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コラム

【#平成レトロな料理たち】日本人の舌を魅了した「とろけるプリン」ブーム。実は今もまだ続いている!?

プリンは大きく分けると、口の中でなめらかに「とろける」ものと、しっかりと食感のある「固め」のものがあります。ここ数年は、純喫茶ブームの流れから、固めのプリンに注目が集まっています。とろけるほどなめらかだったり、はたまた固くなったりしながら長年愛され続けるプリンですが、平成の時代に大ブームとなった「とろけるプリン」は、当時の時代の人たちの心をどんな風に刺激したのでしょうか。今回は、30年近く1日1個、プリンを食べ続けているという“プリンの女王”こと磯貝由起さんにお話をうかがいました。

おすすめの差し入れとしてテレビで紹介されて大ブームに

子どもの頃、家にあったガスオーブンで母が焼いてくれるプリンが大好きでした。ガスオーブンの絶妙な熱で焼きあがるプリンは、何ともいえないおいしさなのです。子どもの頃から当たり前のようにおいしいプリンを食べて育った私は、気づけば“プリンの女王”と呼ばれるようになっていました。

30年以上、1日1個のプリンを食べ続け、これまでに食べた数は1万個以上。プリンを食べ続ける中で、その時代時代のプリンの在り方感じてきました。

私の長いプリンライフの中でも印象的だったのは、1993年に起きたとろけるプリンブームです。 テレビで紹介されているのを見て、こんなお皿の上にひっくり返せないプリンはプリンではない!と抵抗を感じたけれど、「一度食べてみたいなあ」と探してみました。そしていざ食べてみると、確かにこの柔らかさは癖になる

実はそのブーム以前に、フレンチレストランなどで「クレームブリュレ」が食べられるようになりました。プリンに似ているけれども濃厚で食感がなめらかなクリームブリュレは、当時注目を集めました。しかし、それまで卵と牛乳でできた素朴なプリンに慣れ親しんできた日本人にとって、生クリームがたっぷり入ったクレームブリュレは重すぎて定着しなかったのです。

しかしながら、その後、洋菓子を扱うパステルが手がけた『なめらかプリン』のヒットによって、日本中に空前のとろけるプリンブームが起こるのです。これまでのプリンには入っていなかった生クリームを使い、卵も卵黄のみを使用したリッチな配合で、加熱後も柔らかな食感を保てるなめらかプリンは、多くの人の心をつかみました。そして、このブームは一時的なものではなく、とろけるプリンという分野を確立し、日本人が好むプリンとして定着し愛され続けています。

パステルのなめらかプリンは、当初イタリアンレストランのデザートとして考案されたメニューでしたが、お店でその味に感動した人々の間で話題となり、店舗で購入できるようになりました。当時は、今のように個々が情報を発信できるSNSのようなものがなかったので、ブームの火付け役はテレビ番組や芸能人が雑誌などで紹介するというのがほとんど。なめらかプリンも、朝の情報番組やバラエティ番組の中で「おすすめの差し入れ」として紹介されどんどん話題になり、最大時の販売量は年間約2700万個、年商約80億円の大人気商品となりました。

それまでのプリンは、容器からお皿にひっくり返して食べるものというのが一般的でしたが、なめらかプリンの登場により、「プリン=ひっくり返す」というイメージを持つ人は減りました。とろけるプリンブーム以降に生まれた方は、カラメルソースの部分をプリンの“底”だと思っている方の方が多いくらいです。

なめらかプリンの登場と同時に、プリンは瓶に入った状態で販売されることが増えました。お土産に適した見た目と、お取り寄せなどの流通にも適しているというのが理由です。容器の変化もあり、中には“とろける”を通り越してまるで液体のようなプリンも登場するなど、なめらかさを求める傾向はどんどん加速していきました 。当時はプリン以外にも、食べ物全般で柔らかい食感が好まれた時代であり、お菓子メーカーをはじめ外食産業は柔らかさに重点を置いた商品を開発し、飲食店ではとろけると表現できるお肉やうになどのメニューを売りにするように。日本中でとろけるブームが起きていたのです。

「固めプリン」ブームが到来しても、とろけるプリンは根強い人気

とろけるプリンブームから約25年。日本では、プリンと言えばとろける食感が王道、と言えるほどになりましたが、最近はInstagramを中心に「昭和レトロ」なものが人気となり、その流れから、純喫茶で出されるような固めのプリンが注目されています。そして今年は本格的な「固めプリン」ブームが到来。カフェのメニューでも、固めプリンの取り扱いがどんどん増えています。

では、世の中のプリンの好みが再び固めに移行したのかと言えば、実はそうではないのです。今流行っている固めプリンは、昭和の時代に食べられていたプリンとは違います。一言で、固めプリンと言っても、その見た目、食感、味は時代と共に進化を遂げているんですね

昭和のプリンは、表面も中も固いものでしたが、今話題になっているものは、表面は膜が張ったように固いですが、中はトロッととろける食感のものが多いです。昭和の時代のプリンは、当時の私にとってはおいしいプリンですが、今実際に食べると、食感が単一で味もあっさりしすぎているように感じるかもしれません。この食感の違いがあるからこそ、現代のプリンはおいしく進化しているのです。

また、私は毎日プリンを食べる生活を送っていますが、全国から取り寄せるプリンのほとんどはなめらかなものばかり。 固めプリンブームであることは間違いないのですが、実は、世の中に出回っているプリンは未だ「とろける」食感が多くを占めています。ただ、なめらかプリンや、とろけるプリンとうたう商品が少なくなったので、文字として見かけなくなったというのはあるかもしれませんね。

今後注目される「ハイブリッドプリン」

これまで、とろける食感から固め食感と移行したように感じられるプリンブームですが、次にどんなプリンが流行るのか気になりませんか? 今ブームの兆しを見せているのが「ハイブリッド」プリンです。これはプリンの上にモンブランクリームやアイスクリームなど別のスイーツがのったもので、見た目のインパクトもあり人気を集めています。実は私、プリンの次にモンブランが好きなので、これは夢の組み合わせ。これからさらに、プリンの黄金期が来るかもしれないとワクワクしているんです。

さらに今年は、新型コロナウイルスの影響で、全国の観光地は人が減ってしまいました。これまでは、観光客を呼ぶために作られていた「ご当地プリン」を、お取り寄せとして話題にしている自治体も少なくありません。ご当地プリンって、実はおもしろい物がたくさん出ているんです。例えば、大阪堺市の『はにわぷりん』 は、薄力粉を使ったプリンでクリームパンのような味わい。容器も味も斬新でとってもおもしろいですよ。

それ以外にも、『草津温泉プリン』のように、プリンとゼリーが二層になっているものも複数見かけます。軽めの食感で、ブルーなどの美しい見た目も新しく、これから話題になっていくのではないでしょうか。

また、今年はスイーツに意識が向いている人が多いこともあり、高級プリンも注目を集めています。1つ5000円もするプリンがあっという間に完売になったりも。そこまでではなくても、1つ300円の卵を使ったプリンや、高級抹茶を使った抹茶プリンなどが多く登場しています。これまではプリンにかけるとは思えない金額帯のものも話題になり、実際に売れているのが今年の特徴かもしれません。

私のプリンライフはこれからも続いていくので、今後プリンがどのように変化し、どんなブームが起きていくのかを追い続けたいと思います。

(TEXT:上原かほり)

「#平成レトロな料理たち」

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、平成前半に一大ブームを巻き起こした「平成レトロな料理たち」をピックアップ。各料理の専門家に流行した理由や当時の懐かしエピソードなどを語ってもらいました。令和になった今だからこそわかる、新たな発見があるかもしれませんよ。

磯貝 由起(いそがい・ゆき)

スイーツコンシェルジュ。関西を中心に全国のスイーツ情報を毎日発信。情報ストックは3万点以上。特に1万個のプリンを知る“プリンの女王”と呼ばれ、関西テレビ『よ~いドン!』他、多数のメディアに出演中。ブログ「YukiのSweets Diary」の総訪問者数は150万人以上。スイーツ店とのコラボレーションや商品プロデュースも手がける。英語通訳、英語教室オーナーでもあり、英語にも堪能。

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