cookpad news
コラム

医師が勧める「痩せる炭水化物」って?糖質制限ダイエットをする人に知ってほしい真実

なんとなく信じている健康や医療のウワサって本当に正しいの?医師である柳澤綾子さんの著書「身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。」(Gakken)から、気になる最新の健康情報を一部抜粋してお届けします。

揚げ物の油は脂肪にはならない

数年前から世間では盛んに、「糖質制限」やそれを用いたダイエットが流行っているような気がしませんか?糖質制限と聞けば聞くほど、気になりませんか?きっとその糖質制限とやらをやれば、やせるのではないかと。「みんなやってるみたいだし、とりあえず夜ご飯でお米を食べるのやめようかな?」とか「ランチの定食のご飯を小ライスにしてみようかな?」とか。

でも、ちょっと待ってください。その糖質制限って一体何か、そもそも知っていますか?そしてそれが、どのようなメリット・デメリットをもたらすか知っていますか?まずはそこから始めましょう。

アメリカ糖尿病学会(ADA)(1)は、糖質制限の一種「低炭水化物食(糖質制限食)」を「1日の糖質摂取量130g以下、または従来の基準の2000kcalの26%以下」と定義しています。

ハリウッドセレブが多く実践していることで有名になった糖質制限ダイエットの代表格「アトキンス・ダイエット」と呼ばれる糖質制限は、さらに制限を課すもので、「1日の糖質摂取量が50g以下(1食20g以下)」にするように言われているようです。

ではこの「糖質」とは、そもそも一体何者なのでしょうか。糖質とは、三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の中の炭水化物の一部です。炭水化物は、人が消化吸収できる「糖質」と消化できない「食物繊維」の2つに分けられますが、今回はダイエットに関する話なので、吸収できるほうの糖質について考えてみましょう。

糖という字面から「甘いもの」というイメージを抱くかもしれませんが、実際体内で使用される糖質は、「甘いか・甘くないか」は関係ありません。甘い砂糖や果物由来の果糖も、じゃがいもやお米などに入っている甘くないデンプンも、どちらも糖を含みますが、小腸で消化吸収される際にはブドウ糖に分解され吸収されるので、結果的に同じものになります。

この体内に吸収されたブドウ糖は主に体を動かすためのエネルギーとなりますが(脳を活性化するのにも大事な働きをする)、摂りすぎたりして余ったブドウ糖は体内で貯蔵するために、脂肪に変換されてしまいます。一方でよく勘違いされるのですが、揚げ物の油が脂肪になるわけでもないのです。

ということはつまり、このブドウ糖が体内で余らなければ、脂肪にならないわけ。よって「糖質を制限すれば、理論上は脂肪になる材料がなくなるじゃないか」というのが、糖質制限ダイエットのそもそもの理屈なわけです。

茶色い炭水化物を摂るほうがやせた

ここで、「茶色い炭水化物」を摂取するメリットに関する研究結果をお示ししましょう。2004年にアメリカで行なわれた研究(2)によると、茶色い炭水化物の摂取量が1日あたり40g増えるごとに、8年間での体重増加が1.1㎏〝減る〟ことがわかりました。

その他にも複数の研究で、茶色い炭水化物の摂取量が多い人ほどBMIが小さく、ウエスト(腹囲)の数字も小さい傾向にあることが示唆されています(3)(BMI:ボディ・マス指数。[体重(㎏)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。肥満や低体重の判定に用いる。数値が高いほど肥満だと診断される)。

茶色い炭水化物というのは例えば、全粒粉の小麦、玄米や蕎麦粉などを指します。これに対して、全粒粉を精製して作られたきれいな白い小麦粉、同じく玄米を精米した白いきれいな白米、これらは茶色い炭水化物に対して、精製された白い炭水化物ということになります。

精製された白い炭水化物ではなく、精製していない茶色い炭水化物を摂ることで体重減少が期待でき、糖尿病のリスクが低い(4)ということです。しかも、大腸がんのリスクや死亡率も低いという研究結果まで出ています(5)。一体、なぜでしょうか。

これは、全粒粉の外皮などに含まれる不溶性の食物繊維やその他の栄養素が、健康によい影響を与えているためではないかと考えられています。最近の研究では、食物繊維を栄養にしている腸内細菌のたくさんの有効な働きが少しずつわかってきているので、このあたりとも関連している可能性もあり、まだまだ今後の研究成果が楽しみですね。

以上から、何でもかんでも糖質を制限するのではなく、適切な茶色い炭水化物を適量食べるようにすることが、健康を促進し、太りにくくもなると言えるのです。

結論:茶色い炭水化物を摂るのがお勧め

(1)https://diabetes.org/diabetes/a1c/diagnosis (Cited 2023 Aug 20)(2)Koh-Banerjee P, Franz M, Sampson L, Liu S, Jacobs DR Jr, Spiegelman D, Willett W, Rimm E. Changes in whole-grain, bran,and cereal fiber consumption in relation to 8-y weight gain among men. Am J Clin Nutr. 2004 Nov;80(5):1237-45. doi: 10.1093/ajcn/80.5.1237. PMID: 15531671.(3)Seidelmann SB, Claggett B, Cheng S, Henglin M, Shah A, Steffen LM, Folsom AR, Rimm EB, Willett WC, Solomon SD. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. Lancet Public Health. 2018Sep;3(9):e419-e428. doi: 10.1016/S2468-2667(18)30135-X. Epub 2018 Aug 17. PMID: 30122560; PMCID: PMC6339822.(4)de Munter JS, Hu FB, Spiegelman D, Franz M, van Dam RM. Whole grain, bran, and germ intake and risk of type 2 diabetes: a prospective cohort study and systematic review. PLoS Med. 2007 Aug;4(8):e261. doi: 10.1371/journal.pmed.0040261.PMID: 17760498; PMCID: PMC1952203.(5)Seidelmann SB, Claggett B, Cheng S, Henglin M, Shah A, Steffen LM, Folsom AR, Rimm EB, Willett WC, Solomon SD. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. LanSep;3(9):e419-e428. doi: 10.1016/S2468-2667(18)30135-X. Epub 2018 Aug 17. PMID: 30122560

著者メッセージ

「エビデンス(証拠)」という言葉を次第に見かけるようになりましたが、用語が一人歩きしてしまい、科学的に正しく使われていない場面も見受けられるような気がしています。我々消費者も正しい情報を自ら取捨選択できる、賢い目を養ってゆく必要があるなと感じています。多くの方に、少しでもわかりやすく、科学的に信頼できる情報をお届けできれば嬉しいです。

書籍情報

身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。

最近巷にあふれては消えてゆく健康情報、それ、本当に科学的根拠ありますか?その情報、本当に正しいですか? 今あなたが行っているそのダイエット、本当に医学的に実証されていますか?世界では毎日何千本もの論文が新しく発表され、健康、ダイエットそして知育など、生活に直結する情報が、『科学的に正しい根拠』をもって目まぐるしく更新されてゆきます。年間500本以上の医学論文に目を通してきた『ママ女医東大医学博士』が、今あなたに本当に必要な情報を、正しくそしてわかりやすくお伝えします。

著者情報

柳澤綾子

日本の最高学府・東京大学大学院 医学系研究科 博士課程修了。大学院時代から、公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを学んできている。現在は、東京大学などで研究を行いつつ、ママ女医の立場から健康格差解消のための啓蒙活動に尽力、講演、記事監修や執筆等を行なっている。 おもしろ経歴として海外医療活動参加歴あり。パナマにて国際船医免許取得後、世界一周クルーズ船船医として世界中からの乗客のべ8000人以上を診察、世界27カ国の病院へ、医師として同行した経験もある。

編集部おすすめ
クックパッドの本