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コラム

お茶と素材の旨みあふれる「玄米茶鍋」が絶品

【“クックパッド芸人”藤井21のソロ飯 vol.43】クックパッド芸人を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。一人(ソロ)で作って一人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。

冬に飲む温かい玄米茶の香ばしい香りは深夜のサービスエリアを思い出す。いつも同じように紙コップに入った温かい玄米茶を飲みながら2つ折りの携帯電話を開き「気をつけて帰ってね」というメールを眺めていた。それはもう10年以上前の話。全てが許される人生のモラトリアム期間を謳歌していた頃の思い出。

当時埼玉県東松山市の実家に住んでいた僕は、東京都の西部青梅に住む彼女の家までバイト代を貯めて買った中古のHONDAシビックで足繁く通っていた。

圏央道をひた走り30分ちょっと、高速を降りて下道を10分弱の道のりを週に何度も往復していた。正確には東松山に圏央道のインターはないので、お隣川島という地域の国道沿いに開通したインターから青梅までの深夜高速のドライブだ。

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当時川島のインターが開通したばかりという事もあってか深夜の利用者も少なかった。いやそもそも田舎の国道はたまに通る大型トラック以外は車通りも少ないので高速道路を利用する人も少ない。見渡す限りを田んぼに囲まれ遠くに転々と灯る街灯とコンビニの照明以外は闇が広がっているだけだった。

深夜の圏央道もまた同じで、東京23区外に位置する青梅は自然の方がビルよりも目立つ地域で、埼玉のこれまた緑と田んぼが多い地域への高速ドライブは快適を通り越して単調過ぎてどこか物悲しかった。

深夜の帰路は特に憂鬱な気持ちを助長させる。それはついさっきまで楽しい時間を過ごした事から来る落差に気持ちが追いついていなかったからかもしれない。そんな空漠とした心に追いつかせる為に僕は途中のサービスエリアによく立ち寄っていた。

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深夜のサービスエリアは仮眠をとっているのか駐車場の奥の方に大型トラックが止まっていて、蛍光灯の鈍い明かりの下で昼間は蕎麦やうどんを出す軽食屋はシャッターを下ろし、お菓子やキーホルダーにはネットがかかっている。人気が無いのにただ漫然と明るい空間で僕はいつも無料のお茶を飲むことにしていた。

ボタンを押すとカランと小さな音を立てて紙コップが落ちてくる。水、お湯、緑茶、玄米茶のボタンの中から玄米茶をえらんで押すと湯気を上げて紙コップに注がれる。何故か分からないけどいつも一番下のボタンの玄米茶。

玄米茶なんてサービエリアくらいでしか飲まないよなと思いながら外のベンチに腰掛ける。冬の寒空の下携帯電話を取り出しセンター問い合わせをすると先ほど別れたばかりの彼女から「気をつけて帰ってね」と帰りを気づかうメールが届いている。

ぼんやりした頭が温かい玄米茶の香りでクリアになっていく。しばらくそのメールを眺めてから、帰ったらまたメールしようとポケットに携帯をしまう。鉄の塊が整然と並ぶ駐車場に寒々とした空気が抜ける。僕はいくぶん冷めた玄米茶を飲み干しまた深夜の高速を帰路につく。

『玄米茶鍋』

藤井21(ふじいにじゅういち)

料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。

>>オフィシャルブログ「良い香りのある生活

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