食と健康のエキスパート・管理栄養士の藤橋ひとみさんが「腸活」に関する豆知識をお届けする連載。「腸」は美容・健康の鍵を握る臓器。様々な心身のトラブルの解消のために日々の食生活の中で継続して実践できるメンテナンス術を分かりやすくご紹介していきます。
就職や進学などで新生活がスタートしたり、コロナウイルスの影響によっておうちで過ごす時間が増えたりと、いつもと違う生活をされている方も多いのではないでしょうか? 環境の変化があると、どうしても避けられないのがストレス。「なんだか最近、お腹がスッキリしない…」なんてことはありませんか? 今回は、そんな環境の変化によって起こりがちな “ストレス便秘”の解消に役立つ情報をお伝えしていきます。
その主な理由は、自律神経と腸の関係にあります。自律神経には、交感神経と副交感神経という逆の働きをする2つがあり、これらがバランスを取りながら働くことで、私たちの健康を守っているのです。
交感神経は身体を活発に動かすときに働き、副交感神経は身体を休めるときに働きます。ストレスを強く感じると、交感神経が過剰に優位になってしまい、自律神経のバランスが乱れてしまう原因に。腸などの消化器官は副交感神経が優位な時に活発に働くため、ストレス環境下では腸の働きが通常よりも鈍ってしまうため、便秘を引き起こす原因となると考えられています。(出典1、2参照)
ストレスの緩和には、いくつかの方法があります。代表的なものとして挙げられるのは、環境改善によってストレスの原因をなくす方法、不安感や怒りなどの感情を周囲の人に聞いてもらうことで発散する方法などがあります。いずれにしても、自分一人で無理して抱え込まず、周囲の人たちの力を借りて、よりよい解決の糸口を見出すことが重要です。
また、日頃からストレスが発散できるよう、趣味や生きがいとなるものを持つことも大切です。音楽鑑賞、瞑想、呼吸法、ストレッチ、アロマセラピー、お気に入りの場所でのんびり過ごすなど、日々の生活の中で実践できる、自分にあったリラクゼーション法を身に付けられると良いですね。(出典2、3参照)
便秘解消のためには、腸内環境を整える食事を心がけることが大切です。まずは、次の5つのチェックポイントを確認してみましょう。
すでにご存知の方も多いとは思いますが、食物繊維の不足は便秘の原因となります。まずは、野菜・果物・芋・豆・海藻・全粒の穀物などに含まれる食物繊維が不足していないか普段の食事を見直してみましょう。
食物繊維を意識して摂っているはずなのに便秘が改善しない場合は、摂り方に問題があるケースも。キャベツやゴボウなどに含まれる“不溶性食物繊維”は、便のカサ増しをしてくれますが、摂りすぎるとお腹が張る原因に。便を柔らかくしてくれる働きを持つ、海藻などのぬるぬるネバネバ食品や果物に含まれる“水溶性食物繊維”も意識して摂るようにしましょう。(出典4参照)
水分は便を軟らかくして、排便をしやすくする働きがあります。特に起床後の水分摂取は、胃・大腸の働きを活発にするため意識をして取り入れてみましょう。(出典4参照)
ダイエットを意識して、極端に脂質を抜いていませんか? 適度に脂質を摂ることで、脂質に含まれている脂肪酸が大腸を刺激してくれます。また、腸の働きを活性化してくれる、良質なオメガ3のオイルもおすすめです。オメガ3脂肪酸は、亜麻仁油や荏胡麻油、マグロやサンマ、サバなどの魚類などに多く含まれています。(出典4〜6参照)
腸内細菌のうち、増えすぎると私たちの健康に悪さをする悪玉菌は、たんぱく質や脂質が中心の食事をしていると増えやすいことが明らかになっており、便秘がさらに悪化する心配も。そのため、お肉や牛乳、バターなどの乳製品が大好きでよく食べる方は注意が必要です。悪玉菌の大好物である動物性食品を避け、善玉菌の大好物の食物繊維とオリゴ糖が摂れる、野菜や豆などの植物性食品を中心にした食事を心がけましょう。(出典6参照)
朝食は1日1回程度の頻度で起こる、腸の大きな蠕動(ぜんどう)運動である“総蠕動(そうぜんどう)”を起こすために必要な刺激でもあります。朝に便意が起こりやすいのは、この総蠕動が関わっています。忙しくても朝食は抜かないように、そして朝食後にゆっくりトイレに行く時間が作れるよう、早寝早起きなど規則正しい生活習慣を心がけましょう。(出典4参照)
新生活が始まり、慣れない環境で休憩が取りにくい、トイレに行きにくいということもあるかもしれません。しかしながら、我慢は禁物です。便意を我慢し続けていると、だんだんとセンサーが鈍ってしまい、便意を感じにくい体になってしまいます。
また、我慢を繰り返すことで、出口付近の便が硬くなってしまい、さらに出にくい状態にしてしまうため、便意を感じたら我慢せずにすぐにトイレに行く習慣をつけましょう。(出典4参照)
便秘が長引くと、腸内で悪玉菌が増殖してしまい、さらに便秘を悪化させる負のスパイラルに陥ってしまう恐れも。また、悪玉菌によって産生された腐敗物質や老廃物資が、様々な心身の不調や疾病の原因にもなりかねません。便秘に気がついたら、そのまま放置せずにすぐに対処して、なるべく早めに解消できるようにしましょう。
〈出典〉
1. 厚生労働省「e-ヘルスネット|自律神経失調症」
2. 厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|ストレス軽減ノウハウ」
3. 公益社団法人 日本看護協会「ストレスへの気付きと対処|セルフケア」
4. 厚生労働省「e-ヘルスネット|便秘と食事」
5. 田村 基「技術用語解説|バイオジェニックス」日本食品科学工学会誌57 巻 (2010) 10 号
6. 厚生労働省「e-ヘルスネット|腸内細菌と健康」
(全て2020年4月8日 参照)
フリーランス管理栄養士として、商品開発やレシピ開発、コラム執筆やメディア出演、コンサルティング等、幅広く活動中。同時に、東京大学大学院にて医学博士取得を目指し、栄養疫学の研究に取り組んでいる。大のお豆腐好きが高じて、豆腐マイスターの認定座学講師として、国内外で日本の豆腐の魅力を伝える活動をしているなかで、その原料である大豆自体への興味が深まり、大豆関連の資格の制覇を目指し、学びを深めている。
近年は特に、豆腐を作る際に同時にできる「おから」に注目し、日本人に必要な食物繊維の宝庫でもある「おから」を、有効活用できる方法を広げる活動に注力している。5月中旬に「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ(ベストセラーズ)」が発売予定。
●所有資格
管理栄養士、調理師、製菓衛生師、豆腐マイスター、食育豆腐インストラクター、豆乳マイスタープロ、おから味噌インストラクター、ソイオイルマイスター、おから再活プロデューサー、インナービューティープランナー、ほか