【体の内側からキレイを目指す!美腸ライフVol.25】食と健康のエキスパート・管理栄養士の藤橋ひとみさんが「腸活」に関する豆知識をお届けする連載。「腸」は美容・健康の鍵を握る臓器。様々な心身のトラブルの解消のために、日々の食生活の中で継続して実践できるメンテナンス術を、分かりやすくご紹介していきます。
ここ数年、長らく腸活ブームが続いていますが、腸が免疫と関連しているとメディアでよく取り上げられることから、アレルギー対策のために腸活に取り組んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これからの季節、スギ花粉が飛ぶ時期になるため、花粉症を心配されている方も多いはず。今回は、腸活をすると本当に花粉症をはじめとするアレルギーの予防や症状の緩和につながるのか? 改めて最新のエビデンスをもとに、解説をしていきます。
喘息、花粉症を含むアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患は、第二次世界大戦以降に罹患者が急増し、今では大人から子どもまで多くの日本人を悩ませています。実は日本全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患していることが示されており、急速に増加している傾向があります。[1,2]
皆さんの周りに、少なくとも1人は花粉症の方はいませんか? 花粉症の発症状況については、各地方の植物の種類や花粉の数によって異なるため、なお検討の余地が残っていますが、厚生労働省の協力による全国調査では、国民のおよそ25%、約4人に1人が罹患されているのではないかと考えられています。[3]
多くの方がアレルギーに悩まされる中で、その対策が急務とされており、アレルギーに関するさまざまな研究が行われています。その中で、腸内環境との関連も見出されてきました。まだ詳細なメカニズムまでは解明されていませんが、腸内フローラとも呼ばれる腸内細菌叢が体の免疫システムに関係していることが明らかにされてきています。例えば、喘息やアトピー性皮膚炎における免疫機能障害がある人は、健康な人に比べて腸内細菌叢の多様性が低い、つまりは腸内環境が悪い傾向があることなどが報告されています。
まだ腸活がアレルギー症状の予防・改善に貢献するのかを直接的に調べた研究がほぼないため、腸活がアレルギーの予防・改善に効果があるのかどうかを現段階ではっきりと述べることはできません。しかし、腸内環境の状態がアレルギー性疾患において複雑な役割を果たしていることまでは明らかにされてきているので、今後の研究成果に期待しつつ、腸内環境の改善にもつながる健康的な食習慣をしていくと良さそうです。[4,5]
実は、国際誌に掲載されている論文を調べてみたところ、花粉症だけにフォーカスして行われた研究はなく、ハウスダスト等の他のアレルゲンに起因する症状と併せた「アレルギー性鼻炎」と腸内細菌叢の関連が研究されていました。腸内環境とアレルギー性鼻炎との関連を検討した、現時点での研究報告の一部をご紹介したいと思います。
2021年に報告された、オーストラリアで行われたハウスダスト、花粉に起因するアレルギー性鼻炎を持つ成人患者57人とアレルギー疾患のない成人23人の腸内細菌叢を比較した研究によると、アレルギー性鼻炎を持つ患者では腸内細菌叢の多様性が減少している傾向があり、特定の腸内細菌の存在量が変化している特徴が見出されました。[6]
他にも、ここ数年で同様の研究が中国や台湾などで行われていましたが、結果は同様でアレルギー性鼻炎を持つ患者では健康な人とは異なる特徴的な腸内細菌叢を持つことが明らかにされています。[7-9]
まだ腸内細菌叢に変化が起こる原因やメカニズムについてはわかっていませんが、どうやら花粉症を含むアレルギー性鼻炎の発症に、腸内細菌が何かしらの形で関わっている可能性が見出されています。
まだまだ研究の余地が残っている、謎多き「腸」ですが、アレルギー疾患をはじめとする免疫系の他にも肥満や生活習慣病など、私たちの健康と密に関わっている臓器であることは確かなようです。
花粉症対策には、鼻と目に花粉が付着しないようマスクやメガネで外側から花粉の侵入を防ぐことはもちろん大切ではありますが、粘膜を傷つけるリスクのあるタバコを控えたり、規則正しい生活やバランスのとれた食事を心がけることも有効だと言われています。[3]
医学的には、特に花粉症に良いといわれる1種類の食材を多く摂取しても、大きく症状が悪くなったり、良くなったりすることはないと考えられていますので、ネット上に広がっているデマには惑わされないように気をつけながら、基本的な対策をしっかりと行っていきましょう。
何はともあれ、美腸ライフを意識した食習慣で腸内環境を良い状態に保つことは、アレルギーだけでなく私たちの健康に役立つことばかり。体の内側からのアレルギー対策として、日々口にするものに目を向けてみてはいかがでしょう?
〈参考文献〉
[1] 令和元年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究, 日本のアレルギー疾患はどう変わりつつあるのか
[2] 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課, アレルギー疾患の現状等, 2016年
[3] 環境省, 花粉症マニュアル2019年改定版
[4] M Pascal, et al. Microbiome and Allergic Diseases. Front Immunol. 2018; 9: 1584.
[5] DG Peroni, et al. Microbiome Composition and Its Impact on the Development of Allergic Diseases. Front Immunol. 2020 Apr 23;11:700.
[6] AM Watts, et al. The Gut Microbiome of Adults with Allergic Rhinitis Is Characterised by Reduced Diversity and an Altered Abundance of Key Microbial Taxa Compared to Controls. Int Arch Allergy Immunol. 2021;182(2):94-105.
[7] L Zhu, et al. Gut microbial characteristics of adult patients with allergy rhinitis. Microb Cell Fact. 2020; 19: 171.
[8] X Liu, et al. Dysbiosis of Fecal Microbiota in Allergic Rhinitis Patients. Am J Rhinol Allergy. 2020 Sep;34(5):650-660.
[9] YJ Su, et al. Differences in gut microbiota between allergic rhinitis, atopic dermatitis, and skin urticaria: A pilot study. Medicine (Baltimore). 2021 Mar 5;100(9):e25091.
(すべて2022年2月5日閲覧)
※ 記事のメイン写真は記事をイメージして選定させていただきました
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I’s Food & Health LABO.代表。フリーランス管理栄養士として、商品開発やレシピ開発、コラム執筆やメディア出演、コンサルティング等、幅広く活動中。同時に、東京大学大学院にて医学博士取得を目指し、栄養疫学の研究に取り組んでいる。豆腐や豆乳、ソイオイル、味噌など、大豆関連の資格を多数所有し、大豆や腸活分野の専門家として活動する中で、最近は日本人が不足しがちな食物繊維の宝庫である「おから」に注目し、有効活用できる方法を広げる活動に注力している。著書「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ(ベストセラーズ)」
●所有資格
管理栄養士、調理師、製菓衛生師、豆腐マイスター、食育豆腐インストラクター、豆乳マイスタープロ、おから味噌インストラクター、ソイオイルマイスター、おから再活プロデューサー、インナービューティープランナー、ほか