【体の内側からキレイを目指す!美腸ライフVol.28】食と健康のエキスパート・管理栄養士の藤橋ひとみさんが「腸活」に関する豆知識をお届けする連載。「腸」は美容・健康の鍵を握る臓器。様々な心身のトラブルの解消のために、日々の食生活の中で継続して実践できるメンテナンス術を、分かりやすくご紹介していきます。
5月に入り、「5月病」などのワードをよく聞くようになりました。心の健康(メンタルヘルス)は、外的なストレス要因以外にもさまざまな影響を受けていることが明らかになってきています。その1つに腸内環境との関連が、近年見出されているのをご存知でしょうか?
今回は、最新のエビデンスに基づき、腸とココロの繋がりについて迫っていきます。
精神疾患と腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の関わりを示す研究論文が、これまでに数多く発表されています。例えば、統合失調症、注意欠陥障害(ADHD)、双極性障害、不安・ストレス・うつなどの気分障害との関連が注目されているのをご存知でしょうか?[1]
うつ病との関連を調べている研究が、ここ10年で盛んに行われています。研究によって結果にバラつきはありますが、うつ病患者の腸内細菌叢を検討した16の研究(観察研究10件[701名]、介入研究6件[302名])の結果をまとめた報告によると、うつ病ではない人と比べて、うつ病患者では腸内細菌叢の多様性が減少(腸内環境が悪化)していることが観察されました。また、人に有益な働きをする生きた微生物(プロバイオティクス)のサプリメントを飲むことで、抑うつ症状が改善することが確認されています。[2]
精神疾患の中には、高齢化社会の日本で特に問題視されている認知症も含まれています。特にアルツハイマー型認知症と腸内細菌叢との関連を調べる研究が近年数多く行われています。
アルツハイマー型認知症患者の腸内細菌叢を検討した11の研究(健康な成人378名とアルツハイマー型認知症患者427名)の結果をまとめた報告によると、アルツハイマー型認知症の患者は、そうでない人と比べて腸内細菌叢の多様性が大幅に低下していることが示されました。[3]
しかし、これらの精神疾患の有無が腸内細菌叢と関わっていることは分かっていても、腸内細菌叢の変化が発症の原因であるかどうかについては、まだ明らかにされていません。さらに、精神疾患の治療に使用されているお薬が腸内細菌叢の組成に影響を及ぼしている可能性もあるため、研究結果の解釈に注意が必要です。
少し小難しい話になってしまいますが、腸内細菌叢は神経系、内分泌系、免疫系(※)を通じて脳機能(脳の発達や生理、心理、行動)に影響を与えている可能性があると考えられています。
※これらは「ホメオスタシスの3大システム」とよばれており、相互的に関わり合いながら私たちの心身の健康を維持しています。
これまでの研究から、腸内細菌たちが、酪酸などの短鎖脂肪酸、セロトニンやγ-アミノ酪酸(GABA)といった神経伝達物質、コルチゾールなどのホルモン、キノリン酸をはじめとした免疫系調節物質に影響を与えることで、メンタルヘルスに影響を与えているのではないかと考えられています。
腸内環境が悪い状態では、メンタルヘルスに関わるこれらの物質がうまく産生・代謝されないため、悪影響が起こる可能性が示唆されているのです。[4]
腸内細菌叢とメンタルヘルスの関連は近年かなり注目を集めている分野ではありますが、これまでに行われてきた研究は主にマウスやラットなどの動物を用いたものがほとんどで、人での研究は遅れています。腸内細菌叢の解析のコストがどんどん下がっている為、ますます研究は盛んになっていることが予想されます。
これまでの研究で、腸内細菌叢が生活習慣病などの発症に関わっていることは明らかにされていますが、メンタルヘルスに関わっている可能性も否定できないため、カラダ・ココロの両方の健康のために、美腸づくりを意識した美腸ライフを続けることは重要と言えるでしょう。
〈参考文献〉
[1] Nikolova VL, et al. Perturbations
in Gut Microbiota Composition in Psychiatric Disorders: A Review and Meta-
analysis. JAMA Psychiatry. 2021 Dec 1;78(12):1343-1354.
[2] Sanada K,et al. Gut microbiota and major depressive disorder: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord. 2020 Apr 1;266:1-13.
[3] Hung CC, et al. Gut microbiota in patients with Alzheimer's disease spectrum: a systematic review and meta-analysis. Aging(Albany NY). 2022 Jan 14;14(1):477-496.
[4] Valles-Colomer M, et al. The neuroactive potential of the human gut microbiota
in quality of life and depression. Nat Microbiol. 2019 Apr;4(4):623-632.
(すべて2022年5月12日閲覧)
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株式会社フードアンドヘルスラボ 代表取締役。フリーランス管理栄養士として、商品開発やレシピ開発、コラム執筆やメディア出演、コンサルティング等、幅広く活動中。同時に、東京大学大学院にて医学博士取得を目指し、栄養疫学の研究に取り組んでいる。豆腐や豆乳、ソイオイル、味噌など、大豆関連の資格を多数所有し、大豆や腸活分野の専門家として活動する中で、最近は日本人が不足しがちな食物繊維の宝庫である「おから」に注目し、有効活用できる方法を広げる活動に注力している。著書「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ(ベストセラーズ)」
●所有資格
管理栄養士、調理師、製菓衛生師、豆腐マイスター、食育豆腐インストラクター、豆乳マイスタープロ、おから味噌インストラクター、ソイオイルマイスター、おから再活プロデューサー、インナービューティープランナー、ほか