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コラム

伝説の家政婦・タサン志麻さんが教える「一生ものの料理のコツ」

“伝説の家政婦”こと、タサン志麻さん。フランスで料理修業し、帰国後も老舗フレンチレストランで15年勤務した志麻さんは、結婚を機に家政婦としての活動をスタート。瞬く間に、予約が取れないほどの人気となった志麻さんが、多くの家庭を見てきたからこそ伝えたい「一生使える料理のコツ」について伺いました。

おいしいより大事なのは、楽しく食べること

私がフランス料理を学んだのは、食事を娯楽の一つと考えるフランス人の考え方がとても素晴らしいと感じたからです。彼らが食事をしている姿を見ていると、家族や友人と集まり、その時間を心から楽しんでいるというのがわかります。

毎日の食事は前菜とメインディッシュくらい。日本と比べたら寂しく感じるかもしれません。それも大皿や鍋のままテーブルに出します。その分、盛り付ける手間はないし、洗い物も少なくてすみます。何より、食事を出した瞬間から、作った人もみんなと一緒に食べ始めることができるんです。取り分けながら会話も弾み、食べている人たちの笑顔も増えます。

長男が1歳のとき、フランスに連れていきました。フランスの食事は2時間が当たり前。まだ幼い長男が飽きてしまわないか心配していたのですが、長い食事の間、息子もずっと笑顔で楽しそうにしていたんです。そして何より驚いたのが、本当によく食べたこと。きっと、その場の雰囲気を感じたのでしょう。

私はそのときに、食事は味や盛り付けではなく、楽しく食べることが何よりも大切だと思ったんです

家政婦としてたくさんのご家庭にお邪魔して感じたのは、ごはんを作ることが苦痛になっている方が多いということ。フランスでは食事は娯楽なのに、日本では義務のようになってしまっている。この差はなんだろう?と考えたとき、料理を作ることへの力の入れ加減なのではないかと思ったのです。

料理は毎日のことなので、常に頑張る必要はないと思うんです。疲れているときはお惣菜を買ったり、出前に頼ったりしていいと思います。私も毎日料理を作っているように思われますが、テイクアウトや出前ももちろん利用します。ただ、作っても作らなくても大切にしているのは、家族で楽しく食べること

現代は、疲れた時に無理をしなくてもいい環境が整っています。便利なものを活用して、笑顔で楽しく食べることを意識してみてください。「ちゃんと作れなかった…」という気持ちになったら、時間があるときに凝ったもの作ればいいんです。自分の料理以外のものを食べることも大事です。「おいしいもの」「おいしくないもの」を知れたり、次の料理に生かせたり、いろいろな学びがあります。だから、毎日頑張って作らなくても大丈夫。

塩の使い方をマスターすれば、料理はラクに

普段調理するうえで大事だと思うのは、塩の使い方を掴むことです。塩が持つ力を知り、それを生かすことで、料理がガラッと変わります。

塩には味付け以外にも、うまみを引き出したり、脱水や臭みとりなど様々な役割があるんです。下味の段階でしっかり塩をふっておくのとそうではないのでは、仕上りが全く違ってきます。特にお肉は、厚みがあるところは多めに、薄いところは少なめにと丁寧にふることを意識してみてください。塩をたくさん使うのに抵抗のある方もいるかと思いますが、思い切っていつもより多めに塩をふることで、しっかりと下味が入り、仕上がりの味が決まるはずです。

フランス料理は調味料が塩だけ。とてもシンプルで手間も少ないですが、その分、塩使いが重要になってきます。塩をマスターすることで、料理はラクになります。

よく、使っている塩の種類を聞かれるのですが、私は調味料にこだわりを持っていないので、コレというものはありません。ただ、サラサラしていてふりやすい“焼き塩”を使うようにしています。

思いつく調理法と味でレシピを決めればいい

レシピが少ないと悩んでいる人は多いですよね。でも私は、レシピを知っていることが大切だとは思いません。自分の持っているレシピをベースにして、冷蔵庫にある食材の組み合わせを楽しんでみると、料理の幅は一気に広がります。

家政婦では、伺ったおうちの冷蔵庫を開け、食材を見ながらその場でどんな料理にするか考えます。例えば鶏もも肉があったら、それを焼くか煮るか、蒸すか揚げるか、もしくはマリネするか……。そんな風にまずは調理法をイメージします。「煮ると時間がかかるな…となると、炒めるか焼くか。日持ちさせるとなると…」献立を考えているときの私の頭の中はこんな感じ。そして、鶏肉を“焼く”と決めたら、ソースはどうしよう?と、次に味を考えます。トマト、クリーム、コンソメ、甘辛い味噌…と、味付けだけでも何通りもあります。

そして、「鶏肉をオーブンに入れている間に、冷蔵庫にあった豚肉で少し手の込んだものを作ろう」とか、時間配分も決めていきます。食材からレシピのレパートリーを思い浮かべると思っている方が多いのですが、実はそうではありません。

つまり、レシピを知らなくても、自分で思いつく「調理法」と「味」でどう調理するかを決めていけばいいんです。

いつもの料理のアレンジでレシピ数が増える

仕上りがわからないから…と不安に思うかもしれませんが、怖がらずにいろいろ作ってみてください。私もこれまで作ってきた品数は多いですが、思いつきながら作ることも多いです。

料理は、もっとシンプルに考えていいと思います。チンジャオロースを作ろうとして、タケノコがなかったら、シャキシャキしている白っぽい野菜で代用できないかな?と考えてみてください。もやしやジャガイモがあれば、タケノコがなくても“チンジャオロース風の一品”が完成します。豚肉がなかったら、鶏肉を細切りにして使ってもいいんです。完璧である必要はありません。

何度もリピートしている料理は上手に作れますよね。そんな、自分が持っているレシピをベースに、冷蔵庫にある食材との組み合わせを楽しむことで、レシピの幅が広がり、新しい発見がありますよ。

使いやすい調理器具のトップは「菜箸」

フランスには箸の文化がありません。卵を混ぜるときは泡立て器、焼くときにはフライ返しや木べら、盛り付けにはトング。1つの料理を作るのに、いつくもの調理器具を使うことになります。料理をしながら流しに洗い物が溜まっていくと憂鬱になりますよね。

その点、菜箸は混ぜる、炒める、ひっくり返す、盛り付ける、が全てできるんです。さっと洗えば、他の料理にもすぐ使える。菜箸1つで何でもできるので、キッチンがすっきりします。日本人には当たり前すぎて意識したことがないかもしれませんが、こんなに万能な調理器具は他にありません。来日したフランスの義母が、「これ便利ね!」と買って帰ったくらいです(笑)。

楽しく食べる、を意識する!

食事は毎日のことです。その毎日のことが辛かったり、楽しくなかったりするのはもったいないと感じます。そのために私ができることは、料理が楽しくなるコツを伝えていくことだと思いました。

献立を考えることや、作ることがもっと楽になってほしいし、作ることが楽しくなったら、食べることももっと楽しくなると思うんです。

食事って、家族みんなで同じことを共有できる唯一の時間ですよね。“楽しく食べる”ということにスポットを当てると、料理に対して感じていた辛さや大変さから、少し解放されるかもしれません。

(TEXT:上原かほり)

タサン志麻さんの最新著書

志麻さんの台所ルール: 毎日のごはん作りがラクになる、一生ものの料理のコツ』(河出書房新社

「私は普段料理をする上で、レシピよりも大切なことがいっぱいあると考えています。その大切なことを、言葉で伝えるために作ったのがこの本です。文字が多いので、活字が嫌いな方は読むのが面倒かもしれませんが…(笑)。読んでいただいたら「なるほど!」と思ってもらえるようなことを、しっかり言葉にして書きました。毎日の料理に悩んでいる方には、少しでも役立つことがあると思うので、たくさんの方に読んでいただきたいなと思います。そして、料理が楽しくなってほしいです」(タサン志麻)

タサン志麻さん

Ⓒ宮本直孝
大阪あべの辻調理師専門学校、辻調グループ・フランス校で学んだのち、ミシュランの三ツ星レストラン等の厨房を経て、フリーランスの家政婦として活動開始。「沸騰ワード10」など数々のTVに出演。著書多数。

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