cookpad news
コラム

食べきりタイプや皿盛りも人気!?近年の「おせち」の流行に迫る【あの食トレンドを深掘り!Vol.13】

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

時短ブームの影響を受ける「おせち」

コロナ禍の今年、年末年始を家で家族と過ごした人は、多かったのではないか。例年とは違い、おせち作りをしたという人もいるだろう。

時短ブームの影響もあるのか、おせち作りは簡略化する傾向があるようだ。毎年12月号でおせち特集を組む『きょうの料理』でも、かんたんおせちと正統派おせちの2本立てで紹介することが多い。今回は、最近人気の「かんたんおせち」について書いてみたい。

私が子どもの頃、母のおせち作りは3日間に及んでいた。特に黒豆は味を浸透させるため、2日に渡って石油ストーブの上で煮ては夜に冷ます、という作業をくり返す。コンロを使わなかったのは、いくつも作業中の料理があるうえ、3度の食事の支度もあるので、2口しかないコンロは常にふさがっていたからだ。

ところが今はレシピが進化し、そんなに時間をかけなくても黒豆はできるらしい。例えば、『オレンジページ』2021年1月2日号は、「半日で作れる食べきりおせち」を特集。「和風おせち」の黒豆レシピでは、乾物の黒豆を1晩かけて戻す際、調味料を加えて一度煮立てた汁に入れる指示がある。あらかじめ味を染み込ませておくので、煮るのは1回で済む。

定番の煮しめは、一度夫の実家で手伝ったことがある。一度だけなのは、例年は夫の仕事が立て込む年末年始の帰省は難しいものの、その年は珍しく時間に余裕があったからだ。義母は、「煮物は、同じ出汁で色の薄いものから順番に煮ていくねんよ」と、サトイモを煮るところを手伝わせてくれた。その他、レンコン、ゴボウ、コンニャク、ニンジン、シイタケが入る。だから、6回煮る工程をくり返さないといけない。本来、煮える時間は素材ごとに違いがある。素材を活かすための調理に手間と時間をかけるのが、特別なときにしかごちそうを食べられなかった名残を残したおせち作りだった。

『オレンジページ』の特集に煮しめのレシピはなく、替わりに「祝いいり鶏」がある。その作り方は、フライパンを使い、野菜はいっぺんに加えて炒め煮するもの。日常のお惣菜のいり鶏と基本的な作り方は同じだ。しかし、最初に鶏肉だけ強めの中火で焼き目をつけるこのレシピは、おいしそうだ。「さっぱりと食べやすいのにこくがあるのは、煮汁に加えた酢が秘密」だと説明がある。

『きょうの料理』は、2019年と2020年のおせち特集で、手間と技術を要する重箱詰めをせず、皿盛りにするという提案をしている。ここ数年、皿盛りおせちも人気がある。

おせちも、ライフスタイルに合わせて変化している

「おせちがこんなに変化して、伝統は守れるのか?」、と心配する人もいるだろう。しかし、『オレンジページ』もそうだが、雑誌は長年、アレンジレシピを提案してきた。洋風おせちも雑誌レシピの定番だ。戦前の『主婦之友』も、すでに和洋折衷おせちを紹介している。百貨店やレストランがつくるおせちにも、洋風・中華などのバリエーションがたくさんある。

それに、おせちを重箱に詰めるスタイルが定着したのは、近代に女性誌が誕生してからなのだ。『日本の食文化①食事と作法』(小川直之編、吉川弘文館)によると、おせちはもともと、正月に加え端午の節句や七夕などの五節供(ごせつく)に、神に供える飾り物の「蓬莱(ほうらい)」(京都・大坂)または「喰積(くいつみ)」(江戸)が源流にある。搗栗や干し柿、昆布、伊勢エビなどが使われていた。

江戸時代後半になると、供え物のおせちとは別に、組重(重箱詰め)が流行った。やがて組重は煮しめ、おせちは数の子、煮豆、昆布巻きなどを重箱に詰め、来客にすすめる料理になる。それが明治以降に、『婦人之友』などの女性誌が、正月料理をすべて重詰めにしておせちとし、それが風習として定着していったのである。

ところで、私自身はおせちをちゃんと作ったことがない。夫婦2人暮らしで、伝統を伝えるべき子どももいないし、私も夫も特におせちが好きではないからだ。自分で作ったら、自分で食べ切らなければならなくなる。

おせちが特に好きでないのは、冷めたものを食べなければならないうえ、味が濃厚で苦手だったこともある。高校生の折、きんとんと伊達巻を任された年がある。その際、渡されたレシピ本の材料を観て驚いた。「これはお菓子では?」と思われるほど、たっぷり砂糖が入っていたからだ。おせちは日持ちさせる必要があることから、昔のレシピは味付けが濃くできていた。また、砂糖をたっぷり使うのは、それが特別な贅沢だからでもあったのだろう。

一方、『オレンジページ』のかんたんおせちのいり鶏を、私がおいしそうと感じるのは、現代人の味覚に合わせた砂糖控えめの味付けだからである。今は冷蔵庫もあるから、昔ほど保存に気を使わなくてもよい、という合理的な判断がそこにはある。

時代とライフスタイルに合わせて、柔軟に変化させていくのが人々の知恵。レシピの変化とテイクアウトのおせちの隆盛は、決して憂うべきことではないのである。

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。

関連する記事
おつかれ気味の腎臓がよみがえる!不調に効く「解毒スープ」とは 2023年09月20日 18:00
今の若者は「ベトナム料理ネイティブ世代」。ライスペーパーが人気な理由を探ってみた 2023年09月20日 19:00
「きのう何食べた?」にも登場。庶民の味方「のり弁」が高級化した理由 2023年10月31日 19:00
サクサクとホクホク食感がたまらない!X(旧Twitter)で話題の「じゃがいもフライ」の作り方を聞きました 2023年10月13日 20:00
ラーメン屋で蕁麻疹!?「オーガニック生活10年」のスタッフに聞いた、普段何食べてるの? 2023年10月20日 17:00
うまみを最大限に引き出す!ボリューム満点「きのこたっぷりスープ」 2023年09月22日 14:00
1台250円で完成!材料3つでできる「バナナプリン」 2023年10月10日 10:00
子どもの好き嫌い、叱るのは間違い…?イタリア人ママの言葉で気づいたこと 2023年09月25日 20:00
ナイスアイデア!お弁当に「ミートボール」をいっぱい詰める方法 2023年11月01日 06:00
ハンバーグ以外にも!ひき肉&えのきで作るボリュームメイン3選 2023年11月21日 08:00
あると助かる!ボリュームたっぷり「厚揚げの肉詰め」の作りおき 2023年11月26日 16:00
50代2児のワーママ「将来が不安、疲れやイライラで辛い」原因と対策は 2023年11月25日 20:00
今は「クセつよ」が人気。チーズケーキが日本人に愛されるようになったきっかけ 2023年11月28日 19:00
“ルンバブル”って知ってる?30代女性が激推しする「時短に貢献してくれる家電」 2023年11月10日 17:00
ストレスだらけだった減量が達成感があって楽しいものに!半年で−6kgを叶えた人気YouTuber・まみやでさんが、これまでのダイエットから“変えたこと”とは? 2023年10月28日 15:00
15分煮るだけ!あっという間に味しみしみ「鶏チャーシュー」 2023年12月31日 16:00
生春巻きだけじゃない!「ライスペーパー」がSNSで大バズりした理由とは? 2023年11月29日 04:00
1個600円以上!パリで日本のおにぎりが大ブーム。人気の理由は? 2023年11月29日 04:00
子育ての本番は〇〇期から!12人産んだ助産師ママが語る「子育て中で一番きつかったこと」 2023年12月12日 18:00
これ知ってる?ドンキ・ホーテのおすすめプライベートブランド商品 2023年12月01日 20:00
クックパッドで人気!「れんこんと豚こま肉」のメインおかず3選 2023年12月08日 16:00
渋谷からブームに!若者たちに「いちご飴」が人気の理由 2023年12月27日 19:00
ちくわや豆腐でもう1品!11月に最も読まれた記事は?【月間ランキングTOP5】 2023年12月09日 22:00
年末年始にも大活躍!もはやお店で買う必要がなくなる「絶品手作りチャーシュー」 2023年12月25日 21:00
今年は手作りおせちにしてみる?定番のおせち煮物料理3選 2023年12月26日 21:00
あの料理にもすごく合う!編集部スタッフも悩む「味の素」の上手な使い方とは… 2023年12月15日 17:00
料理をするとき必ずつける?30代スタッフの「エプロン」に対する本音とは… 2023年12月22日 17:00
なんと8割の子どもに栄養失調のリスクが!その原因は◯◯不足にあった 2023年11月28日 20:00
卵とマヨで濃厚コクうま!もりもり食べられる「白菜サラダ」 2023年11月30日 13:00
オーブンなし&市販品で簡単に作れる!「かまくらケーキ」 2023年12月21日 13:00
お正月の「なます」には◯◯を入れるのが正解だった! 2023年12月29日 13:00
あまった「おせち」が和食以外に大変身!おせちリメイクおかず 2024年01月03日 17:00
1ミリも無駄にしない!「かまぼこ」をきれいに板からはがすワザ 2024年01月01日 06:00
知らなかった!◯◯で固い大根が柔らかく煮える 2024年01月08日 14:00
余った切り餅で簡単!パパッと作れる「お餅おつまみ」4選 2024年01月10日 17:00
新年を祝うフランス菓子「ガレット・デ・ロワ」が美しすぎる 2024年01月06日 07:00
コーヒーに◯◯をちょい足しがウマい!2023年12月に最も読まれた記事は?【月間総合ランキングTOP5】 2024年01月13日 22:00
子どもに合わせて料理はしない。21万人が注目、arikoさんが語る「家族が幸せになる食事」 2023年11月30日 18:00
がん専門医に聞いた!がんリスクを減らす「抗がん食材」ベスト3 2023年12月21日 20:00
50代からの落ちにくい体重に!話題の「アジアン粥」で置き換えダイエットをやってみた 2024年01月24日 19:00
夕方以降の◯◯で脳機能が低下!?脳内科医が警告する不眠原因となる食習慣とは 2024年01月08日 19:00
専門店が続々登場!定番の「おにぎり」がブームになった理由 2024年02月21日 19:00
使いこなせない!?編集部スタッフに聞いた「鉄のフライパン」のメリット&デメリット 2024年02月09日 17:00
用意していた非常食は役に立たなかった…能登半島地震・被災者に聞く避難時の食生活 2024年01月25日 20:00
不摂生な生活で激太り!座りっぱなしの漫画家が一念発起して−25kgを達成した「期間集中ダイエット」 2024年02月03日 09:00
「老け見えしない」50代のダイエット術!4カ月でー6kg、更年期症状も改善した方法 2024年02月17日 09:00
フライパンは捨てる前に◯◯掃除に使用!?毎日使うキッチングッズを「捨てるタイミング」は… 2024年03月15日 17:00
【医師が伝授】ポイントは油!認知症リスクが最大23%下がった○○食事法とは 2024年02月19日 19:00
【フライパンで全て完結】時間や手間を極限まで減らす!料理研究家・ゆーママさんの「テーブルパン」 2024年02月25日 12:00
殿堂入り間近のレシピも!副菜でよく使う食材で「あと1品おかず」 2024年03月11日 19:00