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コラム

カレー研究家・タケナカリーさんのソウルフルな「毎日カレー」の日々【カレーヘッド列伝 Vol.2】

スパイスを楽しみ、カレーをこよなく愛する人たちがいる。ほぼ一年中カレーを家で作り、もちろん外でも食べ、「今度はこのスパイスで〇〇を作りたい!」と日々レシピ探求に余念がない。この連載では、そんなスパイス至上主義で生きる、カレーのことで頭がいっぱいな「カレーヘッド」たちの熱い思いにフォーカス! とびっきり個性的で楽しく、スパイスのように刺激的な彼ら・彼女らの日々を垣間見てみましょう。

【今回のカレーヘッド】 カレー研究家・タケナカリーさん

今回のカレーヘッド、タケナカリーさんは毎日“カレーごと”を更新しています。カレー研究家として活動の領域は日々、現在進行形で拡がっているようです。

例えば、毎日カレーを食べているだけではありません。ある日はテレビで「しゃばしゃばカレー」の魅力を伝えるカレー三兄弟の三男であったり、またある日は発酵デザイナーやアパレルブランドなど、異色の組み合わせのカレーイベントをプロデュースする。今回は、そんな自他共に認めるカレーヘッド、タケナカリーさんのカレーとの向き合い方、その「カレー哲学」について、ご紹介したいと思います。

タケナカリーさん

本名は竹中直己。1980年生まれ。茨城県出身。カレー研究家。カレーに関わる、イベントプロデュースやレシピ開発・商品企画販売などを手掛ける株式会社Chance The Curry代表。“連続カレー三兄弟”(毎日カレーを食べ続けるようになってしまったおじさん3人によるカレーユニット)の三男でもある。
【Web】Chance The Curry
【Instagram】takenacurry

毎日連続カレーから始まった

タケナカリーさんの出身地は茨城県。ふとん屋を営む両親はいつも忙しく、子どもの頃からカレーが食卓に並ぶ頻度は高かった。でも、特にカレー好きだったというわけでもない。タケナカリーさんはそう述懐する。

「店舗兼自宅だったので、家で両親が働いている姿を見るのが当たり前だったんですよ。カレーも普通の固形ルーを使ったおうちカレーだったし、小さい頃から手の込んだ本格インドカレーを食べてたとか、そんな食卓ではなかったですね」

高校生まではバスケットボールに明け暮れていたし、大学に進学してひとり暮らしをするようになっても、それを機にカレー作りに目覚めることもなかった。社会人になって外食が増え、好きなカレー屋はいくつかできたが、カレーマニアと呼ばれるような要素は少しもなかった。

ところが、あることをきっかけに「毎日がカレー」になる。それが起きたのは、5年前のこと。

「ちょっと面白いかな?くらいの気持ちでフェイスブックに4日間連続でいろんなカレー屋に行って、食べたカレーの投稿をしたんですよ。そしたら、すごい反響があって。いいね!はもちろん、何年も連絡をとっていない友人から『ここのカレーは行ったか!俺のオススメだ!』みたいなコメントをもらったりしたんです。

カレーの熱量ってすごいんだなって、その時すごく感動しました。僕もそこからカレーの虜になって、結局、1582日間食べ続けました」

現在は、ほぼ毎日カレーを食べているが、連続記録は止まってしまったそうだ。コロナ期間中にカレーの文化研究に没頭しすぎて、カレーを食べるのを忘れてしまった日があったとか、なんとも正直というか、すごい理由である。

そんなカレーの沼にどっぷりなタケナカリー さんは、実はカレー法人まで設立している。その会社がカレー関連のイベント開催やカレーに関わる商品企画、製作、販売を行う株式会社Chance The Curry(チャンス・ザ・カリー)だ。

社名の『Chance The Curry』は友人たちと集っていた時に決めた。

命名の由来はアメリカのヒップホップアーティスト、Chance The Rapper(チャンズ・ザ・ラッパー)だった。音楽レーベルとは契約をしないで音源は無料配信し、ツアーやグッズ販売で収益を得るという、独自のスタイルを貫くニュータイプのアーティストだ。

音楽だけでなく、ファンを大切にする、その独自のスタイルを敬愛していた。彼のような活動を、カレーでもできないかという思いを込めての命名だった。

Chance The CurryオリジナルTシャツとキャップ姿のタケナカリー さん

カレーを売らないカレー屋さん

Chance The Curry設立第1弾として、最後のごはんひと粒までメタメタすくいやすいカレー皿を開発した。

カレーを食べ続けていく毎日の中でふと、ある共通点に気がついたからだ。食べ終わった後の皿にはわずかな食べ残しがある。この「意外と、ちょっぴり残る」残像が気にかかった。

じっとその皿を見つめた。食材の生産者、カレー屋さんに悪いのではないか?と思った。禅問答が続く頭の中でフッとアイデアが降りてきた瞬間があった。

「そうだ、この“ちょい残し問題”を解決する、オリジナルカレー皿を作ろう」と閃く。

暗中模索の日々が続いた。問題はカレー皿の形状にあるのではないか。そんなことを悶々と考えていたある日、手の不自由な人が使う皿を障害施設で働く方から紹介された。この形状が素晴らしかった、と言う。

「アシンメトリーで、中心がずれていて、片手でもスプーンですくいやすい。これだ!」 と、この障害者用皿との出会いに興奮するが、現状のままでは、問題があった。まず、メラニン素材なので電子レンジに対応していないこと、そしてカレー皿としては小さかったのだ。

考えた末、陶器で一から作ろうと決断した。サイズを大きくし、片側を穏やかな傾斜のスロープにして、もう片側を残ったごはん粒やカレーをすくいやすいように、きつめのカーブ(通称“カレーの崖”)で形成した。これによってスタッキング(重ねること)も容易になった。

完成まで暗中模索の日々、試行錯誤が続いたが、やっと納得のいくものが出来上がった。

「“カレーの壁”の向こうは、広い“ライスの海”になります。こうすることで、すくう動作について可動域が広くなり、カレーもからめやすくなりました。そして、そのライスの海からカレーの崖に目掛けてスプーンという銀色の帆船を走らせると、カンタンにごはんひと粒まですくい取ることができるのです」

オリジナルグッズを作ることはChance The Rapperの姿勢に通じる、Chance The Curryの基本理念だった。レーベルと契約しないChance The Rapperのように、“カレーを売らないカレー屋”を目指しているからだ。 それがようやく形になった。

「今後考え方は変わるかもしれませんが、今の僕はカレーを売るお店が開きたいわけではなくて、カレーの楽しさを広めたり、カレーを作る人を増やしたいと思っています。なんとなくその考え方が、Chance The Rapperの『音楽はみんなのものだ』みたいな考え方に近い気がするんですよね」

その理念通り、活動の幅は多岐に渡った。新宿歌舞伎町で無料のゲリラカレーを決行したり、手食でないと食べられない「手食カレーナイト」など、異色のカレーイベントをいくつも敢行した。

オリジナルグッズもカレー皿をはじめ、多数商品開発して販売している。テレビやラジオ出演、カレーコラム連載なども、カレーファンを増やしたいという思いの発露であり、タケナカリーさんらしい“カレーごと”なのだ。

原型を作り直すこと6回、タイの工場までも足を運び、やっと理想のカレー皿が完成した ©︎Chance The Curry

カレーは哲学であり、カルチャーなのです

カレーと共に毎日があるタケナカリーさんにとっては、カレーは生きることとつながっている。「カレーは哲学」だという。だからこそ多くの人を惹きつけ、カレーファンを元気づけるチカラを持っている。

「カレーは文化の流れと共にあります。カレーという系統樹を“切り取る人”は歴史ある西の空を仰ぎ見て、“延ばす人”は革新を夢見て踊ります」

カレーを哲学(系統樹)とすれば、タケナカリーさんは“延ばす人”なのだ。カレーの革新を夢見て踊るとは、つまり斬新なアイデア(革新)を、発案して(夢見て)、軽やかに実行していく(踊る)ことと同義ではないだろうか。

「僕のカレーの方向性というのは、トラディショナルな方向ではない」と言う。“今は敢えてカレーを売らないカレー屋”という標榜にしても、カルチャーとしてカレーを発信している、タケナカリーさんならではの独自のスタイルといえるだろう。

オリジナルグッズのカレー皿(赤・白)をはじめ、Tシャツやキャップのほか、ステッカー、ミックススパイス、エコバックなど。どれもタケナカリーさんらしい、ポップで唯一無二なもの ©︎Chance The Curry

カレー作りでスパイスが身近になった

毎日カレーを食べる日々は、4年4カ月続いた。自然とカレーの作り手たちと会話するうちに、カレーを作るようにもなっていた。このカレー作りでも、タケナカリーさんらしいアイデアが随所に活かされている。

大好評だったオリジナルカレーのひとつがコンビーフのレモンカレーだ。レモンの爽やかな酸味が香るコンビーフを使った簡単に作ることができるカレーだった。レシピを公開したところ、反響が多く、リピーターが続いた。斬新でユニークなカレーと評判だった。

オリジナルグッズには、ミックススパイスの『スパイス酒の素』や『竹中粉』がある。タケナカリーさんはスパイスとも語り合い、発信している。ちなみにポップなデザインのタケナカリーさんの名刺には「私のイチオシスパイスはクローブです」と書かれている。

クローブといえば、筆者は良くピクルスにクローブを使っている。ピクルス液を煮る時、5〜6粒ほど釘状のホールのクローブを入れるのだ。

お気に入りは、新ゴボウの季節に作るピクルス。ゴボウを3〜4分サッと茹で上げ、煮沸消毒した瓶などにピクルス液とゴボウを入れ、粗熱を取って冷蔵庫にひと晩以上置いて完成。

煮込み料理によく使われるクローブは、根菜類の土の香りと、とても合う。クローブを活用して、お気に入りの野菜でひと味違ったピクルスができる。

「中学の教科書に、クローブは日本に伝来したのも古く、正倉院の『帳外薬物』の中にもシナモンなどと共に丁子(クローブ)が貯蔵されているって載っていたんですよ」と、クローブのいにしえの歴史に思いを馳せるタケナカリーさん。

タケナカリーさんのアイデア溢れる“カレーごと”は、ファンキーでポップなだけではない、アーティストとしての直感を信じて形にしていく、その“カレー哲学”が結実したものだった。これからの活動を期待と共にますます楽しみにしていきたい。

【今回のおすすめスパイス】 クローブ

クローブ=チョウジの花蕾は釘に似た形、また乾燥させたものは錆びた古釘のような色をしている。中国では紀元前3世紀に口臭を消すのに用いられた。「釘子(テインツ)」の名を略して、釘と同義の「丁」の字を使って「丁子」の字が当てられ、呉音で「チャウジ」と発音したことから、日本では「チョウジ」の和名が付けられた。

フランス語で釘を意味するクル(Clou)から、仏名で「クル・ド・ジローフル (clous de girofle) 」と呼ばれ、英語名でこれが「クロウジローフル」となり、略されて「クローブ(Clove)」 になったといわれている。

日本における植物和名は「チョウジノ」。非常に強い香気を持っているので、「百里香」という別名もある。

市場の香辛料売り場でよく見かけ、アジア、アフリカ、中近東諸国の料理では、香辛料として肉塊にそのまま刺し、ローストして臭みを消す料理法で肉料理によく使われるが、インドではブレンドしてカレーやチャイなどに使用することが多い。

南米では「clavo de olor(クラボ デ オロール/香りのクローブ)」と呼ばれ、クミンシナモンと共に使われる。ペルー料理においても、「アロス・コン・レチェ(米のミルク煮)」に、アメリカの「パンプキンパイ」やヨーロッパのクリスマス伝統菓子「スペキュラース」を作るときのミックススパイスにも入っている。リンゴ、梨、あるいはルバーブといった果物の風味づけにも愛用されている。

(TEXT:馬塲悠衣)

馬塲 悠衣

東京都出身。立教大学文学部ドイツ文学科卒業。Switch, GEO日本版, 別冊太陽臨時増刊CLass Xなどの雑誌編集を経て、現在レシピ本の出版業務に携わっている。20代の頃、インド料理を学んだレヌ・アヌラさんの「スパイスはおくすり」との至言から、スパイスへ興味をもつ。スパイス好きがこうじて、5年間のニューメキシコ通いを経て、メキシコで唐辛子遊学を1年間したが、インドには行ったことがない。スパイスとハーブを使った、体がよろこぶような滋味感のあるカレー作りを、日々妄想模索中。2019年、第二回アマチュアカレーグランプリ準グランプリ受賞

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