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コラム

熱中症を予防する「朝ごはんの食べ方」って?医師が解説

「地球は沸騰化の時代に入った」。2023年の夏、国連事務総長はこう述べました。温暖化を超え、次のステージである沸騰化が到来したことは、熱中症が世界中の人々の生命を脅かす時代に突入してしまったことを意味します。猛暑の中で、自分や家族の命を守るためには、どうしたらいいのでしょうか? そこで今回は、熱中症、脱水症対策の専門医である谷口英喜医師による著書『熱中症からいのちを守る』(評言社)から、熱中症対策となる食生活のヒントを少しだけお届けします。

熱中症は予防でゼロにできる唯一の病気

熱中症の患者数は年々増えていますが、実は熱中症は正しく予防すればゼロにできる唯一の病気なのです。日本でも、予防医学の考えが広まってきていますが、がんや糖尿病の発症をゼロにすることは不可能です。しかし、熱中症は、きちんとした予防策をとれば、発症をゼロにすることも夢ではありません。多くの病気は発症してから治療するのに対し、熱中症は予防に重点をおくべき病気といえます。熱中症は、命を落とすリスクや、助かったとしても後遺症が残る可能性もある油断できない病気ですが、命に対する影響だけでなく、社会的な影響も考えてみましょう。

熱中症で救急車を呼ぶと、1台で5〜10万円の税金が使われます。熱中症が重篤化して集中治療室での治療が必要になると、1日あたり数十万円の治療費がかかります。何よりも、熱中症で病院を受診する患者さんが増えることは、熱中症以外の診療の妨げにもなってしまうのです。熱中症の予防策は、きちんとした指導を受ければ、誰もが効果的に実践できるものばかりです。しかも、予防策は決して難しいものではなく、誰でも簡単に実践できます。自分の命を守るため、社会的な問題を少しでも緩和するためにも、自分たちでできるところから始めることが大切です。

【熱中症予防の食生活:朝】
夏は朝ごはんがとくに重要

真夏の食事で重要なのは、まず朝ごはんをしっかりと食べることです。3食食べることは年間を通して大事ですが、夏はとくに朝ごはんを食べることが大切になってきます。

朝ごはんの役割は大きく3つあり、朝の水分補給自律神経の活性化暑いところに出る体力をつけることです。私たちの体で活動を支えてくれるステロイドホルモンが分泌される時間が、午前10〜11時といわれています。体が最も活動的になる午前10時ごろに備えて、朝ごはんで栄養と水分が十分体に補給されている状態が理想的です。

バランスのとれた朝ごはんで栄養と水分を補給して胃腸を動かすことで、自律神経を活性化させましょう。朝ごはんが食べられなかった場合は、普段の水分補給に加えて、500mlほど追加して水分補給することが必要です。食事では塩分も一緒にとっているので、追加の水分補給は、水やお茶よりも塩分を含んだスポーツ飲料がおすすめです。

子どもは水分を失いやすく、高齢者は食事量が減りやすいので、とくに意識して朝ごはんを食べるようにしてください。

夏本番になってからの食事は、水分とミネラルを意識するとよいでしょう。ミネラルのなかでも、カリウムは尿を出しやすくする作用があるので、体温を下げることにつながります。水分やミネラルは、果物やトマト、きゅうり、カボチャなどの夏野菜に多く含まれています。旬の食材を使った料理は、美味しくて栄養が豊富なだけでなく、熱中症予防にも役立つのです。

ビタミンについては、暑熱順化を促すビタミンCに加えて、疲労回復に役立つビタミンBも意識してみてください。ビタミンBを多く含む食材で身近なものは、豚肉です。水分とミネラル、ビタミンBをまとめてとれるメニューとして、夏野菜カレーなどが手軽でよいと思います。

暑さで食欲が落ちてしまいがちな夏ですが、食事は質だけでなく十分な量を食べることも大切です。まずは3食バランスよく食べることを心がけましょう。

【熱中症予防の食生活:夜】
寝る前の水分補給が大事!

寝る直前に食事をすると、寝ている間も胃腸が働いている状態になり、体が十分に休まりません。満腹感が気になって眠りにくくなることもあるでしょう。消化が完了するには4〜5時間かかるので、胃腸を完全に休めるためには寝る5時間ほど前に食事を終わらせるのが理想ですが、それはあまり現実的ではないですよね。せめて寝る2時間前には食事を終わらせて、胃の中を空にした状態で床につくようにしましょう。

また、寝る前の水分補給も大事です。

寝る前に水分補給をすることでトイレが近くなってしまうのが不安な人もいるでしょう。加齢とともに夜中のトイレは増えるので、高齢者ほど寝る前の水分補給は控える人が多いかもしれません。しかし、まったく水分補給をせずに寝るのはおすすめできません。寝ている間も汗や皮膚、呼吸などから水分が体の外に出ていくので、脱水症になってしまう可能性があるからです。寝ている間の脱水症は、熱中症を引き起こすだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞などの病気につながってしまうおそれもあります。

水分補給の仕方を工夫することで、お腹への負担や夜中のトイレを心配することなく脱水症を予防できます。寝る前に水分補給をする際のポイントは8つあります。

1、寝る前の水分補給は150ml程度の少量にする
2、一気に飲まず、5分ほどかけて飲む
3、水分は常温か、やや温かいものを飲む
4、水分の種類は白湯かカフェインの含まれていない麦茶などにする
5、可能であれば、夜中に目が覚めたときに再度水分補給をする
6、起きてすぐにも、寝る前と同様の水分補給をする
7、トイレが近くなる場合は、寝る前に飲む量を150→100→50mlと減らす
8、50mlでもトイレが近くなるようであれば、泌尿器科を受診する

上記8つのポイントに留意して、寝ている間の熱中症を予防しましょう。


本文は『熱中症からいのちを守る』(評言社)より一部抜粋・編集しています。

メイン画像提供:Adobe Stock

著者メッセージ

本書は、2023年6月に出版した、前書(いのちを守る水分補給 評言社)の続編として、熱中症にフォーカスをあてて執筆しました。熱中症対策の書籍は意外と出版数が少なく、あっても医療従事者向けの難しい内容のものばかりでした。本書では、熱中症予防は病院では無くご家庭で、会社で、学校ですることが効果的であるという気持ちから、一般の方々にわかりやすい内容にすることを心がけました。そのため、水分補給や食事に重点を置き、誰でも特別な設備が無くても熱中症対策をはじめられるようになっています。特に、昨今、インターネット上にあふれかえった熱中症対策の情報を整理して、皆さんの日頃からの疑問にも答えられる内容になっています。是非、ご家族で、お友達同士で、本書を読み合って、熱中症のことについて情報交換をしてもらえればと思います。熱中症はとにかく予防と、罹ってしまった時の適切な対応が大切なのです。この本の内容を最大限に活用して、皆さんで力を合わせて、地球沸騰化の時代を生き抜いていきましょう!

書籍紹介

『熱中症からいのちを守る』(評言社)
地球が温暖化を超え、次のステージである沸騰化が到来したといわれます。
それは、熱中症が世界中の人々の生命を脅かす時代に突入したということです。日本でも、暑い季節になると、連日、熱中症に関する様々な報道が賑わせます。 私たちが熱中症から、自らの、そして周りにいる人たちの命を守るためには、どうしたらいいのでしょうか。

まず普段から“正しい”予防策を徹底し、熱中症になってしまったら速やかに“正しい”対処を施すことが大切です。熱中症は予防できる唯一の病気です。また熱中症は、病院に来る前に現場で施す治療効果も高いです。 しかし、誤った対処法をすると、重い後遺症を残し、命を失うことになりかねません。

本書は、テレビ・ラジオ出演が300回を超える医師が、世の中にあふれた熱中症関連の情報を整理して、繰り返しマスメディアからまことしやかに発信される予防法や対策法も多く取り上げ、それに対する答えを根拠をあげてわかりやすく解説しています。本書のすべての情報は医学的・科学的根拠に裏付けられたものです。自分と家族と仲間を守るために、熱中症の正しい知識とその対策を学び、これ以上夏が涼しくならない未来に備えましょう。

著者紹介

谷口 英喜(たにぐち ひでき)
済生会横浜市東部病院患者支援センター長。医学博士。1991年 福島県立医科大学医学部卒業。その後、横浜市立大学医学部麻酔科に入局。2011年 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授。2016年 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長。現在、東京医療保健大学大学院客員教授、慶應義塾大学麻酔科学教室非常勤講師を兼任。熱中症・脱水症に関する報道でマスコミに多数出演。専門は、麻酔学・集中治療学・周術期管理・栄養管理・経口補水療法・脱水症対策など。臨床栄養の生涯教育サイト谷口ゼミを開塾し、医療従事者の生涯教育に邁進中。

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