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コラム

肉じゃがもエスニックもおいしく仕上がる。知る人ぞ知る不思議な調味料「赤酒」って?

【“クックパッド芸人”藤井21のソロ飯 vol.35】クックパッド芸人を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。一人(ソロ)で作って一人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。

旅をして、新しいものや料理に出会う

2022年。新たな年の訪れは心も一新され、晴れやかな気分でまた1年を過ごそうという気持ちになる……らしい。

正直、そこまでちゃんとした事を考えて新年を迎えたことがない。個人的には、新年といえば「旅」だ。なぜか新年を迎えると、無性に旅に出たくなる。

私は旅が好きだ。

今まで行ったことのない場所に行き、見た事ないものを見て、知らなかった事を知り、その土地の料理を食べ、地酒を呑む。そんな旅をするのが好きだ。

こういう言い回しをするとすごくカッコよく聞こえるが、しかしながら実際のところは、自分が知らないものがこの世の中にあるのがすごく悔しくて悔しくて「くそー! 今までこれを知らなかったのか! こんなおいしいものがあったなんて! 悔しい!!」と知識欲と食欲の権化のような、浅ましい人間なだけだ。

知らない事はそこら中にあり、日々、その知識欲を満たしてくれる。自らの行動範囲を広げる旅は、新しい知識を呼び込む。

先日、取材で熊本県を初めて訪れた際も、そんな欲を満たすものと出会った。2日間をかけて熊本県内の酒蔵を巡り、いろいろなお話を聞きながらお酒を試飲させてもらうという呑兵衛ならば垂涎もののお仕事なのだが、そこは仕事だと自分に言い聞かせ、試飲のペースに最大限に気を使っていた。そんな取材している時、とある酒蔵の片隅に陳列されていた商品が目に止まった。

『赤酒(あかざけ)』

その名の通り見た目は赤褐色の液体で、やや透明感がある。赤酒とは何だ? 古代米とか赤米を使って作るから赤いのか? 見た事ないなぁ。んー気になる……。知らないものを見つけると途端にそれまでの取材モードから、“ウキウキワクワク初めての熊本旅”に内心とって代わってしまう。あの瞬間が一番、知識欲が刺激される瞬間だろう。

この赤酒だが、酒蔵の方いわく、熊本では古来から伝わるかなりポピュラーなお酒だという。普通の清酒と違い、お酒を作る際に加熱殺菌をしないで作られ、その代わりに灰を加える事で雑菌の繁殖を抑え、日持ちさせたお酒らしい。ゆえに灰持酒(あくもちざけ)とも呼ばれているとか。

甘味が強いのが特徴で、特に正月のお屠蘇(とそ)では必ずこの赤酒が使われ、一家に一本常備されていると言う。

……そんなお酒があったんなんて全く知らなかった。実家が酒販店を営んでいるので、正直、お酒に関しては一般の人よりも多少は知識があると思っていたが、熊本を訪れるまでその存在すら知らなかった。

一緒に取材をしていた熊本の方や知り合いの熊本出身の人に聞いてみると、やはりお屠蘇はもちろん、普段の料理で酒やみりんの代わりに頻繁に使っていると言う。むしろそれが当たり前過ぎて、他の県でも普通にお屠蘇で赤酒を飲むものだと思っていたとか。

料理をなさるなら、とご好意でこの赤酒を頂いた。これがとても不思議な調味料で、みりんや酒の代わりに使うらしいが、個人的には、それともまた違うコクや甘味が出て、煮物に使うとふっくらと柔らかく仕上がる、他とは似て非なるものだと思った。

まあ、これを科学的に分析すると清酒は酸性だが、赤酒はアルカリ性なのでタンパク質を凝固させないので云々かんぬん……要は、料理に使うのに適した調味料である事は、科学的にも間違いないと。

また実際に赤酒を使ってみてわかったのだが、その特有の甘味とコクが「エスニック料理」とすごく相性が良いんじゃないかと感じた

エスニック料理特有の甘味、その奥にコクと、ハーブやチリのスパイシーさが感じられる。古来からある日本の伝統的なお酒が、海を隔てた東南アジアの料理と不思議と相性が良い。

やっぱり世の中まだ知らないこともたくさんあるし、食べたことのない料理だって山ほどある。きっとこれからも、また旅をして、新しいものや料理に出会うことだろう。

と、この原稿を青森県のホテルで書いているのだが…さて今夜は青森で何を食べようか。

藤井21(ふじいにじゅういち)

料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。

>>オフィシャルブログ「良い香りのある生活

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