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コラム

懐かしの給食「揚げパン」、今はカラフルに!?パン給食に起こった変化とは【#給食今昔物語】

コロナ禍での黙食の推進や、給食の需要低迷により牛乳の消費を政府が呼びかけるなど、何かと給食の話題がニュースになる今日この頃。皆さんの思い出の給食は何ですか? カレーやソフト麺、わかめご飯など懐かしのおいしいメニューが数多くある中、必ずといっていいほど上位に名前が挙がるのが「揚げパン」です。しかし、最近は米飯給食の回数が増え、パンが献立に登場する日数が減ってきているといいます。なぜパン給食は減っているのか、そして自分が子どものころ食べていた給食のパンは今どのように変化しているのか。学校給食歴史館の前館長・千島宏一さんと、給食王子としてメディアでも活躍している学校給食栄養士の松丸奨さんに話を聞きました。

昔の給食は毎日パンだった!?パンが主食だった理由

そもそも日本の学校給食はいつ始まったのでしょうか。それは今から133年前の明治22(1889)年。山形県鶴岡市の小学校で始まったのが最初の給食といわれています。その後、戦争により給食は一時中止。パン、おかず、牛乳の「完全給食」が始まったのは、1950(昭和25)年からでした。当時の献立の主食は、ほぼ毎日パン。その理由は何だったのでしょうか。

「戦後、食糧不足だった日本はアメリカから支援物資として無償で小麦粉をもらっていました。当時アメリカの小麦粉は生産過多の状態だったということも、日本のパン普及に大きな影響を与えたようです。そして一部の資料によると、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本にパン文化を定着させるためにパン職人の育成をしたという動きもあり、世の中にパンが急激に広まり、給食でもパンを提供するようになったそうです」(千島さん)

日本の食糧事情が大きく影響していた当時の学校給食。さらに、戦後間もないころはお米を育てる資金や土地、人員もなく、炊飯設備を整えることができなかったこともパン給食が広まった一因といわれています。そこから学校給食=パンというイメージが定着。「給食といえばコッペパン」といわれる時代が始まります。

1616ebd361e19e8d04a84e31b244dec1 昭和30年の給食の一例。コッペパン、脱脂粉乳、アジフライ、サラダ、ジャム(提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター)

「戦後に出されていた給食パンのほとんどは、コッペパンでした。実はコッペパンって日本独自のパンなんです。大正時代のはじめに、アメリカでパンの製法を学んだ田辺玄平さんがコッペパンの原型を作ったと言われています。栄養価が高く、運搬がしやすかったというのもコッペパンが給食に出された要因のひとつだと思います。その後、昭和30年代後半から昭和40年代には、ぶどうパンや黒糖を使った黒パンなどのアレンジパンが提供されるようになりました」(千島さん)

アレンジパンの先駆けは、今でも人気の高い「揚げパン」。コッペパンを油で揚げて砂糖をまぶしたシンプルなパンです。

「揚げパンが給食に登場したのは昭和27年くらいから。当時のパンはサイズが大きく、時間が経つと固くなり、味も今ほどおいしくありませんでした。ちょうどその頃、インフルエンザが流行し、欠席する生徒が多くなりました。そこで、東京都の調理員さんが休んでいる子どもたちに、給食のパンをおいしく食べられるように届けるため、コッペパンを油で揚げて砂糖をまぶしたのが始まりです。当時、甘いものを口にする機会が少なかった子どもたちは喜んで食べたそうです」(千島さん)

9d89261740eafe98ed853e05690454c1 昔ながらの揚げパン

そのようにして不動の人気を得たパン給食。しかし、1976(昭和51)年に学校給食制度で正式に「米飯給食」が導入されると、給食の主食は徐々に米へ移行。米飯給食がスタートした背景には、国の「米消費の拡大運動」がありました。

「昭和40年代後半になると、お米の生産が需要を上回りたくさん余るようになったため、学校給食にもお米を取り入れていこうとする動きが見られました。ただ、当時はパン給食1食分と米飯給食1食分の価格を比べると、米飯給食のほうが高額でした。そこで、国は差額相当分の助成や炊飯環境を整えるための支援を行い、これが米飯給食の普及につながったといわれています」(千島さん)

また、平成21(2009)年に文部科学省からの通知で週3回以上の米飯給食が推進されると、多くの学校でパン給食は週1回ほどに減少。平成25(2013)年にユネスコ無形文化遺産に「和食」が登録されて以降は、和食給食推進の動きも活発化。それにより倒産するパン工場も増え、パン給食減少に拍車がかかっているといいます。

パン給食は今、どうなっている?

それでは実際に現代の子どもたちは週に1回、どのようなパンを食べているのでしょうか。学校栄養士の松丸さんに「給食のパン事情」について聞いてみると、給食とは思えない驚きのメニューが続々と出てきました。

「僕が勤めている東京都文京区の小学校は、給食の献立作成から調理までを自分の学校で行う“自校式給食”のため、僕ら栄養士が文部科学省の食品構成と栄養価に基づいて月単位で献立を考えています。着任した頃は、“給食のパン”が苦手という子も意外と多かったです。理由は、家で食べるパンとは味が違ったから。焼き立てでないのでパサつき、味やコクも薄いため、おいしく食べるひと手間が必要だと思いました。

そのため、まずは好きになってもらう工夫をしました。食パンはバニラが香るふわふわのトーストにしたり、タイ料理のエビトースト風にすることで、子どもたちも興味を持って食べてくれるようになりました。バニラトーストは、バニラエッセンスとバターと砂糖を使って蒸し焼きにすると学校でも簡単に作れてカロリーも抑えることができます」

子どもたちから評判のよかったパン、ベスト3

第3位「焼きカレーパン」

F11ae49ec1aa9d7ece2110d6f49fc255 焼きカレーパンがメインのある日の給食献立(提供:松丸さん)

「油で揚げずに“焼く”のがポイント。鶏ひき肉とトマトを使うことでカロリーも抑えることができます。食べ応えのあるパンの日は、副菜に卵スープとサラダをつけて栄養のバランスをとっています」

第2位「グラパン」

28a5e7097a0dff6166c3bcebe21c79ea 学校の給食室で作られるオリジナルパン「グラパン」(提供:松丸さん)

「シチュー入りの丸いパンにチーズをかけて焼いたグラタンパンです。自分でパンの蓋を取る楽しみもあるので子どもたちに大ウケ。子どもは言いやすい言葉を好む傾向があるので、献立名も『グラパン』にしました」

第1位「ビスキュイパン」

F4392fcdb4043bee2d53552540c59ae5 松丸さんの自信作「ビスキュイパン」(提供:松丸さん)

「アーモンドの粉を入れて焼き上げたメロンパンのようなパンです。サクサク食感で、子どもからの人気は絶大です」

松丸さんは栄養だけでなく見た目にも工夫し、まず子どもの関心を向けることを意識しているといいます。

「ただ惣菜パンを出すだけでなく、『メンチカツバーガー』の日などは自分でパンに具材をはさんで作る楽しみを味わってもらうようにしています。そんなふうにさまざまなパン料理に挑戦できるのは、工場に発注できるパンの種類が増えたというのも大きいかもしれません。例えば、ナンや二つ折りが特徴的なパーカーハウスパンなど選べるパンの種類が増えたことで献立の幅も広がっています」(松丸さん)

7beb7bc64156b8a6736b200c0ea01eb5 東京都の給食パンの種類の一覧表(提供:松丸さん)

栄養価や食品構成を満たすように、全国の学校給食会と製パン工場が協力して、基準パンを製造。給食のパンは成分や配合など、厳しい基準があり、個数も相当な量のため、都道府県ごとにある学校給食会(公益財団法人)が間に入り、製パン工場がパンを作っています。

次々に新しいパンが登場し、給食パンといえば「コッペパン」だった時代はもう昔の話に。昭和の子どもたちが喜んだ「揚げパン」も、“過去のもの”になってしまったのでしょうか。

「ある日、小学2年生の男の子が『揚げパンか…胃がもたれるんだよね』って言ったんです。自分が大好きな揚げパンを苦手だという子がいるのはショックでした。揚げパンって揚げ方ひとつでおいしさが変わる難しい料理なんですよ。だから、温度、揚げ時間、味を研究し、子どもが喜ぶ揚げパンを作ったんです。そうしたら大喜び。味も定番の砂糖やきなこのほか、ラズベリーや抹茶、コーン、紫いもなども作っています。意外とラズベリーが甘酸っぱくて好評です」(松丸さん)

0fbb3b21db7dd147d904ce6307cba285 色とりどりの揚げパンは、味も相まって子どもに大人気(提供:松丸さん)

子どもたちにとってパン給食は週1回のごほうび

松丸さんの学校では現在、学校給食法の規定と学校給食摂取基準に基づいて献立を作成しているため、必然と米飯は週に3.5回(2週間に7日提供する計算)、パンは1回、麺は10日に1回に。地域によって週4日以上米飯給食という学校もある今、近年は地産地消の学校給食も増え、都道府県の特色を生かした「ご当地パン」も登場しています。

Dc0f3d211ecb0689f500b63c340375b4 長崎県のみかんパン。見た目はコッペパンのようだが、断面はみかん色をしている(提供:公益財団法人長崎県学校給食会)

「長崎のみかんを練りこんだみかんパン、広島は魚のすり身を揚げた郷土料理“ガンス”をはさんだガンズバーガー、東京・八丈島の明日葉パンなど、各地の名産を使ったパンも登場しています。長崎のみかんパンは、地元の名産であるみかんを余すことなく食べられるパンを作りたい、という長崎県学校給食会の思いから生まれています。果物の食品構成も補いながら、ビタミンも摂りつつ皮まで丸ごとパンに使っています」(松丸さん)

空前のパンブームといわれている日本。パン給食は週に1回しか食べることができないからこそ、おいしいパンを作ってあげたいという松丸さん。「今の子たちは流行にも敏感ですし、世の中においしいパンがたくさんあるから、給食への期待値も大きくなっています。子どもたちにもっと食への興味や関心を持ってもらうためにも、これからも子どもたちの声に耳を傾けながら、新しい料理を作っていけたらと思います」

今も子どもたちに愛されている「パン給食」。米飯給食の普及で回数は減ってきていますが、時代にあわせて新たな種類のパンが登場するなど、進化を続けています。時代を映す鏡とも言われている給食。10年後、20年後、パン給食がどのように変化をしているのか楽しみですね。

(TEXT:河野友美子)

#給食今昔物語

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースでは、給食の昔と今の変化をメニュー別でリサーチしました。自分が好きだったメニューや給食の思い出を振り返りながら、現代の子どもたちがどんな給食を食べているのか知るきっかけになりますように。

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