地域のつながりづくりと子どもの貧困対策の二つの目的から、地域の大人が無料か安価で食事を提供する子ども食堂。その活動に共感し、自らも子ども食堂を開催するようになったのが、タレントのはるな愛さんです。はるなさんが「食を通じたコミュニティ」に惹かれたのには、子どもたちへの温かい気持ちと、ご自身の幼い頃の経験が大きく影響していました。その想いを語っていただきます。
子ども食堂に関わってみようと思ったきっかけは、出演するラジオ番組で社会活動家の湯浅誠さんから子どもたちの貧困や子ども食堂の話を聞いたことでした。
いまの時代に食べていけなくて餓死する子どもがいるなんて衝撃的で、子どもたちのことを考えると胸が苦しくて。食べられないことを誰にも伝えられない世の中の仕組みは、おかしいんじゃないかと思いました。
それに、私は子どもが大好きです。「自分にも何かできることはないか」「子ども食堂を通じて子育てをしたい」と思い、湯浅さんに相談をして、子ども食堂を始めたんです。
実は私も、幼い頃は本当に貧乏でした。家のガスや電気、水道が止められたこともありました。おやつを買うお金もないから、つつじの蜜や、ずっと洗っていないカーテンの端をチューチューと吸っていたのを覚えています。
それでも母は、工夫してご飯を食べさせてくれました。我が家のすき焼きは、ツナと白菜を卵でとじたもの。これが意外に美味しいんです。母の作るアイデア料理は温かく、心を豊かにしてくれました。
ですが、親は夜も働きに出ていましたから、晩ご飯は弟と2人のときや、1人で食べるときもあって。このときだけは、孤独で寂しかったのを覚えています。だからこそ、食べることに困っている子どもたちにも、食事はみんなで食べたほうが楽しいことを知ってほしいんです。
「美味しい」という感覚は、味覚だけではなく、匂いを嗅ぐ、食べるときの音を聞く、触感を楽しむなど、五感を刺激することで感じ取れるのだそうです。子どもたちにはそういう経験をたくさんしてほしいし、食を通じて夢を見てもらいたいと思っています。
幼少期は、自分の性のことについても、誰にも言えずに悩んでいました。そのときは、いじめられていて、学校にも居場所がなくて。「人生をやめよう」と何度も危ないことをしました。でも、当時母が働いていた飲食店のお客さんが、私の気持ちに気づいてくれて。「あなたと同じような生き方をしている人がいるから、その人が働くお店に行こう」と連れて行ってくれたんです。
お店で優しいお姉さんと知り合うことができました。そこから、少しずつ人生の歯車が噛み合ってきたような気がします。私の場合は、お姉さんに出会ったことで、自分の居場所を見つけられました。
生きていれば辛いこともたくさんありますが、絶対に人生をやめたりしないでほしい。私はいま「生きていて良かった」と心から思っています。だって、性のことを親が認めてくれて、すばらしいステージに立てて、みんなから拍手をいただける人生を送っているから。
コミュニティが自分に合わないと感じたら、私のように移動してみることも必要です。子ども食堂には、子どもだけではなく、運営に関わる大人の方々も参加しています。たくさんの人とつながって、自分の居場所を見つけるきっかけを掴んでいただきたいです。
もちろん、ボランティアですから大変なこともあります。でも、それ以上に良いことのほうが多い。
私は自分のお店に募金箱を置いているのですが、たくさんのお客さまが募金を通じて支援をしてくれています。なかには、「子ども食堂で使ってください」と、たくさんのお米を送ってくださるお客さまもいらっしゃいました。
この間は、子ども食堂に関する私の記事を見たタレントの東野幸治さんが「俺もそういうことをしたいけど機会がないから、これを食費に使って」と寄付をしてくださいました。少しずつではありますが、芸能界にも子ども食堂に興味を持ってくださる方が増えてきて、本当に嬉しく思っています。
そうは言っても、人によっては負担に感じるかもしれませんから、無理をせず、自分のペースで子ども食堂と関わるのがいいと思います。場所を提供するだけ、料理を作るだけのボランティアもあります。
大人数で食べるときのレシピをクックパッドに載せるのもいいかもしれません。私もクックパッドをよく参考にしているので、子どもが喜ぶレシピや、好き嫌いなく食べられるレシピなんかが掲載されていると嬉しいです。
子ども食堂は、子どもはもちろん、私たち大人もつながることができるコミュニティです。育児に疲れたり、子育てに悩んだり、近所のコミュニティで本音を言えなかったりと、つい頑張りすぎてしまうママやパパが知り合える場でもあります。1人でも多くの方に立ち寄っていただいて交流できたら、これほど幸せなことはありません。
(取材:植木優帆 TEXT:中薗昴)
1972年生まれ。大阪を中心にバラエティ番組で人気を博し上京。2008年、松浦亜弥のエアーものまねで大ブレイク、同年12月には、「I・U・YO・NE~」で歌手デビューを果たす。2009年には『ミス・インターナショナル・クイーン 2009』で優勝し、ニューハーフの頂点を極めた。芸能活動を行う一方、お好み焼き屋・鉄板焼き店・バーの4店舗を経営をしている。現在、芸能活動、飲食店経営とともに、学生時代のいじめやLGBTの苦悩など波乱万丈に満ちた自身の経験をもとに、LGBTの啓発や人権啓発などの講演活動も行っている。