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コラム

コロナ禍が日常化した今だからこそ、他人とのつながりを大事にしたい。「こども食堂」が救いになる理由

醤油がなければお隣に借りに行く、近所の親たちが子どもを気軽に預け合う、近所のおじさん・おばさんが他人の子どもを叱る…昔の日本ではよく見られた風景です。

しかし現代では、「近所にどんな人が住んでいるかもわからない」という方も多いのではないでしょうか。過去にはあった地域とのつながりが、希薄になっているのです。

そんな中、地域のコミュニティを活性化する場として「こども食堂」が近年注目を集めています。2019年時点では全国に3700箇所以上もありましたが、コロナ禍で状況が一変。人々が集まりづらい状況で、どのような取り組みをしているのか取材しました。

家族連れがワイワイ。「こども食堂」=貧しい子どもだけの場所ではなかった

「親になって、子育ては一人ではできないと痛感しています。同世代の親と交流を持ちたいという気持ちと、たくさんの人と触れ合いがある中で子どもたちを育てたい、という思いがありました」

そう語るのは、鹿児島市に住む亀澤梨奈さん。4歳と6歳のお子さんを持つ働くお母さんです。同じ地域の人々との交流を求め、テレビで知ったというこども食堂に初めて訪れたのは、3年前のこと。

コロナ禍になる前のこども食堂の様子(東京都)

こども食堂は、子ども専用の食堂というイメージを持つ方や、経済的に余裕がない家庭の子だけが行くところだと思っている方も多いようですが、実はそうではありません。こども食堂は、“地域のつながりを作る場”として、子どもからお年寄りまでが集う居場所という役割も担っているのです。

「静かにごはんを食べるところなのかなと想像して行ったら、家族連れの方が多くて、ワイワイ賑やかで驚きました。子育て世代にとって、こういう場所はとてもありがたかったです。子どもも最初は緊張していましたが、すぐに友達を作って楽しそうでした」(亀澤さん)

亀澤さんは、同じ親が持つ悩みを共有できるようになり、気持ちがラクになったそう。

「昔は、地域で助け合いながら子育てをしていた時代でした。その時代にもう一度戻していくために、こども食堂という存在はとても大切なんです」(亀澤さん)

多くのこども食堂はボランティアの方々で運営されています(鹿児島県)

コロナ禍で密が作れない!こども食堂が取った手段は?

そんな中で起きたコロナ禍は、こども食堂への参加にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

「スタッフさんたちの思いが本当に強く、フードパントリー(食材配布)や、子どもたちが楽しめる密にならないイベントなど、どんどん新しいことを行動に移して支援を止めないでいてくれました。むしろ、進化したのでは?と思うほど。この状況下でも支援を続けてくださったというのが一番ありがたかったです」(亀澤さん)

食料をはじめ、マスクやティッシュなどの日用品を配布するフードパントリーの様子(東京都)

「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」というビジョンのもと、こども食堂の支援を行う認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの三島理恵さんは、「みんなが集まって密になるためにこども食堂を開催していたのに、コロナ禍になったことで、密を作れなくなってしまいました」と言います。

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 広報 ファンドレイジング責任者・三島理恵さん

2020年3月に全国一斉休校要請、4月に緊急事態宣言が出された後、全国のこども食堂の約5割が、食堂としての機能を停止し、フードパントリーという形で活動を続けました。

「こども食堂を開催している方たちは、『忙しくて困るお母さん・お父さんたちの顔が浮かぶ。どんな方法でもいいから、つながり続けることが必要』と、緊急事態中でもできる方法を模索し、ドライブスルー形式の食材配布などを実行したんです」(三島さん)

それでも、地域の子どもたち、お年寄り、ボランティアの方たちが集まり、“密”な状態でごはんを食べたり、子ども同士が遊んだり、親たちはお喋りで息抜きをするという、本来のこども食堂としての活動はできないままです。その中で、地域のつながりを維持するために、各食堂が様々な工夫をしています。

「おたがいさま」の中で育ったから

園田愛美さんは、コロナ禍でこども食堂の活動を続けている一人です。園田さんは小学校の教師であり、3人のお子さんがいます。

「朝ごはんを食べていない子、夕飯を一人で食べている子がいるとわかっていても、教師という立場では何もしてあげられないことがもどかしかったんです」(園田さん)

小学校に来る子どもたちの家庭環境はさまざま。園田さんは、教師という立場から、各家庭の自己責任だけで子育てをする厳しさを目の当たりにしたそうです。

鹿児島でこども食堂を運営する園田愛美さん。立ち上げには苦労もあったそう

出産後、生まれ育った街で子育てをはじめた園田さんは、第2子の育児休暇中にこども食堂を立ち上げます。そのきっかけは、ご自身が地域のつながりを感じる環境で育ったことが影響していると言います。

「私の母は、『おたがいさま』の中で子育てをしていました。お醤油を借りたり、お砂糖を借りたり、おいしいおかずができたからおすそわけをするとか。私もそういう中で子育てをしたいと思ったんです。そして、地域の『おたがいさま』をどう作ろうかと考えた結果、こども食堂を作ろうと思ったんです」(園田さん)

園田さんは小さなお子さんたちを連れて、地域の人たちに直接、「こども食堂とは」「こども食堂がなぜ必要なのか」という説明をしてまわり、地域の協力を得ます。そして、開設から4年で、毎回70人ほどが参加するこども食堂になりました。

桜島での出張こども食堂でお弁当の受け渡しをする園田さん(鹿児島県)

「地域の協力を得るときに、こども食堂は誰でも行っていいところで、貧困の人だけが行くところじゃない、ということを理解してもらうことがとても難しかったんです」と語る園田さん。

活動を続けていくうち、だんだん近所の方たちや子どもたちの保護者からも理解を得られるようになりました。実際にこども食堂に参加した方たちからはどんな声が聞けたのでしょうか。

「子どもがいつもよりもよく食べますという声や、家では絶対に食べない嫌いなものもこども食堂だと全部食べるという声や、実際に来てみたら意外とにぎやかに楽しい雰囲気なんですねという声をいただいています」(園田さん)

「子どもに優しい地域は、みんなにも優しい」

配布する食材を入れた紙袋には、それぞれのご家庭に励ましのメッセージを添えています(鹿児島県)

そんな中、園田さんのこども食堂も、新型コロナウイルスの影響でこれまでの活動ができなくなってしまいます。

「食堂の開催は休止するしかなかったのですが、地域の人たちとのつながりを絶やしたくなかったし、みなさんしっかり食事を摂ってほしかったので、寄付してもらっている食材を配布し、各世帯に持ち帰ってもらうという活動を続けています」(園田さん)

鹿児島の感染状況を見ながら、ボランティアさんが集まれるときにはお弁当を配布。そこには、「誰かが自分のためにごはんを作ってくれるっていうだけですごく幸せな気持ちになれます。人と人がつながるのはごはんだなと確信しているんです」という、園田さんの思いがあります。

「同じ釜の飯を食べるというのは、子どもにとっても地域の人にとっても良いこと。子どもに優しい地域は、みんなにも優しい。コロナ禍でも活動を続けるこども食堂の思いはここにあるのかもしれません」(園田さん)

私たちは、緊急時と平時がセットになった社会を生きている

コロナ禍では、ソーシャルディスタンスを保つため、糸電話を使って楽しみながらコミュニケーションを取る食堂も(北海道)

園田さんのこども食堂以外にも、地域とのつながりを維持するために様々な工夫をしながら活動を続けているこども食堂がたくさんあります。

大人から子どもへの感染が心配されている中での感染症対策として考えられた「糸電話」。地域のお祭り開催が難しくなった場所では、駐車場を会場にした秋祭り。飲食が禁止になった公民会では、ビニールシートを敷いて「たけのこ堀り」の疑似体験会を開催したところもあったそうです。

「みなさん、あの手、この手を使って、こども食堂というつながりを続ける工夫をされています。コミュニティが弱体化する中で、子どもを中心とした、多世代交流の地域の居場所という存在を、こども食堂はコロナ禍の中でも守り続けていると思っています」と三島さん。

みんなでたけのこ掘りをするレクリエーション(滋賀県)

こども食堂が、工夫をこらしながら活動を続けられる理由は、民間ボランティアによる活動だからという点があります。

「政策制度の一環ではないため、『こうしなければいけない』というルールに縛られず、リスク管理をし、活動内容を工夫しながら続けられた。それが、民間活動ゆえの最大の強みが発揮された部分だと思っています」(三島さん)

三島さんは、「緊急時と平時がセットになっているのが、私たちが暮らしている社会」だと言います。「コロナ禍になり、こども食堂は、様々な年代の方たちが繋がり、それを通じて、食育的な要素、地域の安心・安全、災害時の支え合い、暮らしの安心を得られる活動になってきている」ことを実感しているそうです。

お弁当にして持ち帰る形式のこども食堂も(東京都)

ごはんを作れない日は、「こども食堂」という選択肢を

お話を伺った三島さんと園田さんに、親という立場から感じるこども食堂の存在について聞いてみました。

「子育てではなく、『孤育て』と言われるくらい孤立してしまう状況が増えています。そんなお母さんやお父さんにも、ホッとできる場所としてこども食堂を活用してほしいです。どうしても夕飯の準備ができないという日は、誰かが作ってくれたごはんを食べに行くという選択肢があっていい。手抜きしているわけじゃなくて、そういう日があって良いんです。こども食堂は、子どもだけではなく親たちにとっても大切な場所なんです」(三島さん)

「自分が子育てをする中で、子どもたちにはいろんな人の中で育ってもらいたいです。実際にその環境の中で子どもたちの変化を見てきたので、この歩みを止めたくないという思いがあります。こども食堂は親育ちの場でもあると感じます」(園田さん)

屋外駐車場を会場に、地域のお祭りの日にあわせて開催(千葉県)

コロナ禍だからこそ気づけたこと

子どもたちが自由に行ける場所が制限され、これまでとは違った形での活動を続けるこども食堂。できなくなったことは確かに多いけれど、できることにも気づけた期間だったようです。

ちょっとした会話で、親の気持ちもスッとラクに(東京都)

「息子が、初めてこども食堂でごはんを食べたとき、『こども食堂って楽しいね!』と言ったんです。何か特別なことをしたわけじゃないのに、息子は自然に、みんなと食べるっておいしい、人がたくさん集まっていると楽しいということを感じたんだろうなと思いハッとしました。その時の言葉がずっと自分の中に残っています」という三島さんは、密が作れないコロナ禍こそ、地域とのつながりを絶やさないように活動を続けてくださることに、1人の親としても本当に感謝しているそうです。

収束がいつになるかわからないコロナ禍ですが、その中でこども食堂は変わらずに地域のつながりを深めていく場として活動していきます。

(取材・文/上原かほり)

この記事は、クックパッドニュースによるLINE NEWS向け特別企画です。

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