料理僧・青江覚峰(あおえ かくほう)さんが提案するのは、誰でも簡単に作れる「一汁一菜のお寺ごはん」。実際にお坊さんたちが食べている、肉や魚を使わない一工夫あるレシピを教えていただきました。からだと心がほっとゆるむ、優しい味わいのお料理ですよ。
日に日に暖かくなってくるこの季節、スーパーに並ぶ野菜も次々に入れ替わります。
毎年この時期になるとなんだかウキウキして、スーパーに行くのが楽しみになります。
年明けの頃はまだ冬野菜だったものが、次第に菜の花やふきのとう、こごみといった山菜が姿を見せる春の始まり。新じゃがやウドが並び始める春の半ば。そしてたけのこやそら豆が出る頃になると、そろそろ春もおしまいかなと感じるようになります。
この時期お寺ではお彼岸などで忙しく、うっかりすると気づかないうちに季節がどんどん移ろってしまうことも。毎日必ずいただく食事から、季節を感じることができるのはありがたいことです。
そういう意味では、食材はカレンダーのような役割を果たしているとも言えます。一日ごとというよりもう少しアバウトに「暦」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。
当たり前のことですが、旬のものはその季節にたくさんとれるものです。
今のように流通がしっかりしているわけではない頃は、その時期その場所で大量にとれたものをどうやって食べきろうかと知恵を絞っていたのは想像に難くありません。食べても食べてもまだ残っている。
毎日同じような食材、同じような料理になりがちですから、料理を作る側は、食べる人が飽きないような工夫が必要です。焼いたり煮たりと調理法を変えたり、また、視覚的にも楽しんでもらえるよう気を使ったりしなければいけません。
なんて言うと窮屈に感じてしまいますが、つまりは、同じ食材でも色々と手を変え品を変え工夫することで、飽きることも余らせることもなく、おいしく楽しく食べましょうね、ということです。
さて、旬の野菜を意識的に取り入れることは、栄養やコスト、さらにはおもてなしという意味でも理にかなったものです。けれど、では旬から外れたものを使ってはいけない、などと決めつけるのは、かえって無理が生じてしまうこともあります。
幸い、生産、加工、物流、小売と、あらゆる場面において多様な仕組みが開発され、わたしたちは季節を問わず様々な食材を手にしやすい環境に暮らしています。こうあるべき、といった既成概念にとらわれるばかりでなく、「あるものでおいしく作る」といった柔軟性も心得ていたいものです。
今の旬といえばえんどう豆とたけのこ。鞘付きのえんどう豆はこの時期だけの贈り物です。
たけのこは言わずもがな。関東でもゴールデンウィークの頃はたくさんとれます。
今回ご紹介するえんどう豆のすり流しは、たけのこを沈ませて食感のアクセントに。いずれも今が旬の食材です。
一方おかずのほうは、こちらもまたこの時期が旬のかぶをくり抜いたものに、たけのこやえんどう豆、そして決して今が旬ではないものの、通年を通して手に入れやすいきのこや人参を用いたレシピにしてみました。
何事につけ、これはこうでなくてはいけない、という固定観念にしばられては、面白みもなく発展も望めません。
たけのこ(水煮)…30g
えんどう豆…正味100g
【A】
水…50cc
酒…大さじ2
薄口醤油…小さじ1
【B】
豆乳(調整)…200㏄
白味噌…大さじ1
塩…少々
白こしょう…少々
1.たけのこの穂先は、タテに4つ割りにする。ほかは厚さ5mmのくし切りにする。【A】とともに鍋に入れ、水気がなくなるまで煮る。
2.えんどう豆は塩茹で(分量外)して、ざるにとって粗熱をとり、【B】と合わせてミキサーにかけ、塩、こしょうで味を調える。
3.器に1と2を盛り付ける。
かぶ…2個(150g程度)
かぶの中身…40g
きくらげ…15g
たけのこ(水煮)…30g
人参 …20g
えんどう豆…10g
ごま油…小さじ1
【A】
砂糖…小さじ1
味噌…小さじ1
醤油…小さじ1/2
【B】
だし…200cc
醤油…大さじ1/2
1.かぶの葉を切り落とし、中身を深くくり抜く。
2.かぶの中身、きくらげ、たけのこ、人参をみじん切りにし、中火にかけたフライパンにごま油をひき、【A】とともに1分炒める。
3.2をくり抜いたかぶの中に詰め、鍋に入れる(鍋はできるだけかぶがパンパンに入る小さめのものが良い)。
4.3に【B】を加える。この時、かぶの中にだしが入らない程度の量に調整し、中火にかける。沸騰したら弱火にし、蓋をして15分煮る。
5.4を盛り付ける。好みで、蒸したかぶの葉の付け根を蓋として使う。
できるだけ旬のものを、できるだけ多様な調理で。と気にかけながら、手に入れやすいもの、調理しやすいものを気軽に取り入れ、ご自身の料理を楽しんでください。
1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。
ユニット「料理僧三人衆」の一人として講演会「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」などで料理をふるまう。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)、『お寺のおいしい精進ごはん』(宝島社)など。
【公式HP】https://www.ryokusenji.net/kaku/