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コラム

受験生、必食! 福岡の銘菓「梅が枝餅」と「博多うどん」を食べ歩き【ニッポン全国「和食探訪」の旅 vol.4】

東京すし和食調理専門学校の学校長・渡辺勝さんが、日本各地を旅してお届けする「和食探訪」連載。知られざる和食の起源や、絶滅寸前の郷土料理などにフォーカスし、素敵なエピソードの数々をご紹介します。

福岡の街で和菓子と麺を食す

こんにちは。ご当地和食めぐりが大好きな「東京すし和食調理専門学校」の学校長・渡辺勝です。

今回は、梅ほころぶ季節の福岡を、和菓子と麺をテーマに旅します。まずは学問の神様・菅原道真公を祀る「太宰府天満宮」へ。ちょうど受験シーズンも終盤です。追い込み真っ最中の方、頑張ってください。合格発表を祈る思いで待っている方、笑顔になれますように。教育者の一人として、エールも込めてレポートします。

学問の神様が愛した「梅マーク」の銘菓

「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」 これは菅原道真公が、いわれのない謀友の疑いをかけられ、太宰府へと左遷される際に詠んだ和歌です。京の都の自宅で庭に咲く梅の木への思いを込めた歌で、「春風が吹いたら、香りをその風に託して太宰府まで届けておくれ、梅の花よ」という意味です。梅といえば菅公。菅公といえば梅。不遇な道真公を見かねた近くの老婆が、梅の枝に餅をさして密かに献上した逸話も有名ですね。

そのように梅を愛した菅公を慰めるように、大宰府天満宮の境内では、約200種6000本もの梅が植えられ、1月~3月にほころびます。まさに今が見頃です。そしていつしか、この地の名物となったのが「梅が枝餅(うめがえもち)」なのです。

小豆餡を薄い餅生地で包んで鉄板で焼いた和菓子で、地元の人にも、観光客にも、素朴な味わいで愛されています。参道には、15軒を越える店が並び、価格は一律で一つ130円(店舗や税によって変動あり)とお手頃。天満宮の御神紋でもある梅の刻印がされ、雅やかだし菅公のご利益もありそうで、受験生の皆さんに食べて欲しい和菓子です。代わりにと言っては何ですが、私が味比べを楽しみました。

まずは大正11年に旅籠として創業した参道の老舗「かさの家」。うん、餡がとてもしっかりしていておいしい。次は参道の蕎麦屋さんの「やす武」。焼き方が巧みで、食感はパリッ。餡はやや少なめであっさり。

上の写真の梅が枝餅が創業70年の老舗「かのや」のものですが、餅と上品な餡のバランス良く、個人的にはもっとも好みでした。

天満宮に一番近い「甘木屋」は、一つ一つ手焼きで、ややしっとり、餅の主張が強め。奥庭が素敵なお食事処「酒殿屋(さかどや)」は、しっかり粒が立った餡で甘さはあっさり、続けて食べられそう。参道の中ほどの「茶房きくち」は、餡はこし餡寄りで、焼きがパリッとし、好みの食感でした。気付けば参道沿いだけで6軒も巡り、それでも飽きないおいしさ。境内の茶店の梅が枝餅は、お土産に買っていきましょう。

受験生がいるお宅でぜひ!梅が枝餅を家庭で味わう方法

梅が枝餅は、やはり餅なので焼き立ての食感がお勧め。お土産でいただいたたり、自宅で食べるときは、ぜひ、ひと手間を加えておいしく食べてください。

1.ラップで包み、電子レンジで20~30秒加熱する。
2.ラップを外し、トースターで表面の焦げ目に注意しながら1~2分焼く。

こうすると、外はパリッと、中はふっくら、焼き立てのようにいただけます。

うどん・そば・饅頭の伝来の地「承天寺」

次は博多へ。まず駅前にある「承天寺」を尋ねました。日本を代表する麺である「うどん」。その発祥の地が、実はここなのです。

鎌倉時代、僧侶・円爾(聖一国師)が中国で仏教を学び、帰国後、承天寺を建立し、布教活動に努めたのが博多なのです。円爾は中国で親しんだ、「粉もの料理」の文化を日本にもたらしたのです。

承天寺境内には「饂飩蕎麦発祥之地」「御饅頭所」という碑が建っています。これは、うどん・そば・饅頭の発祥の地の証し。博多はかつて「那津(なのつ)」と呼ばれ、対馬を経由した大陸への玄関口でありました。大陸からは食材、食文化も伝来し、和食の発達の礎ともなったことでしょう。和食の伝道者として感慨深く、襟を正して「承天寺」にお参りし、博多うどんの名店へ足を向けました。

うどんの常識を覆すフワフワ食感がうまい!

さあ、今回のメイン、うどん発祥の地の名物「博多うどん」探訪です。まずは創業60年以上の老舗「因幡うどん」へ。名物の「丸天うどん」と「ごぼ天うどん」を注文します。出汁は透明で雑味が少なく、聞けば、高級羅臼昆布といりこ(煮干し)だけで出汁をとっているとのこと。醤油味は強くなく、あっさりしています。

そして麺です。これがフワフワ柔らか。博多うどんの特徴です。汁が良く絡み、食べるにつれて麺がふやけ、量が増えてくるような? この柔らか麺を、出汁と一緒にズルズルッ…と勢いよく吸い込む。これがおいしい! のどごし良く、まるで噛まなくても自然に消えていくような不思議な食感。もちろん出汁も残さず飲み干すと、どんぶりの底に現れる「因幡うどん」の文字…ごちそうさま!

さあ、おかわりでもう一軒、「うどん平(たいら)」へ。一番人気の「肉ごぼ天うどん」を注文します。こちらの出汁は、昆布、アゴ(トビウオ)、いりこを合わせ、九州独特のやや甘めの醤油で仕上げている。やっぱりあっさり、薄味です。麺は柔らかいけれど、ちょっとモチモチさもある。このお店では、麺をいったん冷水で絞め、再び温めて出汁に入れます。締める分、ややコシが生じるのでしょう。

博多うどんは具も忘れてはいけません。特徴的な具といえば、「丸天」と「ごぼ天」です。

上の写真が「丸天」入りのうどん。魚の練り物を揚げたもの、つまり「さつま揚げ」のことで、直径10センチ以上のボリュームがあります。

「ごぼ天」は上の写真の天ぷらのことですね。ごぼうを笹がきにして丸く揚げ、真ん丸の衣を厚めにした食感がいい。 揚げ物こそは、博多うどんになくてはならない名脇役です。さっぱりした出汁に、丸天やごぼ天の衣の油分がジワリと溶け出し、こってりコクが出る。これが博多うどんのうまさ!

受験生のお夜食に!「博多うどん」の作り方

柔らかい博多うどんは、お取り寄せもできますが、自分で作ることもできます。特別な道具はいらないので、ぜひお試しください。順を追って工程をご紹介します。

まずは麺。博多うどんの命と言えます。通常のうどんを作る中力粉ではなく、グルテンの少ない薄力粉を使うのがポイント。1人前の分量は、薄力粉200グラムに水80cc。これを混ぜて練り上げます。普通のうどんの打ち方は、コシを出すため、塩を加え、よく練り、寝かせますが、博多うどんはそれらを省き、小麦粉がまとまったら、手で伸ばし包丁で切ればOK。パスタマシンで製麺するのもいい方法です。

続いては出汁ですが、市販のものでも結構です。さっぱりした「ヒガシマル醬油」の「うどんスープ」などがおすすめ。さらに博多の味にこだわるなら、「焼きアゴ出汁」を用意し、薄口醤油、干し椎茸、鰹節、昆布などを加えるといいでしょう。

さらに具材。いちばんおすすめは、やはり「ごぼ天」。ごぼうをスティック状にスライスして、天ぷらにする。時間がなければ、市販のさつま揚げを載せ「丸天うどん」もよし。

これらを揃えたら、調理に取り掛かりましょう。薄力粉で麺に打ち粉を回し、沸騰した湯に投入します。湯で時間は15~30分と長め。試行錯誤して好みの柔らかさを探りましょう。茹で上がったら、冷水で締めず、そのまま出汁に入れます。

そして薬味は青ネギが必須です。小口切りでたっぷりと載せてください。また、博多うどんの店には、七味唐辛子に並んで柚子胡椒がありました。食べ進んだところで柚子胡椒を入れると、また一段とうまさが引き立ちます。

柔らかくて消化に良く、あたたまる博多うどんは、夜食にはもってこい。がんばる受験生に、ぜひ博多うどんを出してあげてください。

博多うどんは、なぜ柔らかい?

博多といえば、豚骨ラーメンが有名。特に地元の人は「硬め」「バリカタ」「粉おとし」などと、硬い麺が好きなはず。では、なぜうどんは柔らかいのでしょうか?

諸説ありますが、有力なのが、原材料の小麦の種類が違うからというもの。九州産の小麦はややたんぱく質の含有量が低く、麺のコシを生み出す成分のグルテンが少なめで、柔らかくなるというものです。ただ、私は別の説に興味と信憑性を感じます。それは「博多っ子はせっかちな方が多い」というもの。

短気な博多っ子は、うどんのゆで上がりを待つ時間がまどろっこしい。そこで、すぐ出せるよう、麺を下茹でする店が多くなり、さっと湯通しして食べるのが根付いたというものです。硬いラーメン。柔らかいうどん。歯ごたえは逆でも、茹で時間が短いのは同じというのは意外で面白いですね。皆さんはいかが思われるでしょうか。

福岡は見どころ、味どころが豊富

福岡は他にも和食の見どころ、味どころがいっぱいです。

まずは大宰府天満宮。ここには菓子の神様を祀る珍しい神社「中島神社」があります。田道間守命は、西暦600年代に第11代垂仁天皇から「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)」を探してこいとの命を受け、常世の国(海の向こうの理想郷)に10年かけて取りに行きました。「非時香菓」とは、柑橘類であるミカンの先祖です。飛鳥・平安時代は、柑橘類が唯一の菓子、すなわちスイーツで、食べると不老不死の力が得られると言われていました。太宰府本殿の右手にひっそりと建つ社殿の周囲には、柑橘類の木がたくさん植えられていて、この神社の縁起を伝えています。

そして博多うどんには欠かせないサイドメニューの「かしわ飯」も絶品! 上の写真のものがそうですが、鶏出汁と醤油で炊いたご飯がうどん出汁とよく合います。

残念ながら、今回は文字数が大幅オーバー! 機会があればご自身で探訪ください。受験生の皆さんは、合格して、旅を楽しまれることを祈っています。

和食探訪、次回もテーマは「うどん」です。舞台は三重県伊勢市。昔も今もお伊勢参りの旅人を支える「伊勢うどん」の味と歴史をレポートします。お楽しみに!

渡辺 勝

東京すし和食調理専門学校の学校長。度重なる海外出張で日本の良さや和食のおいしさに気付く。趣味は旅行と食べ歩き。近年、郷土料理の素晴らしさに目覚め、日本の宝である『郷土料理』を世に広める使命を個人的に請け負っている。

東京すし和食調理専門学校

日本で唯一のすしと和食を学ぶ調理専門学校。2016年4月に東京都世田谷区に開校。海外からの留学生も多数在籍。校舎1階のカウンターにて学生によるすし懐石料理店「一膳」を定期的に営業。卒業生はすしや和食の専門店や旅館、海外のホテル内和食店などで活躍中。

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