料理僧・青江覚峰(あおえ かくほう)さんが提案するのは、誰でも簡単に作れる「一汁一菜のお寺ごはん」。実際にお坊さんたちが食べている、肉や魚を使わない一工夫あるレシピを教えていただきました。からだと心がほっとゆるむ、優しい味わいのお料理ですよ。
「けんちん汁」という料理を耳にしたことがあるでしょう。
名前の由来は諸説ありますが、有名なところでは、神奈川県鎌倉市の建長寺の修行僧がつくっていた「建長汁」がなまってけんちん汁となったとする説と、中国語で「巻繊」や「巻煎」などと書き、ケンチャン・ケンチェンと呼ばれていたものが「けんちん」となったとされる説があります。後者は、細かく切った野菜や豆腐を具にした料理だそうです。
いずれにしても由来は古いもので、出どころもはっきりしないため正確なところはわかりません。
料理なんかをしていると、料理名や発祥などが定かでないものによく出会います。
比較的新しい料理では、ザッハトルテやシンガポールスリングのように起源の明らかなものもありますが、古いものには、歴史の分だけ様々なストーリーが伝わっているものが多いように感じます。本家と元祖で争ったりしているものもあります。
僕はこの「出どころのはっきりとしないもの」というが、実は大好きなんです。
食文化が文字情報として記録されるようになったのは、ごく近年になってからです。でも、記録されるずっと前から、口伝ではその地方地方に伝わっていました。文字がなくても、記録媒体がなくても、愛され、大切にされてきたもの。後世に伝えたいと思われてきたもの。それが近年になって文字化されたことにより、場所や時代をまたいだ伝承が知られるようになり、「諸説ある」という実態が明るみに出てきたわけです。
このように、歴史の表舞台には出てくる以前にもたしかに存在し、大切にされてきた料理が数多く今に伝わっています。それは即ち、私たちの先祖を体をつくってきた料理です。ご先祖様も食べた、美味しいと思った、子孫にも伝えたいと思った料理。そこにストーリーが肉付けされ、口伝で継承された。壮大なロマンを感じます。
料理をするとレシピばかりに目がいきがちですが、名前や由来を調べてみると、その後ろに連なるストーリーが見えてきます。
今回は、そんな由来が諸説ある「けんちん汁」と、夏にぴったりな「枝豆ととうもろこしのおろし和え」のレシピを紹介します。
大根…30g
人参…30g
ごぼう…20g
こんにゃく…30g
しいたけ…1枚
木綿豆腐 …1/4丁
三つ葉…少々
ごま油…大さじ1/2
昆布出汁…2カップ
醤油…大さじ1
酒…大さじ1
塩…少々
1.大根、人参はいちょう切りに、ごぼうはささがきに、こんにゃくは短冊切り、しいたけは細切りに切りそろえ、ごま油を引いた鍋に入れて中火で炒める。
2.全体がしんなりしてきたら塩を入れ、昆布出汁を入れ、手でちぎりながら豆腐を加える。
3.沸騰直前で弱火にし、10分ほど煮てから醤油、酒を入れる。味見をして塩で味をととのえる。
4.盛り付けをし、上に刻んだ三つ葉を乗せる。
枝豆(茹でてむいたもの)…50g
とうもろこし(粒を取り外して茹でたもの)…50g
大根…100g
薄口醤油…小さじ2
青ゆずの絞り汁…小さじ2
1.枝豆を茹でてさやから外しておく。とうもろこしも粒を取り、さっと茹でておく。
2.大根をおろし金でおろし、水気を軽く切っておく。
3.1と2をボウルに入れ、醤油、青ゆずの絞り汁を加えてよく混ぜ、盛り付ける。好みで青ゆずの皮を削ったものを上からかける(大根おろしの汁気によって、しょうゆとゆずの塩梅を変えてもよい)。
食の「もったいない」を美味しく楽しく解決! 舞台は“もったいない精神“の国、日本。
“もったいない精神”に魅せられ、オーストリアからやって来た食材救出人で映画監督のダーヴィドと、パートナーのニキが日本を旅して発見する、サステナブルな未来のヒントとは?
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1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。
ユニット「料理僧三人衆」の一人として講演会「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」などで料理をふるまう。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)、『お寺のおいしい精進ごはん』(宝島社)など。
【公式HP】https://www.ryokusenji.net/kaku/