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コラム

「ハリラヤで感染者急増」マレーシア、実際の様子はどうだった!?人々にとって欠かせない「カラフルお菓子」とは?【# コロナ禍で変わった世界の食卓】

新型コロナウイルスの影響で、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。その中でも、とくに食生活が変わったと感じる方も少なくないでしょう。日本では自宅で料理を作る人が増え、家族で楽しめるホットプレート料理やお菓子作りの人気が高まりましたが、こういった現象は日本国内だけのものなのでしょうか。今回、クックパッドニュースではコロナ禍による食の変化に注目。世界の食事情について各国に取材し、現地の方にお話を伺いました。

第5回は、さまざまな民族や文化が入り混じり、東南アジアの中でも有数のグルメ大国といわれている国「マレーシア」。コロナ禍における食事情について、クックパッドマレーシアの現地スタッフSasha Sabrinaさん(30代・女性)、マレーシアとタイの国境に位置するクランタン州に住むMohd Kamarul Hamidさん(30歳・男性)、日本在住のマレーシア食文化ライターの古川音さん(48歳・女性)にお話を伺いました。

再び感染拡大が起きたマレーシア

新型コロナウイルスの感染者急増に伴い、マレーシアでは6月1日から厳しいロックダウンが行われています。6月4日には人口100万人当たりの新規感染者数がインドを上回るほどに拡大(注1)。その要因の1つが、5月13日・14日のラマダン(イスラム教の断食の行事)明けのお祭り 、ハリラヤ・プアサ(以下、ハリラヤ)と報じるメディアもあります。ハリラヤは、イスラム教徒にとって一年で一番おめでたい日と言われており、親族で集まって食事をしたり、子どもたちにお年玉を渡す文化もあることから、日本でいうお正月に似ているとも言われています。

「昨年も今年もロックダウン中にハリラヤがありました。昨年は感染者数が少なかったので、初日だけ近隣に住む友人や親戚に会うことが許されていたのですが、今年の感染者数は昨年よりもはるかに多く増加傾向にあるため、誰にも会うことができず、悲惨な状況でした」(現地スタッフ・Sashaさん)

いつもならば、帰国して家族と一緒にハリラヤを楽しむ日本在住のマレーシアの方も、今年は帰国できなかったため、オンラインで家族と「バーチャル・ハリラヤ」をする方もいたと食文化ライターの古川音さんは言います。

「 『ドゥイ・ラヤ』(Duit Raya) というお年玉のようなものを子どもたちに渡すというイベントも、オンライン上で『どうぞ』『ありがとう』と渡して受け取る動作をし、今度会った時に渡す約束をしている人もいたようです。また、ハリラヤでは同じ柄や色の服を新調し、家族で写真を撮るのも恒例でしたが、それもオンラインで服を見せ合い、画面のキャプチャをとるなどして、どうにかやれる方法で楽しんでいたようでした」(古川さん)

ラマダン期間〜ハリラヤは豪華な食事を親族と食べることが多く、例年なら手の込んだ料理を作ります。現地スタッフのSashaさんいわく「マレーシアの人は料理でクリエイティビティを発揮するのが大好き」ということもあり、とくに昨年は手間がかかる料理に精を出す人も多く、いつも以上に「クリエイティブな家庭料理が増えた」ようです。しかし、今年は昨年よりも厳しいロックダウンの規制中で、集まって食事をすることができず、料理自体を作らない人もいたのだとか。長引くコロナ禍に「自粛疲れ」を感じている人も多く、倦怠感がただよっているのだそうです。

新型コロナの影響でラマダン期間の食事にも変化が!

「クリエイティブな家庭料理が増えた」という昨年のラマダン。いったいなにがあったのでしょうか。昨年のラマダンの時期(4月23日〜5月23日)は、1日あたりの新規感染者数がおおむね100人以下と、低水準で推移していました。昨年3〜5月に実施されたロックダウンは、一度に1人以上の外出は許されず、家から10キロ圏内の外出も不可と、非常に厳しかったためです。学校、職場、店舗、工場など、すべてのビジネス施設が閉鎖。在宅勤務できる人は全員在宅勤務になりました。そういった環境の変化は、食生活にも大きく影響を与えたと言います。

「昨年もラマダン期間とロックダウン期間が重なっていました。ラマダン期間中、日中は飲食ができませんが、日没から日の出までは食べることを許されています。日没に摂る食事“イフタール(iftar)”は、家庭では豪華な料理が用意され、例年なら屋台や、ホテルのビュッフェを利用する人も多くいます。しかし、ロックダウンで屋台は閉まり、ビュッフェも中止されたので、例年以上に家で料理をする人が増えました」(Mohdさん)

ラマダン=厳しい断食、のイメージがありますが、日没後から日の出までは普段よりも多く食事をするため、食料消費が普段より増えるとも言われています。

そこで昨年のラマダン中にどんな料理が検索されていたのか調べてみると、マレーシアの伝統菓子「クエ」の数値が例年以上に上昇していました

クエのレシピの検索が高まっていることを表すデータ。2020年4月のラマダン開始直後は例年以上に盛り上がっていることわかります(GoogleTrandより)

マレーシアの代表的なお菓子、「クエ」とは?

コロナ禍のラマダン期間で「クエ」が人気だったことは伺えましたが、いったいどのようなお菓子なのでしょうか。

クエは福建語の『粿』が語源と言われ、『米』偏(へん)がついていることもあり、元々は米を加工したものを指していたようです。現在マレーシアでは米を使ったもの以外も含む、手でつまめる現地のお菓子をクエと呼んでいます。カラフルな見た目が特徴的で、甘い味だけでなく、しょっぱい味のものもあり、マレーシアでは朝食やティータイム、あるいは毎食後に食べられていますよ」(古川さん)

種類によって色や形などさまざまで、見た目はまるで日本の和菓子のよう。主に職人によって手作りされ、生菓子のため保存が効かず、1日で食べ切るものが多いそうです。Mohdさんによると「マレーシア人にとってクエを食べるのはマスト。一度も食べない日があると、何かおかしい感じがする」のだとか

クエの写真。米粉やもち米を使ったものが主流で、今ではココナッツからカレー粉を使った甘いものからしょっぱいものまで、さまざまな味があります。(画像提供:Adobe Stock)

昨年のラマダン中に「クエ」を手作りする人が急増

昨年、クエを作る人が急増した背景には、やはり新型コロナウイルスの影響がありました。ロックダウンによりクエを販売する屋台も休業を余儀なくされたため、家で作る人が増えたというのが大きかったようです。感染者数も増加傾向にあったため、市場のような人混みに買いに行くのを避けていたという人も。

また、ラマダン期間の日中は食事を準備する時間が必要ないため、空いた時間に断食中の気分転換もかねて、お菓子作りをする人が増えます。日本でも昨年初の緊急事態宣言が発令された時に、お菓子作りやパン作りなどがブームとなりましたが、そのようなことがマレーシアでは毎年ラマダン期間に起きているようです。

クエの中で人気の高い「Onde onde(オンデオンデ)」の写真。緑色は東南アジアで料理の着色と香り付けによく使われるパンダンリーフによるもの(画像提供:クックパッドマレーシアのユーザー Lily Suryani Mohd Aliさん)

マレーシア人はカラフルが大好き!

パーティーやお祝い事の時に、デザートやケーキが出てきたとしても、必ずクエを食べるほど、マレーシアでクエは食卓の必需品となっています。Mohdさんは「水を飲むのと同じで、これがないと1日過ごせません」とまでお話していました。その理由について、古川さんはこう語ります。

「全体の67%ほどを占めるマレー系はイスラム教徒で、アルコールを飲みません。そのため甘いもののようなおやつが大事な嗜好品になっています。また、暑い国なので、1度にたっぷり食べるよりも、複数回にわけて栄養を摂るほうが楽で効果的。その栄養源として、クエが大事にされているのではないでしょうか」(古川さん)

嗜好品かつ栄養摂取にもなっていると聞くと、「水を飲むのと同じ」というのも納得ですね。また、クエは見た目がとてもカラフルで特徴的ですが、それには理由があるのでしょうか。

「その料理が何か、ひと目見てわかる印のような役目がある気がします。というのも、マレーシアの市場や屋台では、多数のお菓子が料理名の表示などなくずらりと並んでいます。この中から瞬時にクエを見つけるのはなかなか大変。例えば黄色のクエの場合、とうもろこし、またはドリアンが使われているため、マレーシア人がこの黄色をみると、『とうもろこしやドリアンが効いているんだな』というのがすぐわかる、というわけです。またマレーシアで黄色はロイヤルカラー(王族の色)として大事にされており、赤色も結婚式でローズシロップジュースを飲むことからおめでたい色とされています。そういった影響からカラフルな料理が好まれる傾向にあるようです」(古川さん)

マレーシアの市場の写真。確かにこのように表示もなく並んでいると、色で料理がひと目でわかるのが大事なのが伝わってきますね(画像提供:マレーシア食文化ライター 古川音さん)

あの韓国のドリンクも“カラフル”に変身!?

実は昨年、マレーシアでは日本と同様に韓国ブームがありました。その際、日本でも流行した韓国発の飲み物「ダルゴナコーヒー」が流行ったそう。しかし、日本で親しまれた見た目とは大きく異なるようです。

こちらが一般的なダルゴナコーヒーの写真。コーヒー、砂糖、お湯をホイップしたものをミルクの上にのせた飲み物です(画像提供:Adobe Stock)

マレーシアでは韓国のダルゴナコーヒーも、ローズシロップを使ってピンク色にアレンジして楽しんでいます。海外の人には特別なものに見えるかもしれませんが、ローズシロップはどの家庭にも欠かせないものです。カラフルなものは食べるのも買うのも楽しくなりますし、とてもきれいでクリエイティブに見えるんです。」(Mohdさん)

ピンク色にアレンジされたダルゴナコーヒーの写真(画像提供:クックパッドマレーシアのユーザー KUZUKA by Jeehanさん)

どんな料理も彩りを添えて楽しむマレーシアの人々。マレーシアには「ナシ・クラブ」といわれる青色のご飯もあり、クエの他にも日本ではあまり見かけることのないカラフルな料理がまだまだたくさんあります。

コロナ禍によるステイホームでマレーシアに韓国ブームが起きたように、終息をきっかけにまた何かしらのブームが起きるでしょう。流行が次々に生まれ、インターネットを通じて一気に世界に広がる今の時代。そのときに話題になる料理が、どんな風にカラフルにアレンジされるかが楽しみですね。

(TEXT:河野友美子、中川香里、植木優帆)

#コロナ禍で変わった世界の食卓

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースでは、コロナ禍で変わった世界の食事情をリサーチ。各国で高まったムーブメントや、人気になった料理を現地の方にお伺いしました。世界の食卓に、明日から取り入れられる食のヒントがあるかもしれませんよ。

取材協力:クックパッドマレーシア

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