料理の長寿番組『きょうの料理』(NHK Eテレ)で40年以上にわたって、お茶の間に家庭料理を伝え続けている現役最高齢91歳の日本料理研究家・鈴木登紀子さん。“ばぁば”の愛称で知られる鈴木さんに、“料理のイロハ”を教えてもらう、短期集中連載です。
◆ 短期集中連載・登紀子ばぁばに学ぶ!料理の基本
今年も早いもので、もう師走。寒さも本格的に厳しくなってまいりました。どうか温かい、栄養のあるものをたんとお召し上がりになって、ご自愛下さいませ。 ばぁばはしばらく前から、肝臓がんと共存しておりまして、1年に2〜3回ほど、治療のために病院という名の別荘へお泊まりしておりますが、それ以外は寝込むこともなくいたって元気に過ごしております。それはきっと私の母、お千代さんのおかげ。母は小柄で生まれつきとても丈夫な人でした。亡くなるまで虫歯ひとつなく、私が今も、毎日自分の歯でお食事をいただけるのも、そんな母のおかげだと思っております。いささか太っちょなところまでそっくりで、それはまあ、ご愛嬌とさせていただきます(笑)。
健康であるというのは、大変ありがたいことです。健康だからこそ、子供たちを無事に育て上げ、好きな仕事に励むことができ、おいしいものを“おいしい”と感じることができるのですから。老々介護ながら、じぃじの最期の時まで自宅で一緒に過ごせたのも、丈夫な体のおかげだと思っております。
私はまた、あまり大きな欲はもたないことにしております。お料理の仕上がりがたいそうよかった、おいしいものに出合った、今日は肌の具合がよくてお粉のノリもいいわ…などなど、小さな幸せは日々の生活の中に転がっておりますもの。自分の身の丈にあった幸せというものをつくづくと感じるのです。
人生は短い、といいますが、女の一生は意外と長いもの。しんどくなるときもあるでしょう。そんなときは家族を送り出したら、ボーッと何もせずに過ごしてもよいの。そうして、夕食の支度から「よし!」と気合を入れましょう。ツヤツヤのご飯を炊いて、寒さの中、1日頑張ってきたご家族が「ああ、おいしい」とホッと心が落ち着くおみそ汁を用意して。おかずなんて、あれこれ用意しなくてもよいのです。あなたの家族を思う心がこもっていれば、それがごちそう。唯一無二の「おふくろの味」なのですから。
生きるためには食べなくてはなりません。せっかく食べるならおいしく作って食べたほうがよろしいでしょう? おいしいものを食べている人は、とても元気に見えます。そして、おいしいものを作る人は、とても美しく目に映ります。お料理はまごころです。ご家族を思う心を隠し味に、ご自分なりの家庭料理をお作りくださいませ。あなたの「召し上がれ!」の笑顔が、ご家族の健康と幸せを支えていることを、どうか忘れないでくださいませね。
取材協力:小学館
「ばぁばの料理」最終講義
鈴木登紀子・著
定価(本体1,400円+税)
“フツーの主婦”から46歳で料理研究家としてデビューした、登紀子ばぁばの 約半世紀におよぶ料理人生を語り下ろした1冊。厳選した20点のレシピつき。