「夏も近づく八十八夜〜♪」という茶摘みの歌にあるとおり、5月初めの八十八夜は新茶の季節。そんな新茶のシーズンにあわせて、お茶をおいしく淹れる方法をご紹介。教えてくれたのは、静岡県の茶屋「すずわ」店主・渥美慶祐さんです。
さまざまな種類のお茶がありますが、今回は日本で一番飲まれている「煎茶」についてご紹介します。
煎茶と緑茶は別物だと思っている方が多いですが、緑茶は煎茶、抹茶、玉露、ほうじ茶などの総称です。煎茶とは茶葉を発酵させないで、摘んですぐ蒸して揉んだもののことをいいます。お茶って、茶葉によって味に違いが出るのはもちろんですが、同じお茶でも淹れる人によって全く味が変わるんですよ。
ポイントは「湯量、茶葉の量、温度、抽出時間」の4つ。これらを意識するだけで、お茶の味が大きく変わってきます。
茶葉の量に対して適切な湯量で淹れることが大事になります。どちらもパッケージに書かれているものを目安にしてください。茶葉は、軽量スプーンや専用の道具がなくても、カレースプーン1杯で5gくらいと覚えておけば大丈夫です。少ないより多いほうくらいのほうがおいしいお茶になりますよ。
お湯の温度によって苦味や甘みが変化します。高温度で淹れれば渋み・苦味が引き立つお茶になりますし、低温で淹れれば甘みが全面に出ます。同じ茶葉でも温度で大きく味の印象が変わるので、朝はすっきりと渋みを出して、リラックスしたい時は甘みを引き立たせて、など変えられるのが魅力。
最初に85度くらいで淹れて飲んでみて、渋いようなら温度を下げて自分好みの味を探っていくのがよいと思います。
家に温度計がある人は少ないと思うので、温度が簡単にわかる方法を紹介します。沸騰したお湯は100度ですが、それを一度湯呑みに移すと5〜10度くらい下がります。繰り返すごとに5〜10度くらい下がるので、自分好みの味を出すのに調整してみてください。
煎茶には「浅蒸し」と「深蒸し」の2種類があり、種類によって抽出時間が変わります。浅蒸しの茶葉はハリのような形をしていて、葉が開くのに時間がかかるため長めに淹れるのがおすすめ。深蒸しは繊維(形状)が細かく抽出しやすいので、短い時間でもおいしく入ります。
ティーバッグのお茶でも十分おいしくいただけます。その際も、抽出時間とお湯の温度に注意してください。最近のティーバッグは抽出しやすい形状になっていて、なかには急須で淹れるよりおいしく入るものもあります!
使う水にもこだわると、よりおいしいお茶を楽しめます。お茶は“軟水”と相性が良く、“硬水”だと味や香りが淡白になってしまいます。日本の水は軟水が多いので、水道水であれば問題はありません。カルキ臭が気になる場合は、やかんで5分くらい沸騰させるか、一晩汲み置きすると気にならなくなります。ペットボトルの水を使う場合、海外品は硬水が多いので、軟水を選びましょう。
これからの季節は水出しもおすすめです。水の量と時間さえ間違えなければ、誰でも同じようにおいしいお茶を作れます。水出しの場合、渋みは出ず、うまみが全面に出ます。ペットボトルのお茶もおいしいですが、それとはまた違った豊かな味わいが楽しめます。
そのほか、急須で淹れたお茶を氷入りのグラスに注いで飲む「急冷茶」も暑い季節にぴったりです。味が薄まるのを計算しながら淹れるのが“通”の飲み方。同じお茶でも低温から出したものと急冷はまた違う味になるのでおもしろいですよ。
お茶といえば和食や和菓子にあわせていただくイメージですが、フレンチやイタリアンなど、いろいろな料理のうまみを引き立ててくれます。
例えば、インスタントそばもお湯の代わりにお茶を使うと、うまみが増しておいしくできあがります。ぜひ一度だまされたと思って試してみてください! 「お茶で作った」と言われてもわからないほど味がなじみます。そして、淹れたあとの茶殻は食べることもできるんです。ポン酢をつけてほうれん草みたいにいただくとおいしいうえに、ゴミが減って環境にも優しいですよ。
お茶というと、おじいさんやおばあさんが飲む物というイメージが強いかもしれませんが、最近では若い人もお茶を飲む機会が増えているので、この勢いでもっと多くの方に飲んでいただけるようになるとうれしいなと思っています。
ゆっくりしたいとき、やる気を出したいとき、お茶は1日のいろいろなシーンで使えるので、お茶とともに豊かな時間を過ごしていただきたいですね。
(TEXT:河野友美子)
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静岡県静岡市でお茶とそのまわりのものを扱うショップ「茶屋すずわ」を営む。170年余りつづく茶問屋「鈴和商店」代表。
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