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コラム

夏ドリンクのトレンドは”青色”!日本人に目新しい色が好まれる3つの理由

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.19】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

青色のお茶「バタフライピー」が流行中

今、話題のバタフライピー、日本語でチョウマメは、その名の通り花が蝶のような形をしているマメ科植物のハーブ。乾燥させた青い花をお湯で煮出すと、飲み物とは思えないような鮮やかな青い色のお茶になる。レモンやライムを絞ると、クエン酸の作用でアルカリ性から酸性になって、紫色に変化する。しかし味は特にない。

クックパッドの食の検索データ「たべみる」によると、バタフライピーのキーワード検索が始まったのは2017年。2018年に倍増し、2020年にも前年の1.25倍に大きく伸びている。 「食欲を減退させる」青い色のバタフライピーが、なぜ流行しているのだろうか。

私がバタフライピーのお茶を知ったのは、2018年3月のこと。初めてのバンコクでお世話になった、青澤直子さんが営む野菜料理の店「サラッディー」で、すすめられて飲んだのが、真っ青なバタフライピーのアイスティーだった。「このマナオというライムを絞ると、紫色になりますよ」と言われ、やってみたら本当に美しい紫色に。「チョウマメと言うんですよ。マメ科植物で、アントシアニンが目にいいと言われています」と教えてもらった。

青澤さんにほかのハーブティーと一緒に分けてもらったので、その年はくり返し飲んだ。マナオは手に入らないのでレモンを絞ってみたり、色は悪くなるが紅茶とブレンドしたり、バタフライピー三昧を楽しんだ。

日本で流行し始めたのは、私が出合うより少し前から。『ほ・とせなニュース』の8月15日配信記事によると、香川県観音寺市の自然栽培農家が9年ほど前にタイで出合い、2016年にハーブティーを商品化している。

バタフライピーが話題になり始めたのは、通販サイトなどが扱うようになった2017年。流行のきっかけは、2017年4月に表参道で開業した台湾カフェ「Zen(ゼン)」が、日本初を謳い、アップルミントやマンゴーなどとブレンドした、カラフルなアイスブレンドティーとして発売したことだろう。3層に分かれた美しい色のお茶が話題となった。

モスバーガーが、ラベンダーレモネードという名称でブレンドティーを期間限定で発売したのが2018年、不二家が2020年にLOOKシリーズで発売、と大手企業も流行に注目し、商品を出すようになった。

『料理王国』の3月27日配信のウェブ記事によると、原産地のタイを始めアジア諸国では、花のエキスを抽出し、お菓子や料理の色づけとして活用しているという。

バタフライピーが流行している3つの理由

日本で人気になった秘密はどこにあるのだろうか。最も大きい理由は、珍しい鮮やかな青色と、酸性果汁を加えると紫色に変化する、「映える」特徴だろう。一昔前なら、日本の食卓になかった青い色は「気持ち悪い」、と敬遠されたかもしれない。しかし、今は若い世代を中心に色に対する感性が変化している。色に関わる最近の流行から、具体例をピックアップしてみよう。

2016~2018年に大人気となったチョコミント。明るいエメラルドグリーンのミントカラーがコンビニなどに溢れたが、この色の食べものも昔の日本にはなかった。去年から今年にかけてはピスタチオがブームで、ピスタチオカラーの洋服も人気が高い。やはり今まであまりなじみがなかったスモーキーなグリーンが、店頭で目を引く。バタフライピーの青は染料としては特別新しい色ではないが、青い食べものがなかった日本では目を引く。

そうした目新しい色が好まれるのは、誰もが気軽にSNSで発信できるようになり、大げさに言えば一億総タレント化時代になったからだろう。芸人でなくても、「これはネタになる」と思えば、好きか嫌いか以前に、目新しい現象・食べものに「面白い」と反応し、紹介する人が増えているのだ。

色に対する感性の変化は、2000年代半ばにマカロンブームになった頃から表れていた。この頃はカラーバリエーションを打ち出すユニクロが定着し、やはりカラーバリエーションが人気のル・クルーゼの鍋が流行していた。マカロンの中には、ブルーベリーやカシスなどの青系の色もあり、これまでの日本的な好みとは違う色合いのフレーバーも人気になっている。

色の好みが多彩になったのはおそらく、メディアの情報や旅行などで海外の文化を知り、柔軟な感覚を持つ人が増えたからだろう。そうした蓄積のもとに、青いお茶の人気は火がついたと言える。

二つ目の理由は、健康効果だ。青い色のもとであるアントシアニンは、ポリフェノールの一種で眼精疲労を改善する、活性酸素の働きを抑制するなどの作用が認められている。

三つ目は意外にもクセのない味。ほとんど味がないとも言えるからこそ、東南アジアで食品の色を染める目的でも使われてきたのだろう。そして、その色とクセのなさは料理やスイーツでの応用範囲を広げてくれる。表参道のZenでのブレンドティーをはじめ、ハーブティーとしての飲み方にも工夫の余地が大きい。そうした特徴は、いろいろな料理やスイーツを作ってみたい人の創作欲も掻き立ててくれる

このように、発展の余地が大きいバタフライピー。まだまだ人気は広がっていきそうだ。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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