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ごはんもの・麺類

ワシワシ食感がたまらない。祖父が打ってくれた「武蔵野うどん」の思い出

【“クックパッド芸人”藤井21のソロ飯 vol.37】クックパッド芸人を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。一人(ソロ)で作って一人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。

僕が食べていたうどんは皆とちょっと違った

方言だと思わずに使っていた言葉というものが誰しもあるだろう。

僕は埼玉県の東松山市の出身だが、ほかの地域の人からしたら、埼玉県は一応首都圏だし、東京都にも隣接しているので、そこまで方言があるように思えないかもしれない。ただ、実際のところ日常生活で聞いてきた言葉が方言だったのか、と後から気づかされる事がままある。

例えば「かんます」※1 とか「おっぺす」※2 とか「しとっぽい」※3。このあたりの言葉は東京で聞いた事がない。もっとたくさん日常的に耳にしていた言葉もあるのだが、あげだしたらキリがない。

さて、この方言の気づきと似た現象が食べ物にもあるんじゃないかと思う。前述の地元・東松山市では、豚のかしら肉に味噌ダレを付けて食べる料理を「やきとり」と呼ぶ。居酒屋でお馴染みのやきとりは、東松山市では豚のかしら肉で提供されるのだ。この事に何の疑問も抱かずに子どもの頃を過ごしていたので、鶏肉のやきとりの存在を知った時に衝撃を受けた。

もっと小規模で言うと「天丼」だ。母親は天ぷらを作る時、一気にそして大量に作るのだが、翌日余った天ぷらを甘辛い醤油味のつゆで煮て、卵でとじてご飯に乗せたものを「天丼」と呼んでいた。これが僕にとっての天丼だった。だから未だに、揚げたての天ぷらをご飯に乗せて甘いタレのかかった天丼を見ると、これは天丼じゃない「天ぷら乗せご飯」だと思ってしまう。

そんな食べ物の小さな気づきが最近もあった。「うどん」だ。あのうどん。もはや説明がいらないほど認知度があるうどんだが、子どもの頃に僕が食べていたうどんが、どうやら皆が言ううどんとはちょっと違うものだと後から気づいた。

うちの実家には「うどん小屋」と呼ばれるプレハブ小屋みたいな小さな建物があった。そのうどん小屋は、祖父が趣味で勝手に自宅に増設した“うどんを打つための小屋”で、およそうどんを打つために必要な道具が一通り揃っていた。生地を捏ねる為の木の大きい台、長い麺棒、プロパンガスから直接ガスを引いた業務用のコンロ、そして寸胴みたいに大きい鍋。土日になると、祖父はよくうどん小屋でせっせとうどんを打っていた。

祖父が打つうどんは四角い極太の麺で、コシが強いを通り越してワシワシ※4 していて、それを豚肉や長ねぎ、油揚げや野菜がたっぷり入った肉汁につけて食べる。それが祖父がうどん小屋で打っていたうどんだった。

そんなうどんが「武蔵野うどん」だというのを知ったのはだいぶ後、大人になってからだ。

武蔵野うどんは旧武蔵国に広く伝わるうどんで、他のどのうどんよりも太麺でコシが強く、無骨な見た目が特徴だ。豚肉の旨味と野菜の甘味が溶け込んだ濃い醤油色の肉汁につけて食べるのが定番で、冷たくしめた麺を熱々の肉汁につけるのもまた特徴的だ。どうやら子どもの頃に食卓に並んでいたあの武蔵野うどんは、他のどの家庭でも昼飯で食卓に並んでいなかったらしいし、そしてどの家庭にもうどん小屋なんてものは存在していなかったらしい。

この武蔵野うどんが大人になって無性に食べたくなる時がある。あの太い麺を熱々の肉汁につけてワシワシ食べたい...。

ただ問題がある。武蔵野うどんはなかなか売っていない! 冷凍、チルド、乾麺、これだけ色んな種類のうどんが買えて、最近じゃスーパーでご当地うどんも買える時代なのに、武蔵野うどんだけは手軽に手に入らない!

……なければ自分で打つしかない。あの頃うどん小屋で祖父が打っていた武蔵野うどんを! そして記憶を頼りに肉汁を作るしかない!

やっぱり武蔵野うどんはワシワシした麺が食べ応えがあって、肉汁はそれだけで米のおかずになるんじゃないかってくらい旨味が濃い。そして、冷たい麺を熱々につけるので適温になって食べやすい。やっぱり武蔵野うどんは旨い。

この麺がスーパーに並ぶその日まで、僕は武蔵野うどんをおっぺしていく。

※1 かんます:かき混ぜるの意
※2 おっぺす:押すの意
※3 しとっぽい:湿り気がある、水分を含んでいるの意
※4 ワシワシ:コシが強くて非常に食べ応えがある麺の意

藤井21(ふじいにじゅういち)

料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。

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