフルエンサーになるので、私が憧れている雑誌やメディアでレシピを発表していくという形とは少しずれてしまうイメージがあったんです。

小竹:はいはい。

長谷川:今は数の時代ではあるので、インフルエンサーとしてもある程度は認知されないといけないけれど、そこだけだと自分の思い描いている料理家像ではなくなってしまう。自分が思い描いている活躍をされている方のアシスタントをしないと同じような活躍の仕方はできないだろうと思いました。

小竹:料理家の世界に入っていかないとですよね。

長谷川:そんなときに、有賀先生がアシスタントを募集するというのをSNSで見て、有賀先生の料理に対する考え方や発信していることがすごく好きだったので、もう採用していただくしかないと思って。

小竹:どんなことを書いて送ったのですか?

長谷川:自分が作っていきたい料理とか、自分が料理を好きになったきっかけとかをワーッと書いて送って、面接をしてもらって、お手伝いさせてもらえるようになったという感じですね。

小竹:実際に有賀さんのアシスタントをされて、どういった学びがありましたか?

長谷川:もう全てですが、実務的なところで言うと、レシピ本の撮影はこういう段取りでやるんだとか。例えば、スタッフさんが来たときに、まずはお茶を出して、撮影にこんな感じで入っていってとか、そういう細かいところからですね。

小竹:うんうん。

長谷川:レシピ作りでの素材の味の活かし方や発信の仕方も学びました。有賀さんは決してバズらせようとしているわけではないのにグッとくるものがあるのは、この料理がおいしいから作ってほしいというのはもちろんですが、それ以上に料理を通した別のことを伝えようとしている面があると思うんです。

小竹:そうですね。

長谷川:料理が媒体として活躍しているという、新たな料理SNSの運用の仕方だなと感じます。料理を発信するSNSは「これがおいしいから作ってね」「こうするとおいしいよ」ということが主軸になりがちですが、有賀先生は「この料理が生活をどう良くするのか」まで見せる発信の仕方をされるので、それは私もやりたいとすごく思いました。

小竹:有賀さんはスープ作家ですが、作家というだけあって、その先に物語がありますよね。

長谷川:そうなんです。物語がレシピを通して見えるし、見せてくれるし、有賀先生のスープじゃなきゃいけない理由がレシピの中に詰まっているから替えが利かない。スープのレシピはたくさんあるけれど、有賀先生のスープを作りたいと思わせる力があるので、それは何に起因しているのだろうというのはすごく考えますね。

小竹:長谷川さんもそこは考えますか?

長谷川:そうじゃなきゃいけないなと思いますね。「長谷川あかりさんのこれを作りたい」と思っていただくにはどうしたらいいのだろうということをすごく考えます。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第9回・第10回(7月5日・19日配信) 長谷川 あかりさん

料理家・管理栄養士/10歳から20歳まで子役・タレントとして活動。大学で栄養学を学んだ後、SNSで手軽かつオシャレなレシピを発信し、瞬く間に人気アカウントに。雑誌、WEB、テレビなどでレシピ開発を行う。7月3日に初のパーソナルムック『DAILY RECIPE Vol.1』(扶桑社)を発売。著書に『つくりたくなる日々レシピ』『クタクタな心と体をおいしく満たす いたわりごはん』『いたわりごはん2 今夜も食べたいおつかれさまレシピ帖』『材料2つとすこしの調味料で一生モノのシンプルレシピ』がある。

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子

クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
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執筆者情報

クックパッドニュース編集部

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