子どもを育てていると、多くの人がぶつかる食事の「好き嫌い」の問題。栄養バランスや発育が心配で、ついつい怒ってしまう事もあるけれど、それって本当に子どものため…?イタリアで育児をした経験のあるワダシノブさんの著書「いいかげんなイタリア生活 - イタリア在住15年の私が見つけた頑張りすぎない生き方」(ワニブックス)より、肩の力を抜いてハッピーになれる考え方のヒントを紹介します。
イタリアで最初にできた友達はママ友だった。小柄で、英語が話せるジューシィという名の女性だ。ジューシィ一家は同じアパートの一つ上の階に住んでいた。まず一歳違いの子ども同士が仲良くなり、そのうち私たちの距離が縮んでいき、彼女の家でコーヒーをご馳走になったり、お互いに子どもを預けあったりする仲になった。
その頃の私はイタリア語がほとんどできなかったので、英語で会話ができる彼女の存在には本当に助けられた。同じアパートには夫の妹が住んでいたし、近くには夫の両親の家もあったのだが、イタリア語しかできない彼らにはなかなか伝わらないことも多く、いろんなことを話せるのはジューシィだけだった。
同じ年頃の子どもを持つ母親同士だったけれど、彼女と私には様々な違いがあった。ノーアイロンでゆるい服ばかり着ているうちの子どもに対して、彼女の子どもたちはいつもアイロンがかかった女の子らしい服を着て、髪もキレイにセットされていたこと。ほぼワンオペの私に対し、幼稚園のお迎えは夫と半分ずつ分担していたこと。また、彼女の家では夏になると、海が近い南イタリアの実家に一ヶ月以上帰ることなど、例を挙げ出すときりがないくらいだ。彼女を見ているうちに、私とはまったく異なるイタリア式の子育てを知った。
例えば、食事の場面。子どもが野菜を食べないと言うと、私は母直伝の「先に野菜を食べてからじゃないと、他のものは出ません」という技を使っていた。一方、ジューシィは「野菜も出すけど、食べないなら仕方ない」と考えていた。
だから、彼女の子どもは「好きじゃない」と言って、野菜を一切口にしなかった。私はそれを見て驚いたのだが、彼女も私を見て「そこまでして食べさせるなんてすごいね」と言っていた。
そのときは子どもに野菜を食べさせることが正解だと思っていた。でも、10年以上経った今振り返ると、「絶対に野菜を食べなさい」と必要以上に厳しくするよりも、ジューシィのようにストレスが少ない楽しい食事を優先すればよかったと思う。あの頃の私は、もしかしたら子どもを〝自分にとって都合のいい子〞にしようとしていたのかもしれない。
また、子どもを注意するときもまったく違った。以前、娘を怒るときに「母親にそんなことしていいと思っているの」と言ってしまったことがある。後から後悔したのだが、私がこんなことを言ってしまった背景には「親は子どもよりも偉い。親と子どもは対等な関係ではない」という考えが染みついていたからだと思う(これはアジア圏に多い考え方かもしれない)。
でも、ジューシィはそんなふうに言わない。「Ascoltami. (聞きなさい)」と、なぜそれがダメなのかを丁寧に説明するのだ。日本で「子どもは親が頑張ってしつけて、言うことを聞く良い子にするもの」だと思い込んできた私には、彼女の「どんなに言ってもやらないときはやらない、それもその子の個性」という、あきらめにも思えるクールな態度が新鮮だった。
今はお互いに引っ越したため疎遠になり、たまにメッセージを交わす程度の関係になってしまった。でも、ジューシィのことを思い出すたびに、同じアパートに気が合うママ友がいた奇跡と、彼女と過ごす中で子育てについて考えられた幸運に感謝している。
本文は「いいかげんなイタリア生活 - イタリア在住15年の私が見つけた頑張りすぎない生き方」(ワニブックス)より一部抜粋・編集しています。
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note&Twitterで人気!イタリア在住15年のイラストレーターによる初エッセイ
イタリア人パートナーとの結婚を機に、イタリアに移住して15年。初めは「イタリア大好き! 」というわけではなかった著者が、イタリアで暮らし続ける中で見つけた“ちょうどいいかげん"な生き方を漫画と文章でつづったイラストエッセイ。
"何もしない"バカンスでリフレッシュ
小さな「嫌い」は我慢せず伝える
愛があるものだけ大切に
「一緒にやろう」で嫌な気持ちを半分こ etc.
イタリアの文化、人、食べ物、考え方まで。適当なことも多いけど、だいたいなんとかなる。心が軽くなるイタリア生活のエッセンス。
イラストレーター・漫画家。広島県生まれ、イタリア・トリノ在住。日本で出会ったイタリア人パートナーの帰国について、 2007年にイタリアに渡る。イラストレーターとしての仕事のかたわら、noteやPodcastでイタリア生活につ いて発信している。
Twitter:@shinoburun