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コラム

【パスタが中華麺に変身!?】加えるだけで食感が変化する「重曹」の不思議な力をひもとく!

料理の裏ワザには、きちんとした理由があった!その理由を、料理研究家・関岡弘美さんがクックパッド食みらい研究所 特任研究員・石川伸一先生に徹底取材。裏ワザの科学的根拠を解説します。

料理研究家の関岡弘美です。料理の「裏ワザ」と呼ばれる意外なテクニックが成立する理由を解明するこのコーナー、第3回目のテーマは「重曹を使って、食材の食感を変化させる裏ワザ」。今回も、みなさんに代わって裏ワザの裏側にある、科学的な理由を解き明かしていきたいと思います。

重曹を入れると、いつもの食材の食感が変わる!?

焼き菓子を膨らませたり、食材のあく抜きをしたりと、料理やお菓子作りにたびたび登場する重曹ですが、クックパッドで話題になっているのは、まったく違う使い方。もっとも話題のレシピの1つは、スパゲティのゆで汁に重曹を入れるとまるで中華麺になるというものです。

いったい、どんな変化が起こるのか、実際に試してみました。

まずは、スパゲティから実験開始!


ゆで汁に、塩と一緒に重曹を入れ、表示のゆで時間より2分ほど長くゆでます。重曹の量の目安は、1Lのゆで汁に対して大さじ1くらい。


重曹を入れるとぶくぶくとかなり泡立つので、少し大きめの鍋でゆでます。

(左)塩だけでゆでたパスタ、(右)塩以外に重曹も加えてゆでたパスタ

ゆであがったスパゲティを、普通に塩だけでゆでたものと比べてみました。
同じスパゲティなのに、重曹を入れたほうが色が濃くなっています。麺の表面の見た目はそれほど変わりませんが、食べてみると弾力が強く、また何よりも香りがスパゲティではなく、中華麺独特の香りになっていました。

次に、高野豆腐も試してみました

次に、高野豆腐のに煮汁に入れるとつるつるの食感になるという裏技についても検証してみましょう。


戻した高野豆腐を、一方はそのまま、もう一方はひとつまみの重曹を加えて煮ます。

(左)普通に煮た高野豆腐、(右)重曹を加えて煮た高野豆腐

煮あがった高野豆腐を再び比べてみると、普通に煮たもの(左)に比べて、重曹を入れた高野豆腐(右)は見ためにもきめ細かく、つるつるしているように見えます。実際に食べてみると、ともするとスポンジのようにパサパサしがちな高野豆腐が、なめからで、つるっとすべるような食感に変わっていました。

重曹の成分がゆで汁を「アルカリ性」に変えた!

重曹が食品に与えた変化についての科学的な理由を、宮城大学の石川先生にうかがいました。

—重曹を加えるだけで、どうしてスパゲティが中華麺のようになるのでしょうか?

「中華麺を作るのに欠かせないのが、「かん水」と呼ばれるアルカリ塩水溶液です。これによって、麺にコシや中華麺独特の香りが出て、色も黄色っぽく変化します。実は、重曹をお湯に溶かすと、この「かん水」と同じ成分ができます。そこで、スパゲッティの茹で汁に重曹を加えると、スパゲティに含まれるデンプンやタンパク質のグルテンに変化が生じ、まるで中華麺のようになるのだと考えられます」

ーそれでは、高野豆腐はどうしてつるつるの食感になるのでしょうか?

「これも、重曹を加えた水が“アルカリ性”であることが関係しています。高野豆腐の原料である大豆には、タンパク質が豊富に含まれていますが、最も多いタンパク質に「グリシニン」というものがあります。このグリシニンは、普通の水よりも食塩水や薄いアルカリ性の水に溶けやすい性質を持っているので、重曹を溶かしたアルカリ性の煮汁で高野豆腐を煮ると、タンパク質の一部が溶けて組織が柔らかくなるんです。また重曹には、繊維そのものを柔らかくし、膨張させる働きもあるので、高野豆腐の食感が、よりつるつる、もちもちになるのだと思われます。」

ー高野豆腐に入れる重曹ですが、たくさん入れるともっと柔らかくなるかと思い、多めに入れてみたところ、高野豆腐がどろどろに溶けてしまいました。入れる量はどれくらいがいいのでしょうか?

「高野豆腐のタンパク質を溶かすことで、柔らかな食感を出しているので、入れすぎると高野豆腐自体が溶けだしてしまいます。重曹濃度は、煮汁の0.2~0.3%以下にとどめておくことが必要です。たとえば、100gの高野豆腐を1Lの煮汁で煮るとしたら、2~3gまでを目安に入れるといいですね」

重曹のはたらきを理解して、かしこく料理にいかそう

いつもの使い方だけでなく、上手な活用法を知れば、キッチンでの重曹の活躍の幅はもっと広がること間違いなし。裏ワザに隠された変化の仕組みを理解して、いろんな料理に役立ててみましょう。

取材協力

石川 伸一(いしかわ しんいち)
福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、クックパッド食みらい研究所 特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。

執筆:料理研究家 関岡弘美

出版社にて食育雑誌の編集に携わった後、渡仏。 料理、製菓等を学び、レストラン、パティスリーで研修後、帰国。 雑誌、広告等を中心に活動するほか、都内でおもてなし料理とワインの教室を主宰。ブログはこちら

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